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 カレンに行ってきますのキス(無断)をして元気にマンションを出る。

 紅が特待生を勝ち取った高等学校は山を切り開い土地に建っており、敷地面積が広い代わりに校舎までが坂道だ。それなりの傾斜の坂が長く続く為毎年新入生泣かせの心臓破りの坂と言われている。

 元々体力のある新入生もいるが、基本的に高等学校まで来るのは頭脳労働専門ばかりなので最初の半年は死屍累々な一年生が多くみられた。

 紅の通う学園では日本の伝統色が強く校内では靴を履き替える為下駄箱が存在している。

 下駄箱の位置は学年、クラス事に違うが、一年生は毎年校門入って直ぐに下駄箱があるのはせめてもの恩情なのだろう。

 下駄箱は各クラスごとに設置されており、大体一年生は自身の下駄箱前で力尽き、屍の様に突っ伏しながら息を整え、靴を履き替えて教室に向かうのが恒例だ。


 そんな恒例などお構いなしにどちらかと言えば肉体派の紅は軽々と坂を歩き終え、校舎までたどり着いて死屍累々の一年下駄箱を軽い足取りで歩く、うっかり同級生を踏まないように歩く方が難しい気がする。

 そんなことを思いながら一年特待生用の下駄箱までくると、力尽きたと思われる同クラス生の屍を発見したので隣まで歩み寄り覗き込む。


「おはよう姫鬼(きき)、今日も死んでるな」

「ぜぇ、うっさぃ、この、体力、お化け、め、ぜぇ、ぜぇ」


 他一年と同じ恒例を目の前で行っているのは同じ特待生の花鳥院(かちょういん)姫鬼(きき)だ。毎回同じくらいに登校するので紅にとっては風物詩になっている。


「特待生は体力種目もあったろ。ホント鬼なのに体力なさすぎだな」

「そもそも、ぜぇ、体力が有ったら、はぁ、ここじゃなくて、はぁ、働いとるわ!!」

「そりゃあそうだ。よくここの試験を頭だけで乗り切れたよな」

「それしか、ないからな!はぁ」


 今のやり取りで分かると思うが姫鬼は鬼族でかつ体力がない。

 鬼は体力、気力、腕力、脚力等の肉体自慢で工事現場や採掘場、レスキューといった体力勝負の現場で活躍する一方で頭の出来が今一な種族だ。要するに脳筋種族である。

 たまに姫鬼の様な体の弱い個体が生まれるがそういった個体は働けず、一族の恥とされ差別の対象になった。昔は埋めてしまう事もあったらしいが、今は世界ルールによって阻止されている。『そうでもなかったら今頃ここに居ない』とは本人談だ。

 埋められはしなかったが差別の対象ではあったので中々に壮絶な子供時代だったらしい。がその辺は割愛されて聞いた事は無い。話したがらないものを無理に聞くのはどうかと思うし、そのうち話す気が有るらしいので気長に待っている。


 え?クレイさんの時とは大違い?アレは根掘り葉掘りで問題ないと判断したから聞き出しただけで分別ぐらいはあるって。

 で、紆余曲折の末、姫鬼は徹底的に頭脳を鍛えて高等学校として最高峰のここ『常破学園(じょうはがくえん)』の特待生を学力だけで勝ち取りここにいる。


 常破学園の試験は学力、知力、体力、運動能力、応用力を其々測りその総合点の上位10名が特待生となる。姫鬼はその中で頭脳面だけで特待生特権を獲得したのだ。大方学力で満点かそれに近い点、知力と応用力で教師の想定以上を叩き出したのだろう。凄まじい。


 俺?学力そこそこの体力上位で特待生取ったぞ、頭使うと疲れるし、頭より体動かしたい派だからな!

 つらつらとどうでもいい事を考えていると屍の息が整ったらしい。むくりと姫鬼は起き上がり下駄箱伝いに立ち上がる。昔よりも回復が早くなっているのは体力が付いてきた証拠だろう、そういった効果も期待してバスが無いのだから効果が無くては困る。


 必死こいて下駄箱から上履きを取り出し履き替えようとしてよろける姫鬼を横目に靴を履き替えて隣を待つ、これでも友人と認識しているので置いてとっとと教室に行くほど薄情ではない。


 必死に体を立て直しているのは分かる。実際最初の頃よりは確実に早くなっているのだ。主に息を整える時間とかその辺が、しかしそれでも遅いことに変わりは無いので目の前の友人を観察して時間をつぶす。なんせ姫鬼は見飽きないほどの美人だったりするからだ。


