ダンジョン
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
チャイムと同時に号令が響き渡り、教師が教室から出れば即ち放課後だ。
「ん~、終わった」
肩をほぐして教科書を鞄に詰め込む、錬金術の授業は面白いが先生が奇抜だ。目の前で石ころを金塊に変えて即座に石炭に変えたり、水をワインに変えたり、本物の賢者の石を文鎮代わりに使ったりする変わり者だな、楽しいけど疲れる。
おっとカレンと合流してダンジョンで肉を狩って帰るし早めに行動するか、遅いとそれだけ夕飯が遅くなるからな。
帰り支度をさっさと済ませ、カレンに一報入れてから同行する姫鬼と狂、ライの元に向かう。
「用意できたか?」
「おう」
「問題ないのだわ」
「ぴ!(できた)」
「じゃ行くか、校門で待ってろだとさ」
一報入れた返事で『校門で』との事なのでそこまで四人ぞろぞろと(一人?は飛び跳ねながら)校門まで向かった。
校門に着いてすぐ、紅は空を見据えて何かを引き寄せる様な仕草をして最愛の女性の名前を呼ぶ。
「カレン」
すると紅が視線をやる先の空間が歪んで黒いひび割れが入り、割れる様に空間に穴が開いた。黒く向こう側が見えないその空間の穴からひょいっと気軽に顔を出したのは紅が呼んだ人物、カレンその人だ。
「紅、お疲れ様」
「おう、カレンも態々ありがとな」
「いいのよ。一日家に居たから丁度いい運動になるわ」
別の場所同士の空間を繋げてその場所に行く事が出来る超高難易度の空間魔法『ゲート』(要するにど〇でもドア)によって宙に出来た穴から覗くカレンに、紅は学校で見せるよりも何十倍も輝く甘やかな顔で手を差し伸べる。
そんな紅に一緒に居た友人達がドン引きするのをスルーするのはいつもの事だ。
紅の後ろで引いている姫鬼たちを気にも留めずカレンは普通に差し出された手を取る。カレンにとって紅の甘やかな表情も優し気な声も、そっと触れてくる手も他にとっては目を剥くほどの事が普段通りなのだ。
紅の手を借りて地上に降りたカレンは朝と同じ緋色の矢絣の着物に臙脂の袴を身に着け、薄桃色のベールを被っている。足元は編み上げの茶色いブーツ、更におまけに家で普段使っているフリフリの白いエプロンを着けた大正ロマンの女中さんを思わせる可愛らしい姿だ。
「!!!!」
「ん?どうしたの?紅」
「か、カレン、なんでエプロン着けたままなんだ?」
驚きに目を見開いて固まった紅にカレンは首を傾げ尋ねる。
悶えて叫びたくなるほど可愛らしい惚れた女を前に少しのどもりだけで問いを掛けられただけ紅は冷静だ。
エプロンを外で着けない派のカレンなのでたいへん珍しい姿に若干どもってしまうのは仕方がない。だって可愛い。
「え?・・・あ、着けたまま来ちゃったわ恥ずかしい///」
「ぐはっ!」
否、冷静だった。と転成しよう。
頬を染め、恥ずかしそうにエプロンを脱ぐカレンを前に吐血しかける輩は冷静ではない。ただの馬鹿である。
わたわたとエプロンを外して小さく畳み、袖下に仕舞い込むカレンを紅は弛み切った顔でいつの間にやら取り出したカメラで撮りつつ眺めるさまは気持ち悪い。
なまじ顔が整っているだけに気持ち悪い。それでいてカレンは気付いているのかいないのか、特に気にした素振りを見せない。
いつ見ても違和感を覚える程の紅の豹変さにドン引きしつつも姫鬼たちはエプロンを仕舞い終えたカレンへとあいさつを交わす。
「本日はお世話になります。なのだわ」
「よろしくお願いします」
「ぴぴ!(おねがいします)」
「ええ、よろしくね。さあ、早く行きましょう。遅くなるだけ夕飯が遠退くわよ」
