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昼休み

 教室に行ったあとは特になにごともなくホームルームが始まる。

 え?変質者について?それなりにある事だから姫鬼関連って一言で終わったよ。時間操作の結界のおかげでホームルームにも遅れなかったし、何も問題ないな。


 ホームルーム後も特に問題なく授業に入り、ごく普通の学校生活の時間が流れた。



        ※         ※         ※



 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


「あ゛ー午前終わったー」


 チャイムの音と同時にノートを閉じて腕を伸ばす。肩からバキボキと音がするが、半日机に向かえばそんなものだろう。

 しかし相変わらずルーン文字の授業は頭痛くなるな、字そのものに力があるから習うだけで弊害が出る。


「姫鬼と狂は購買?」

「いや弁当」

「今日は姫鬼様担当の日なのだわ」

「まじかー上達したか?」

「すると思うか?」

「いんやまったく」

「そう言う訳だ」

「でも愛情はたっぷりなのだわ!大丈夫、鬼の胃袋は鉄並なのだわ!全部食べ切るから安心して欲しいのだわ!」

「狂・・・ありがとな」

「姫鬼様の手作りだもの、当然なのだわ」


 うわ、一瞬で二人の世界にしやがった。つか狂は相変わらず姫鬼のポイズンクッキングを食してるのか、体に悪くはない。むしろ材料は健康的だし軽く錬金術を齧ってるのもあって食べれば食べるだけ力になる。まさに『身になる食事』ではある。が、


「うわ、真っ青・・・」

「匂いがしないだけマシだ」

「目にも来ないし十分なのだわ」

「うわー・・・」


 いかんせん見た目と味が最悪だ。

 前に一口貰ったが、舌を刺激する痺れに鼻を抜ける何とも言えないにおい。見た目もおよそ食べ物とは言えない色彩に何だか分からない肉片や草の欠片が浮いているスープだ。


 食べた後は胃もたれと下痢に襲われるため消化器官の弱い者には食べられない。舌の痺れで味が分からないのが救いだな、うん、すげえポイズンクッキングだ。しかし翌日には体力回復と神通力等の回復と増加、筋力増加に精神安定が見られる。要するに万能ポーションの様な効果があるので正確にはポイズンではなく、メディシンクッキングだ。食べられればの話だが。


 ヒトによっては大金積んででも欲しがる奴もいるとは思うが俺はごめんだな、丸一日は味が分かんなくなるからカレンの飯を台無しにする。つか、もう食事じゃなくて薬として売ればいいと思うんだが、売れない事情でもあるんか?


「紅君も今日はお弁当なのかしら?」

「おう、カレンの愛妻弁当だ!」

「お前ら結婚してないよな?」

「嫁にするって決めてるし良いんだよ。大体、何がなんでもモノにするに決まってるだろ?」

「・・・あっそ」

「熱烈なのだわ!」


 二人の世界から帰ってきた姫鬼と狂と昼食だ。

 姫鬼が紅の発言にドン引きしたり、狂が興奮したりはしたが何事もなく食事は進む。


 姫鬼達の弁当とは違って俺のはいたって普通だ。

 大ぶりな3段重ねの弁当箱の一段目に人参、牛蒡、マンドラゴラの肉巻き、茄子、蓮根、ベニテングダケの肉挟み、ウツボカズラ擬きの肉詰め、ナイトメアとジャガイモの炒め物、ジャガーと糸根若(いとこんにゃく)玉根木(たまねぎ)の炒め煮といった肉を中心にしたおかずがぎゅうぎゅうに詰まっている。

 二段目はサバの梅肉シソ挟み揚げ、魔黒(まぐろ)の血合いの漬け焼き、クラーケンの香草炒め、滅法貝(めっぽうかい)とほうれん草のお浸し、ヒュドラのつみれと魚介類のおかずがぎゅうぎゅうに詰まっている。

