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婚約者

 その後も出るわ出るわのオンパレードで冷や汗をかきつつもボディーチェックを終わらせた。途中で物凄い形相で見られているのに気づき、立ったまま気絶させたがまあ問題ないだろう。

 見せられないようなものは四次元布袋に入れ、違法性の見られるものは鍵付きの四次元ボックスに入れてから布袋に入れた。見られても特に問題ない物が無かったので、小振りの四次元布袋と学生カバンを持った状態で件のおっちゃんから1、2歩離れた壁に背中を預けて姫鬼の呼んだヒト達が来るのを待つ。


 え?近くに居なくていいのかって?だって近寄りたくないじゃん?変態だよ?

 一応廊下その物にヒト除けの結界を張って、おっちゃんには対魔、対物理の結界張って、更には生命維持活動に必要な内臓しか動かせない様に術で縛ってあるし、たとえ内部で爆弾が爆発しても強酸の毒被っても校舎事ぺしゃんこにされたって時間の巻き戻しすれば生き返るし大丈夫じゃない?


 しっかし姫鬼も変なのに目を付けられたよなあ、持ち物のラインナップ的に快楽で廃人にして、肉体的に削て繋いで飼うって感じだろ?しかも妊娠促進剤とかあったところを見ると・・・うん、考えるだけで吐き気がし来たからやめよう、もっと有意義なことに頭使いたい。

 にしても姫鬼遅いな、そろそろコイツと同じ場所に居るのも嫌なんだが、ん?


「おーい!」

「お、やっと来たか」


 廊下の向こうから姫鬼が戻ってきた。おっちゃんの背中側の通路からヒトを呼びに行った姫鬼と教室で捕まえたであろうクラスメイトが一人、その二人の後ろに続くのは風紀委員会の顧問であるリ先生だ。

 リ・ソルジュ先生、長くきれいな黒髪に切れ長の黒目、すらりとした体格の中華系の美男で太極拳の達人だ。女子生徒の目線を釘付けにする男性教師だが、理性的な見た目に反した武闘派で、何かあると口より先に手や足が出るタイプだ。その為後ろ暗い所が有ると恐怖の対象だが無ければ大変頼りになる教師である。


「悪り遅くなった」

「大丈夫、大丈夫、ちょっと持ち物検査でSAN値が削られただけだ。大丈夫だ。問題ない」

「それは大丈夫じゃないフラグだろうが!!てか何持ってたんだよ」

「リ先生これをどうぞ」

「ああ」

「おいこら無視すんな」


 姫鬼からの問をスルーして四次元布袋をリ先生へ渡す。狙われた本人が見るにはちょっとあれな品々なので気を使っておくが、本人がどうしても見たいと覗き込むなら致し方ない。ショックを受けて貰おう。一応は止めるけど。


「見ない方が身の為だな」

「は?見るに決まってんだろ」


 ですよねー!!

 うん、知ってた。姫鬼は止められると寧ろ進むタイプだもんな!普段はわざとそういう所突いて嵌めることはよくあるし、寧ろ進むことを推薦するときも使うもんな!でもこれ振りでも何でもないんだけど!


「完全にアウトだな」

「!!??!!??!!!????」


 リ先生と共に袋の中を観覧した姫鬼の反応は、まあ予想通りだったな。

 先生はすっごい冷静に分析してる様に見えるけど眉間に皺が寄ってるから嫌悪してるんだおうな、まあ見るからにヤバめなの多いからな。違法性がないってだけで年齢制限が入る道具も普通にあったし、まず学校で見られるべきものじゃない。本当にヤバイ奴が入り込んだもんだ。


 袋の中を見て固まった姫鬼は、次の瞬間には般若の様な顔で不法侵入者を睨め付ける。それは正に鬼の形相だ。


「ざっけんなテメエェ!俺は!!男だ!!!!!」

「!?!?」

「あーそこか~」


 気絶させていた不法侵入者の意識が戻るほどの怒気で姫鬼は侵入者に怒鳴り散らす。怒鳴り起こされた侵入者は行き成りの事に驚いたのか、それとも自分が目を付けていた美人が美()()であった事に驚いたのかは分からないが、動かせず声も出せない身で驚愕している事だけは分かった。まあ知る必要はないな。

 そう、姫鬼は男だ。

 たとえ、濡れ羽色の髪に切れ長の黒曜石の目、銀縁の眼鏡が絶妙に似合う美人な顔立ちに白くシミ一つない肌、細い手足に華奢な体にはお嬢様の様な気品を併せ持っていようが、姫鬼は正真正銘の男だ。

 水着も海パン一丁だし一緒に風呂に入ったことだってあるし、大変可愛くて頼りになる婚約者だっている。滅茶苦茶ラブラブのな、故にこいつは女に見られることを物凄く嫌う。

 当然だな、惚れた女が居るのに女扱いされるとか屈辱以外の何でもない。

 しかし世界は無情だ。コイツは性別を凌駕した美人な為男にも女にもモテる。ピカピカに磨いてキラキラに装飾して見える所に額に入れて飾りたい。或いはニコニコと笑うだけのお人形にして侍らせたい。又はクスリやら快楽漬けにしてベットで鳴かせたい。剥製とかミイラとかホルマリンとかにして眺め続けたい。うん、碌でもないモテ方だな。