「「「「はーい(ぴ)!」」」」
口元に笑みを浮かべたカレンは急な泊りの事情を聞くことなくさっさと行動に移す。出会って半年も経っていなくとも頻発する姫鬼のストーカ騒動によって話しはサクサク進む、それだけの回数があったのだ。不憫。
校門前の坂を下り(流石に下りは姫鬼の息が少し切れただけで済む)、街の中心部にある各ギルドが邸を構える区域のさらに先、立派な石の壁に覆われ分厚い鉄の門が付いた区域に辿り着く。
その門の中にはダンジョンと呼ばれる不思議で立派な建物が一つあり、その周辺は広い広場と大きな建物、複数の屋台が立ち並んでいる。
ダンジョンとはあれだ。ファンタジーでよくあるモンスターが出てくる洞窟ないし建物の事だ。小説等で認知されているものとあまり変わらず、内部にはモンスターが生息し、モンスターからは魔石と呼ばれる魔力を含む石が入手でき、倒したモンスターは食料や武具、防具になる。
解体された素材は主に冒険者ギルドで買取され、商人に売られ市場に卸される。一部では商人に直接持ち込む者も居るらしい。
閑話休題
元来ダンジョンには結界が張られており、内部からモンスターが溢れる事は無いので壁や門は必要ない。しかし、街中にダンジョンが剥き出しのままあるのはいかがなものか、といった意見が多数ありダンジョンを覆う形で壁が作られ、その内部にダンジョンに入る者を対象とした屋台や建物が建てられた。
その建物のうち最も大きな建物の前には看板があり、看板には『冒険者ギルド解体専門出張所』の文字がある。
ここはダンジョンで獲れたモンスターを解体することを専門に冒険者ギルドが出している出張所だ。
直ぐ近くに本部があるのだが、素材の買取や狩ったモンスターの解体や解体依頼をするのに利便性が良く評判がいい。
因みに、以前は冒険者ギルドは何でも屋のような印象であったが、世界統合後の今は主にダンジョン関係の依頼を多く取り扱い。その他の対人関係を渡し屋ギルドが主に取り扱うことで住み分けをしている。
紅達もここを利用して解体依頼を出すつもりだ。いつもの事なので紅がギルドへ、カレンは同行者たちを連れてダンジョン内へと向かう。二人の場合は離れていても問題なく意思疎通と居場所の把握ができるので特に集合場所を決めることなく二手に分かれた。
※ ※ ※
出張所に入って直ぐにカウンターがある。その隣には今日この場所に詰めている解体専門の冒険者リストが貼り付けられたボードあり、そのリストを見て誰に依頼を出すかを決め、その人物への指名依頼としてカウンターで受理してもらうのがここでのやり方だ。
カウンターを右に曲がった奥には酒場があり、ダンジョンから帰ってきて解体の終わりを待つ依頼者や今日分の解体作業を終えた冒険者が一杯ひっかけているため騒がしい。
そんな喧騒を横目に紅はまっすぐにカウンターへと向かう。
「よ」
「お、紅か久々だな。解体依頼か?」
「ああ、今から狩りに行くから、一時間ぐらいか?その位に戻ってくる」
「分かった。依頼書は先に書いとくか?」
「ああ」
「じゃこれに頼む」
カウンター内に居た顔なじみの受付に話しかければサクサクと話は進む。普段から利用しているので特に問題もなくボードの中からいつも頼んでいる人物を見つけその人物への指名依頼とする。
「ほい、出来た」
「おう、・・・問題ない。じゃ一時間後ぐらいって言っとくわ」
「頼んだ」
「おうよ。きーつけろよ」
依頼書を提出し、簡単な確認を終えるとさっさと背を向け歩き出す。顔なじみからの言葉に手をひらりと振って答え、紅は出張所を出てカレン達を追ってダンジョンへと足を向けたのだった。