 三段目は腹持ちの良い雑穀米がこれまたぎゅうぎゅうに入り、更に梅干しを混ぜた白米の特大おにぎりが三つ、間食用にある。

 うん、今日の弁当もうまい。


「相変わらずよく食うな」

「姫鬼と違って体が資本の成長期だからな」

「俺だって成長期だ!まだ伸びるに決まってんだろ!つか俺だってそれ位食えるわ!」

「姫鬼様も他の鬼並み食べるもの、これからまだまだ伸びるのだわ」

「おう、当ったり前だ。つか紅は人間のくせに食い過ぎじゃね?」

「成長期だからな」

「あんまり食べ過ぎると肥え太るのだわ」

「食った分だけ動いてるし問題ないだろ、ときにお二人さん」

「んあ?」

「だわ?」

「本日はどうするんで?」

「あー」

「え-」


 紅の唐突とも言える質問に姫鬼と狂は声を上げて顔を見合わせる。

 そのままアイコンタクトで会話をし始めたので構わず弁当に意識を戻した。うん、ベニテングダケ毒抜きがめっちゃうまい。うまみを残したまま毒素を無効化する術を施してあるから高いんだけどな、自力で出来れば美味いよなぁ。おっと、


 ベシン!!


「ぷび!」

「勝手に弁当に手出すとはいい度胸だな、スライム野郎」

「ぷーぷーぷー!(種族名やめい!)」


 机の下からそろりと伸ばされて来た触手を軽い電気を流しながら叩き、声を掛けると足元から抗議の鳴き声がする。

 紅の足元からする声の主は薄い水色の水の塊、ではなくスライムのライだ。スライムという種族柄不評被害を受けることもざらにあるので種族名で呼ばれることを嫌っている。

 ダンジョンに出る自我無きモンスターの類ではなく、自我の有るヒトとしてこの世界を謳歌している。スライム族は任意の物を溶かしたり、体内に物を収納して安定して持ち運べたり、流動型の体格を生かして入り込めない所に入ったりすることができるので、ごみ処理施設や運搬業、危険物取扱、意思疎通が容易なら警察関係と幅広い場所で働ける大変器用な種族だ。

 ライはスライム族としては珍しく高等学校まで進学し、特待生を獲得したクラスメイト兼友人だ。


「なら横から手出すなよ、言えば分けるから」

「ぷー?ぷーぷぴ!ぷーぷーぴー(ホントか?なら野菜くれ!あと鉄分取れそうなの)」

「鉄・・・血合いか?野菜は、肉巻きの人参と牛蒡、マンドラゴラ、あとは玉根木とか?」

「ぷー!ぷぷ?ぷぴ?(血合い!!マンドラゴラ?鉄?)」

「栄養価は高いし、少し手加えてはいるし鉄分もとれるかもな、あ、ホウレン草あるわ」

「ぷぴー―!ぷぷぴ!(ホウレン草!!ちょうだい!!)」

「おう、今蓋に取ってやるから、つか床に居んなよ机上れ」

「ぴぃ(布持ってない)」


 紅の言葉にライは、それはそれは悲しそうな声で鳴く、というのもライはテーブルなどの食事をする場所に直接上る事を嫌うからだ。

 基本的にスライム族は服を着ない。当たり前だな、スライム族は色のついた水の塊にしか見えない流動系の生き物だ。形が定まっていないのに服など着られない。精々被り物を体の上に乗せるぐらいだ。その為土足の床や地面をそのまま這って移動するしかない。

 地面と接触していてもスライムは体に触れているものを体内に取り込み分解する事が出来るのでその体は清潔なのだが、スライムとの相席を嫌がるヒトはいる。

 そういった事もあってライは何かしら体の下に布を引いた状態でないと机に乗りたがらないのだ。


「あ、ライさん私ハンカチ持ってるからここに上がるといいのだわ」

「お、ライこっちのも食うか?」


 とそこに姫鬼と狂が無言の話し合いから意識を戻してきて紅とライとの会話に入ってくる。狂のハンカチの提供にライがぽいんっと跳ねて喜び、机の脚を伝って上に登りハンカチの上に座る。


「ぴー!ぴぴぺ(狂ちゃんありがと!そっちはいらん)」

「どういたしましてなのだわ」

「あ?食えんだろ」

「ぷぴー(まずい)」

「あ゛?」

「ぷぴー(まずい)」

「あ゛あ゛?」

「ぷぺ、ぷぴー(姫鬼の飯、まずい)」

「チッ」


 紅が蓋に弁当を取り分けている間に姫鬼のメディシンクッキングをまずいの一言で断り、体を揺らしながら紅からのおすそ分けを待つ。

 

