表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/92

学校

 再逝際も無事に終わったあくる日、夜遅くまでカレンと影と共に飲み明かした――紅とカレンはノンアルだったが――事もあって惰眠をむさぼっていた紅は、勢いよく開けられたカーテンの音とそこから差し込む朝日により目を覚ました。


「ぐ、まぶい」

「おはよう紅」

「んん、かれん?」

「ええ、そうよ。朝だから起きて」

「ん・・・あとごじかん」

「まさかの五時間!せめてそこは五分じゃないかしら?」

「じゃぁあとごふん」


 愛しい(ひと)の起床を促す言葉も眠気の前では霞む。カレンの言葉に逆らい朝日に背を向ける様に寝返りを打ち、布団を頭から被りそのまま睡魔に任せて意識は落ち


「起きてくれた口づけてあげる」

「おはようございます!!」


 る事無く紅は勢いよく上体を起こし起床の挨拶を交わした。

 愛する女からのキスのチャンスを逃すような男になった覚えはない。チャンスは率先して勝ち取っていくものである。


「ふふ、おはよう紅」


 ちゅ、と可愛いらしいリップ音を響かせカレンは寝起きの紅の額に口づけを一つ落とす。

 唇でないことは心底、心の底から残念でならないが、それでも愛する人から接吻に紅のテンションは朝からMAXに近い。

 その高いままのテンションに従って本日のプロポーズ(あいさつ)を口にした。


「これから先も毎朝おはようのキスをしてください(訳:結婚してください。)」

「紅が起きないときの奥の手よ?毎日したら奥の手じゃないじゃない(多分天然:伝わってない)」


 いつも通りと言えばいつも通りな流れに若干の落胆を感じつつも紅は直ぐさま意識を切り替えた。

 

「てかまだ六時半じゃん、今日なんかあったけ?」


 前日に依頼を受けた記憶はないしギルドに行くには早い。誰かが訪ねてくるには非常識な時間であるためそれもあり得ない。もしあり得ても追い返すので無問題。はて何かあっただろうか?


「紅、今日な何曜日だか分かる?」

「ん?月曜だな」

「そうね。じゃぁもう一つ、紅あなたの職業は?」

「渡し屋だな」

「ええ、そうよ。他には?」

「?」

「はぁ~」


 首を傾げ、冗談でもなく本気で分からない様子の紅にカレンはため息を一つ付く。

 確かに普段から渡し屋として仕事をし日々の生活をしている。もう一つよりも渡し屋を優先せねばならず、彼方もそれを分かっているため渡し屋業の優先を許可している。しかし、しかしだ。


「紅、あなたの本業は学生でしょう?」

「あ」


 そう、如月紅は学生だ。現在未成年でありながら学生と渡し屋という二足の草鞋なのだが、紅が無駄に優秀なため何の問題もなく二つを両立させている。

 無論その陰にはカレンやらパーティーメンバーの協力もあるのだが基本的に本人の努力によって成り立っていた。

 つまり何が言いたいかというと、


「今日は登校日か」


 そう言う事である。


「そうよ。昨日遅くまで影さんに付き合っていて眠いのは分かるけど行かなきゃ、家を出るときの約束でしょ?」

「おう、分かってる。起こしてくれてありがとな」

「どういたしまして。ご飯の用意はしてあるから着替えたらいらっしゃい」


 そう言ってカレンはくすりっと笑みを一つ落として部屋を出て行った。

 それを見届けてから紅はベットから降りて体を伸ばして全身を軽く解す。そしてふと顔を上げると机の上に置かれたものに気づいた。それは学校指定の学生鞄だ、そのまま視線をづらすと制服が綺麗に吊るされていることにも気付く。

 鞄の中身も今日必要な分の教科書と貴重品がしっかりと入っている。どうやらギリギリまで寝れるように諸々の用意を済ませてから起こしてくれたらしい。


「あー、惚れ直すわ」


 カレンの気づかいを噛みしめ、しみじみと呟きながら紅は身支度を整え始めるのだった。



      ※     ※    ※



 この世界において学校とは以前とは意味合いが異なる。以前からあった学校同様社会の収縮図ではあるのだが、大きな意味では変わり果てた世界の常識と偏った知識による差別意識の改善に力が注がれている。

 本の中で語られるファンタジーと現実を混同しないための措置であり、異種族間同士の総合理解を深めるための教育機関としての役割を担っている。

 故に強制ではないが出来る限り全ての種族が一定期間以上在籍する事が推奨される。


 もっとも推薦される教育機関は幼いヒト達を種族関係なしに教室に振り分け、これまた種族関係なしに先生が数人付き、文字や簡単な計算、他種族との付き合い方を実体験できる小学校だ。