 カラスの濡れ羽色の髪は今は汗で湿り更に色味を増し、黒曜石の目は切れ長でキリっとした顔立ちだ。鼻は低すぎず高すぎない、純日本人とした顔立ちに一番合った高さで、薄く形の良い唇は淡い紅色で柔らかそうな印象を与える。その顔には細い銀縁の眼鏡を掛けているこれがまた絶妙に似合うのだから美人は得だ。陶器のように白くシミ一つない肌は作り物めいた美しさを持ち、服から覗く手足は細く体が制服の中で泳いでいる事が見て取れる華奢さだ。

 また、姫鬼という名に違えず良い家の出でもあるので立ち振る舞いが洗礼されており年齢、性別を問わずして人間的美を好む者を魅了する奴だ。

 実際入学してこれまで先輩に同輩、うっかりすると教師にまで呼び出され、そういった対象として見られる事もしばしばだ。強く生きて欲しい。


「なんだよ」

「ん?」

「なんかイラっとすること考えてないか?」

「さーて何のことやら、てか何時までも此処に居るとまた呼び出しだぞ」

「うげ、そりゃあ勘弁だ」


 上履きに履き替えた姫鬼に胡乱な目で見られるがそこは話しを挿げ替えてスルーする。好き好んで嫌味は聞きたくないしな、カレンのお説教ならともかく姫鬼はなあ。


「ほんっとにイラつくな、何考えてやがる」

「べっつにーてか後ろ付けられてるな、誰かに声かけたか?」

「知らねえ」

「じゃストーカーか、乙w」

「てめえ#」


 小声で冗談の様に言い合ってはいるが後ろのはちょっとダメな奴だ。どう見ても学校の関係者じゃないおっちゃんがいる。それなのに誰にも咎められずに後ろを堂々と着いて来るあたり、相当だ。うん、多分雰囲気を偽造できるタイプだ。でも俺が普通に気づけるんだから超一流ではないな、多分種族柄そういったことが得意なタイプだ。えーと、この手のタイプは見つかる筈がないって油断があるから敢えて近づけさせて手を出される直前に捕まえて拘束が一番だな。


「なあなあ」

「あ゛?」

「宿題の問一難しくないか?」

「問二の方がムズイ気がすんだが?」

「いや、一だろ、二は慣れれでばムズクない。俺は一だな」

「む、まあお前はそうか、じゃあ教えろ」

「おう、帰り奢れよ」

「チッ」


 敢えて大きな声で、相手に聞こえる様に会話する。内容は学生特有の宿題について、に見せかけた暗号会話だ。

 まあ難しくはない。元から決めてあった内容を番号で伝え前後の会話の流れで方向性を話し合うだけだ。1は此方から接近して捕まえる。2は相手に接近させてから捕まえるだ。

 つまり今の会話だと


『なあなあ』

『あ゛?』

『宿題の問一難しくないか?』(こっちから仕掛けるのは難しい)

『問二の方がムズイ気がすんだが?』(近づかせて捕まえる方が危なくないか?)

『いや、一だろ、二は慣れれでばムズクない。俺は一だな』(仕掛ける方が危ない。慣れがあればいける。俺は慣れてる)

『む、まあお前はそうか、じゃあ教えろ』(お前は慣れてるか、じゃあ助けろ)

『おう、帰り奢れよ』(おk、貸し一な)

『チッ』


 になる訳だ。

 な?簡単だろ?てな訳で歩く速度を覚られない様に緩やかにして相手を誘う。此処で一芝居、


「トイレ良いか?」

「教室付いて荷物置いてからにしろよ!」

「すまん、急を催す!!」

「あ、おい!!・・・たく、しゃねえ先行くか」


 通り過ぎる予定だったトイレに姫鬼を置いて駆け込む、姫鬼はそのまま教室に向かう、さっきよりもゆっくりとした足取りで、勿論そんなことに気付かない侵入者は姫鬼との距離を詰めていく、手には何やらハンカチを持っており、軽く湿っていることから何かしらの薬品が染み込んでいるのだろう。ニタニタと気色の悪い笑みを顔に張り付けた男は、ハンカチを持った手を伸ばし、


「はい、現行犯」

「な!」


 後ろから伸びた手に手首を掴まれた。

 