「ほい。野菜は多めな」

「ぷー!!ぴぱぺ(ありがと!!いただきます)」

「鉄が欲しいなんて昨日何かあったのか?」

「ぷぷ、ぷー、ぴぷー、ぷぷ?(昨日冒険者ギルド内の掃除依頼受けたんだけどな?)」

「ギルド館の掃除か、それで?」

「ぷぴー、ぴーぷー、ぷぽん!(新人の世間知らずに攻撃された!)」

「「「あー」」」


 ライの言葉に紅達三人は揃って声を上げる。

 居るのだ。未だに現実と妄想の区別のつかない困ったヤツ(中二病)が、そういった者は街中の隣人に迷惑をかけるので本当にやめて欲しい。


「ぴ!ぷぺん!ぷぴぽ!(ムッ!として、かゆくなる液ぺっ!て吐きつけてやった!)」

「あー、溶液作るの大変なんだっけ?」

「ぴ、ぷぺ(うん、疲れた)」

「回復に鉄?」

「ぴ(うん)」


 スライムは体内で溶液を作る。その効果は様々だが大体は種ごとに変わるが、ライは珍しい個体で様々な溶液を体内生成できる。

 しかしこの溶液、人間で言う所の血液の様なものなのであまり使いたいものではない。普段は体内に溜め込んだ水を圧縮したりなどして撃退するのだが、その新人は余程ライの腹に据えかねることを口走ったらしい。


「鉄分欲しいなら尚更こっち食えば?今日は鉄分入ってるぞ」

「び!(え゛)」


 ライの説明に姫鬼はずずいと自身の椀をライに近づける。

 それにライは嫌そうに身じろぎするが、ハンカチから出てしまうため動けずその場で震えるだけになる。

 たとえ豊富な鉄分が入っていようが、食べた翌日体調がすこぶる良かろうが不味いモノは不味い。動きが鈍くなり、分解能力が落ちる事から考えるに消化不良を起こしている気がする。あとなんか体が紫色に染まるからモンスターのポイズンスライムに間違われて攻撃される回数が増えるので、


「ぴ!(やだ!)」

「だってさ、ポイズンに間違われるのは嫌だな」

「ぴ!ぷぴぷ、ぴぴぷぺ、ぴ!(いや!二日連続で切られんのいや!)」

「ライに押し付けないで自分で食切るんだな」

「チッ」

「つか、そんなに不味いならむしろ味なくせよ。無味無臭無色なら水みたいに飲めるんじゃね?」

「・・・・・はっ!」

「今気づいたんかい!」

「ぷぺ(ばか)」


 今気づいた!!と言わんばかりに目を見開く姫鬼に、紅はライの前に置いた蓋に更に数種類取り分けてやりながら盛大に突っ込み、ライは紅に頭を下げる様に体を揺すった後にべもなく姫鬼を罵倒した。

 姫鬼はあれだ。頭はいいが抜けてるタイプだからな、しょうがない。ライはもうちょいオブラートに包んでやって欲しい。


「粘度もあるし、臭いや渋み?も有るのだわ、水みたいにできるものなのかしら?」

「今回は臭い訳せてるし、あとは味だろ、無色でなくとも飲めるし」


 まあ、狂の疑問も最もだな、味を感じなくなるほどの渋みって何だよ。今回はともかく前回とか涙出るほど臭かったし、即行部屋の窓全部開けて風起こして外に出してにおいを遮断する結界張ったけどな。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来るとは思う。ただ効力が落ちる」

「つか姫鬼よ。飯にポーション張りの効果を付属させようとすんなよ。素直に薬膳料理程度にしとけし、或いはせめて一品にまとめんな、複数の料理を作って全部食べたら効果が出る様にしろよ」

「!!!」

「・・・今気づいた?」

「おう」

「おまえ・・・」

「ぷぺ(ばか)」


 突っ込む気力もない紅の横でライはもう一度姫鬼を罵倒してから、紅に取り分けて貰った弁当を器用に触手で一つずつ取っては口の様に開けた穴に入れてはもぐもぐと体を動かす。人間臭いその行動は愛嬌があり、見ていて楽しい。