 次が、小学校で関わり続けた友人である異種族の事を言葉と知識で知りつつ、学校に在籍しない異種族についての触りと現在の社会を広く浅く学ばせる中学校だ。


 この二つは異種族間での先入観をなくしつつ自族に出来ることが他族に出来ず、他族に出来ることが自族に出来ない理由を根本から理解させ、それを理由に差別する事がどれ程アホでバカな事かを徹底理解させる為の機関だ。

 故に妙な差別意識を持って卒業する事は出来ない。無論義務では無いので退学をすることは可能だがそうなると今度は就職時に疑いの目を向けられて大変不利なため、最低限中学校までは卒業するものが多い。


 中学校を卒業すると今までの広く浅く得てきた知識を狭く深く、或いは広くそこそこ深く、又は広く深くなどの分類に分かれて学ぶ機関、高等学校への入学資格を取得できる。

 勿論進学せず職に就く者もそれなりに居る。体力、力自慢は肉体重労働系にさっさと就職するものも多い。一般常識はすでに学んでおり差別意識も無いので特に苦も無く労働先が見つかるらしい。


 一方進学するものは肉体労働を嫌う者が殆どだ。日がな一日部屋に籠って研究したい。論文書きたい。本を書きたい。プログラミングを組みたい。機械弄りがしたい等々。知識が欲しい者か、家の方針により進学した者ばかりだ。


 紅は高等学生で後者、つまり家の方針により進学した口だ。本来であれば中学校卒業後に渡し屋として本格的な活動を始めたかったのだが、家族から取りあえず高等学校までは出る様にとのお達しだった。

 無論徹底的に拒否すれば紅の意思を尊重してくれる家族なのだが、高等学校を卒業しておくことのメリットを書き連ねたレポートと各分野の学校紹介パンフレットを突き付けられては考える他ない。

 しかもメリットは確かに魅力的なものも多いしデメリットは自分がキツイ以外あまりない。こうなって来ると選ぶ学校によっては得る物ばかりになってくる。


 そうした考えの元、紅は進学をしつつ渡し屋を兼任するという二足の草鞋を行うことを決め、それに向きかつ己のメリットが大きな学校を選んで進学した。

 無駄に偏差値が高く、所有する敷地面積の広いマンモス校だった事は家族やカレンをもってしても予想外であったがそれはそれは、受験などは難なくパスし、高い学費は特待生特権を勝ち取った為殆どかからず、自身が渡し屋として稼いだ報酬だけで事足りる。

 実家からでは遠いので学校近くの部屋を「出世払いで返してね♡」との言葉と共にあっという間にカレンが契約して家賃を払い、食費やら光熱費やらはカレンと紅の半折で賄っている。

 もっともとカレンの出世払い等の発言も冗談交じりのおふざけで言ったものなので返される必要は感じていないらしい。曰く「Bランクの渡し屋の報酬は高いのよ」だそうだ。


 家族からはカレンに迷惑をけない様にと口酸っぱく注意されつつ自分で選んだのだからしっかり卒業するように、たまの顔見せにカレンだけでも返せ!(誤字にあらず)とだけ言われて家を出た。

 因みにカレンだけの帰宅とかはさせない。そんな事したら最低でも三日は帰って来ないことが目に見えているからだ。家族と嫁の関係が良好なのはいいが嫁を取られるのは許せん!!


 と、まあそんな訳で一応紅の本業としては学生だ。

 特待生特権で色々免除なため基本的に授業は少なく年間出席日数も少ない。副業を持つことも禁止されておらず、年に一度ある大きなテストで上位10位に入る事と最低単位の取得、出席日数さえクリアできれば問題ない。

 学力を維持するのがもっともと大変なはずなのだがその辺を難なくクリアする当たり紅は優秀なのだろう。その優秀さをカレンの虫よけにの為にいかんなく発揮する当たりが残念な所である。


 因みに一つの教室に異種族を詰めて教育することに親が反対しなかったのかとか、一貫して同じ教育が出来る訳がないとか、色々な問題が世界中の様々な場所で有ったのだが、日本だけが何故かその辺を難なくクリアして普通に教育も異種族の社会統合もしてしまった。しかも世界統合後僅か二年足らずでだ。その為他の国は黙って全種族平等を掲げるしかなくなったらしい。

 他国の人々は言った。


「ニホンジンノジュンノウセイ、イジョウ」


 っと。

 うん、日本人の順応能力は時に異常だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