「ダメだぜ、おっちゃん。あんた此処の関係者じゃないだろ?なのに堂々と中歩いて、しかも生徒に手まで出そうとして」

「な、何を言っとるんだ貴様は!俺はここの関係者だ!でなければ中に入れるわけないだろ!!関係者すべてを把握しとる訳でもないのに勝手なことを!!大体俺が生徒に手を出そうとしたなんて濡れ衣も甚だしいぞ!!」


 普通その言い訳をされては反論する術を持たない。何故なら常破学園は広大な敷地面積に見合うだけの職員がいる。

 教師に事務員、購買のおb、失礼購買のお姉さんに花壇の世話をするおじちゃんに清掃員、外部からの客人に至るまで学園内にはヒトが溢れているのだ。それらの誰かだと言われてしまえば確認に手間取り時間を取られるため相手が有利になってしまう。もっとも、


「はい、ダウト。俺らは学校の関係者を全員把握してます。おっちゃんは見たことないでぜ?」

「だな、事務員から購買のお姉さん。花壇の手入れしてるおっちゃんまで把握済みだ」


 紅も姫鬼も並大抵の頭では無いので学園の全教職員、生徒だけでなくよく訪ねてくる外部者に至るまで把握している。その二人に揃って覚えがない。と言われている時点で男は完全なる部外者だ。


「な!っあ、新しくここに来たのだ!お前たちが知っているわけないだろ!」

「あ゛?新しい人員が来るなんて聞いてねぇし、客人用のプレートも持ってないこの時点で既に怪しいだろうが、それに最初に行くなら職員室だろ。なんで生徒の後を付け回してる?もし職員室の場所が分かんねぇで迷ってんなら普通に道を聞きゃいいじゃねえか、だってのにアンタは話しかけねぇ。さらに他のどの生徒もアンタに気づいてなねぇ、そういった技能か特色を持つ種族かだろうが、公共の場でそれを発揮するのマナー違反だ。なのにアンタはそれを犯して未成年者の背後から忍び寄ってる。要するにアンタは怪しすぎる」

「うぐ」


 姫鬼は言葉を挟む間すら与えず言葉を連ね相手を追い詰めていく。頭の回転や判断力、観察力が優れた姫鬼に掛かればお粗末な男の言い訳など簡単に論破できてしまう。伊達に座学だけで特待生を勝ち取ってはいないのだ。

 姫鬼の言葉に言い返す言葉がないのか黙り込んでしまった男を紅は逃げ出したり出来ないように確りと術で縛り、薬品を染み込ませたと思われるハンカチを取り上げた。


「大方お前を外で見かけて余りの美人さに邪心でも生まれて付いてきたんだろ。よくよくストーカーに縁があるな?友人様よ」

「んな縁いらねぇんだよ!ヒト呼んでくる」

「おう、頼んだ」


 職員室にそのまま行くと変なのに捕まるだろうからまず教室に行ってそれから他の奴と一緒に職員室だろうから時間かかるな。なら他に危険物がないかボディーチェックするか。

 お、なんか薬品出てきた。クロロホルム・・・ヤダ、ドラマみたい。おっかないおっちゃんだな、これ毒性あるんだぞ?場合によっては一生ものの傷が出来たりするし、数滴ハンカチに染み込ませて嗅がせても気絶しないんだぜ?二次元の見過ぎじゃね?

 ん?何やら紐が、赤くて細いやつですね。柔らかい素材で肌に触れても痛くないタイプ、しかも縛ると抜け辛い。捕獲用に似たようなの持っちゃあいるがこれは明らかR-18的な要素に使われる奴ですね。

 んん?これは鞭ですか?競走馬で使われるタイプの短いやつ、しかし馬様にしては素材が柔らかで痛みを感じ難くなっているような?これもR-18っすかねえ。

 んあ?ピルケース?おっちゃん持病持ち?だとしたら厄介だな何の薬だ?えーと、錠剤の刻印は・・・あ、これ媚薬だ。使用者が廃人になるとかで規制対象になったヤツで前に仕事で摘発したヤツじゃん。おっかねえなおい。

 他にも何かあんな、えーと書類?・・・・・・・・・・達磨手術ってしかもヤバい方の闇医者じゃん。金を積めば何でもやるタイプの奴、違法っすね。しかもこの名前は指名手配犯じゃん。今どこにいんだコイツ?この書類押収できないかなあ、証拠品として役に立ちそう。


 うーん、ヤバいのしか出ねえなー。

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