 味覚は備わっているらしく時々体をぷるんっと揺するのは好みの味の時だ。嫌いな味はブルブルと震えるので分かりやすい。それでも吐き出さずに消化しきる辺りは行儀がいい。


「ぴー!(おいしい!)」

「カレンに言っとくは」

「ぷぺ(こんどお礼したい)」

「あー、なら今日するか?」

「ぷぺ?(今日?)」

「ああ、姫鬼がストーカにあったからな、どうせ二人共今日はうちに泊まるで話付いたんだろ?」

「おう」

「お世話になるのだわ」


 先程聞いた『どうするか?』の答えがこれだ。変質者は一匹見たら二、三匹が常だ。姫鬼たちの家を特定されるのは非常にまずい。姫鬼の術の腕前が高かろうと狂が赤大角持ちだろうが、"一応"一般人の括りに入る二人をそのまま家に帰す訳にはいかない。

 他に鬼達もいる実家暮らしなら兎も角、二人は学校近くのマンションを借りて同棲している。その場所は特定されていても不思議ではない。妙な術を持つ者に待ち伏せされて襲われた一大事だ。

 特に今の世界は自己防衛の為に相手を殺す事は出来ない。正面切ってなら兎も角、搦め手で来られた場合は強者が弱者に食われる強肉弱食も大いにあり得る。

 その為ストーカ騒動があった場合は大抵姫鬼と狂は紅達の家に泊まる。紅もカレンも変質者の効率的な捕らえ方も、いざというの時の対処方法もばっちりで家は要塞並みの鉄壁を誇り、Aクラス以上の『次元』『時間』に特化した実力者でもない限り場所の特定が不可能なレベルで家の隠匿を行っている。更に中の住人は高クラスのプロの渡し屋だ。

 これらを突破してくるような輩はそんなまどろっこしい事はせずに真正面から来るので世界ルールで完全拒否すればいいだけだ。


「姫鬼たち来ると夕飯の食料足りなくなるし、ダンジョンで狩って行く事になるから血抜きしてほしいんだわ、得意だろ?」

「ぴ!ぴぴ、ぷぺ!(うん!鉄もとれるし、任せて!)」

「おう、任せた。あ、返信来たわ、ちょい待ち」


 話の途中で紅は言葉を切り、空に視線をやる。機械類を使はないテレパシーの一種を使った遠距離通信での連絡方法だ。

 テレパシーと聞くと特殊に聞こえるが、一対一、或いは一体多数相手に直接自身の意思を伝える術をテレパシーと定義している。

 先程から紅達とライが問題なく意思疎通が出来ているのもこのテレパシーを利用しているからだ。

 ライ達スライム族は普通の生物と違い発声器官をもたない。その為自身の意思を伝えるために体内魔力を使って空気を振動させて鳴き、その鳴き声を聞いた者にその意思を伝える一体多数方式のテレパシーを使っている。

 紅とカレンの場合はライとは違い意識共有の応用を使った一対一方式だ。

 意識共有は離れた相手と視界や聴覚の共有なども出来、便利ではあるが、あまり一般的ではない。というのも下手をすると相手を乗っ取り罪を被せたり、完全に体を入れ替えたりなどが出来る。そのため余程の信頼関係がなければ使はない。

 また、自分と相手を区別したり、自分以外の五感情報を同時に処理するのが難しく、扱いきれる者が少ない。

 紅とカレンが問題なく利用しているのは互いへの絶対の信頼と尋常ならざる並行思考能力を有しているためだ。


「姫鬼たちの件了解、ライも来いって、飯何が良いかだけ連絡くれってさ」

「肉!」

「ぷ?ぷぷぺ!(いいの?血まみれ肉!)」

「二人とも野菜も食べるのだわ」

「肉と野菜な、姫鬼と狂は舌の復旧しとけよ」

「「はーい」」

「帰りにカレンと合流してからダンジョンに狩りに寄るから、心の準備はしとけよ」

「「「はーい/ぴ!」」」


 こうして三人の割とよくあるお泊りが今回も決まった。

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