「大体磨いて飾って眺めたいとか変態なんだよ!笑うだけの生きた人形にしたいとか気色悪いんだよ!ヤク極めて鳴かせたいとか、サドかよ!剥製とかホルマリンとかネクロフィリアとかお断りだ!!どいつもこいつも!俺を何だと思ってんだ!!俺は男で生きてんだぞ!!!なんだってこんな気色の悪いのバッカなんだ!!!」

「ふぁいとー」

「生きろ」

「他人事だと思ってー!!!」

「「どんまい」」

「ちくしょーーー!」


 紅とリ先生の適当な励ましに姫鬼は腹の底から雄叫びを上げて不満を吐き出す。定期的にあるストレス発散方法の一つだ。捕まえたストーカー相手にあらん限りの呪詛を浴びせて最終的に叫ぶことで発散しているので別に手抜きで相手をしているわけではない。

 例え所持品の詳細を確認している最中でもだ。


 いつもであればこれをあと二、三回繰り返して姫鬼本人がデカい術をストーカーに放って終わる。世界ルール的に殺したり出来ないが、大技を相手に向けて放つことは出来る。放っても目の前で立ち消えるのだが、目前ギリギリまで迫る大技は精神が削れるので報復にはなるのだ。それで相手がもう一度気絶したらあとは警察に引き渡して終わりだ。

 いつもであれば、


「要するにこちらの不法侵入者の方は貴方を侮辱したということです?」

「以外の何だってんd、あ゛」

「あ」

「あー」


 そう、いつもであれば終わるのだが、今日はそれだけでは終わらないらしい。

 何故ならここには姫鬼、リ先生、紅以外にもう一人いるからだ。

 先ほどから喋らず成り行きを見続けているだけだったので忘れていた。が、コイツはヤバイ、何がヤバイって一度プッツンしたら手が付けられないのだ。

 そしてコイツがプッツンする最大の地雷は姫鬼だ。


「ならば殺す!!」

「おい!」

「やめなさい!」

「あちゃー」


 止める間もなく三人の横を通り過ぎて行ったのは吾妻(あがつま)(きょう)、立派な角を持つ鬼族の少女だ。

 姫鬼とは違いザ・鬼っといった能力値なので取り敢えず暴力で解決する派だが、基本的には話し合いに応じてくれる良心と特待生を勝ち取れるだけの頭脳の持ち主だ。しかしながら姫鬼に関する事はそうもいかない。姫鬼を侮辱したり侮った者や今回の様な変質者は問答無用で殺りに行く、何故なら、


「私の婚約者様への手出しは万死に値するのだわ!!」


 婚約者だからだ。

 相思相愛で大変仲睦まじいく、隙あらばイチャイチャするほど仲が良い。姫鬼が溺愛する婚約者とは狂の事である。

 姫鬼とは正反対の白髪に赤目のアルビノに姫鬼には見られない二つの赤い角、真っ白な肌に華奢な体、背丈も小柄でおよそ争とは無縁に見える白魚の様な手、姫鬼とは趣の違う守ってあげたくなる様な出で立ちの美少女だ。

 それが今、二対の角を光らせて侵入者に向かって強く踏み込んだ一歩はすでにトップスピードだ。その勢いを殺さずに体の捻りと遠心力を乗せた回し蹴りは術により動けない侵入者の横っ面に、


「っ!!」

「チッ!」


 叩き込めるはずはない。世界ルールによりこの世界全ての知性ある者はあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁じられる。つまり相手の承諾なしに傷つける事が出来ないのだ。

 しかし、勢いの乗った回し蹴りは不法侵入者の横っ面にギリギリ当たらない所で不可視の壁に阻まれ止まる。つまりそれは当たらないギリギリに十分に威力の乗った蹴りが叩き込まれたのだ。勿論それに伴う風圧、風切り音、蹴りを繰り出した者の殺気は浴びる。


 もしこれで気絶できれば侵入者は幸せだったろう。しかし、そこは紅の咄嗟の起点により『状態:気絶』が掛からない様に術を組み替えたので気絶することもなく侵入者は立っている。


「気絶出来ないように術組み替えてあるからやっちゃっていいよー」

「おま!」

「校舎が壊れるだろうが!」

「ありがとうなのだわ!」

「どういたしまして。あ、不便だからおっさんにこっちの声が伝わらない様に空気の振動調整してあるから普通に話して大丈夫だぞ姫鬼、先生も」


 さっきから名前を呼ばない様に話すの面倒なんだよ、相手が把握してるなら兎も角そうでないなら名前って情報をやる事になるからな、不審者の前では名前は厳禁だ。


「じゃあ言わせ貰うがな紅、なんで狂に加担してんだよ!危ねえだろ!!」

「おっさんが?」

「狂がだよ!あんな変態どうでもいいわ!狂になんかあったらどうすんだよ!」

「そっちじゃない、そっちじゃないぞ花鳥院、吾妻はたとえ校舎が倒壊しようが傷一つなく生還する様子が目に浮かぶが校舎が倒壊しては我らは無事ではない。あと他の生徒も危険になる故避けたい」

「おお、リ先生が長文を喋っておられる。珍しい」

「「それはどうでもいい!」」


 二人そろって突っ込まれてしまった。だって必要最低限しか喋んないせいであんまり声聞かない先生だし何となくラッキーて気がしない?

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