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あいが怖い

「トウヤが逝ってまった後にわいらはトウヤのおかげで出来た縁を抱えて村を作った。人間も妖怪もごっちゃの村でな?孤児やはぐれの妖怪なんかを保護したりしとった。弱いやつは村で出来ることをして強いやつは外の警戒やな、弱い妖怪や人間は下手すると喰われてまうからな。実際、何度か村が襲われることもあった。まあほとんど返り討ちや、わいら弱ないしな」

()()()()は返り討ち?」


 黙って影の話を聞いていた紅は最後の影の言葉を繰り返し、怪訝の表情で最後に疑問符を付け加える。

 そんな紅に影は一瞬言葉に詰まった後、頷いた。


「せや、()()()()や、たった一度だけどうにもならんかったことがある」

「つまりは、その返り討ちに出来なかった存在が今の現状に繋がるの?」

「おん」


 カレンの確認する様な言葉に戸惑う事なく影は答える。ソレが生者のまま死者のロードとなる切欠なのだろう。

 黒くのっぺりとした、変化の見られぬ筈のその顔に怒りを張り付けたような感覚を覚える。それ程の怒気を含み影は口を開く。


「村は襲われた。最悪なヤツにな、これはアカンってんでみんな逃がしたんや、わいは殿(しんがり)やった」

「殿ってことは最後の囮か。ほとんど死ねって意味だよな」

「力があれば時間を稼ぎながら逃げられるけどね」

「わいがいっちゃん強かったんや、生存率高いやつがやるべきやろ。それにほかんやつをそんな目には合わせた無かったからな、自分の意思やから後悔はないで?」


 眉を顰める紅に影は苦笑交じりな声でそう答えた。襲ってきた相手には怒気を抱き、仲間たちの為には命を張る。そんな今と変わらない影らしさに笑みがこぼれた。


「ん、笑ったな。その方がええで、紅は若いんやさかい眉間に皺寄せんなや」

「む、悪かった。で?そこからどうやって今に繋がんだよ」


 紅の影への返答がぶっきらぼうになるのはしょうがない。ちょっとした羞恥心だ。

 いつもであればそんな紅をからかうのだが。今はスルーして話を進める。紅の横で口元に大げさな笑顔を張り付けたカレンが理由ではない。寄り道しないでさっさと話し進めろ、っと言わんばかりの笑顔だが、けしてそれは理由ではない。うん。


「わいもお人好しとちゃう。生き延びて皆と合流する気満々や。やからヤツを引き付けて、撒いて、おさらばの筈やったんやけど、しくってしもうてな」


 底が見えない谷に諸共落ちていく、しかしそれは予定通りだ。自身は影であるが故に影に潜り逃げる事が可能でそれを利用して撒く予定であった。

 しかし、しかし見通しが甘かった。ヤツは影の中まで追ってきた。このまま仲間の元へは行けない。そんな事をしては殿を務めた意味がなくなってしまう。故に逃げる。逃げる。逃げる。

 息が切れ、前に進む事が困難になるほど逃げ続ける。自身の領域故にヤツより少しだけ早く動けるが、それも時間の問題だろう。ヤツを振り切れ無い内に体力の限界が来た。即ちそれはヤツに捕まる事を意味する。

 ヤツは捕らえた相手の中に入り込み、相手を乗っ取り内側から喰らう化け物だ。意識の有無は確認出来ず、力を求めて他者を食らう厄災だ。捕まったが最後、それに今捕まった・・・。

 ああ、もうダメだ。そう思ったまさにその瞬間、


「世界統合に巻き込まれたんや」

「「は?」」

「おう、言いたいことは分かるで?なんてタイミングや!ってんやろ?わいも思った。しかも食われかけとったタイミングやったせいか統合後に確認したらヤツを取り込んどってな?力が大幅アップしとった」

「「はぁ?」」

「びっくりやったわ」


 のほほんっと言いつつ料理をパクつく影の話を纏めれば、タイミングよく世界統合に巻き込まれたせいで命拾いし、あまつさえ体内に入り込んでいた相手は意思が有るんだか無いんだか良く分からないヤツで殆ど同化していた。

 そうなると世界の法則上、自我有る者が優先順位の高いこの世界においては自我が有るんだか無いんだか分からない正体不明のソイツは抹消される。しかしそれと同化しかけていた影は残り、その時ヤツが持っていた力が影の物として残った。っと言った所だろう。天文学的なタイミングで起きた奇跡じみたものだ。


「えーと、影さんがこの世界に居るのは奇跡として、何故死者のロードを?」

「おん、最初に言ったやろ?成り行きやって、目が覚めた時に死者達がぎょうさん居る場所でな?周囲の畏怖やら恐怖、好奇心に嫌悪感、色んな視線に曝されとるんに気い付いたんや、そういった視線ははぐれもんが集まった村の外やと当たり前やった。やからちぃっとばかし世話焼いたろ思ってな?そこに居るんを纏めてやっとる内にな」

「いつの間にかロードになっていたと」

「せや」

「「うわ、凄い成り行きだ」」

「やからそう言ったやろ・・・」


 二人そろっての言葉に力なく突っ込みつつ影は酒を煽る。若干ヤケ酒じみているのは仕方ない。


「死者の気配とかどうやって纏ってんの?」

「死にかけとったんもあって偽造出来てん」

「白骨仕様なのは何故です?」

「黒いのっぺりって変に目立つやん?やから死者っぽい恰好してんねん」

「ロードはいつまで続けんの?」

「出来ればちゃんと死者に引継ぎしたいんやけど・・・」

「後見人がいらっしゃらない?」

「おん、力で他の死者を黙らすか、弱ても納得する様な圧倒的カリスマ性があるか、親しみやすうて周りが手え貸してくれるようなリーダーになるか、やろな」

「複数人は?民主主義的なやつ」

「あー。考えんかったわけやないんやけど、多分それはやめた方がええ気がすんねん。変に派閥とか出来んは得策やない。今は何とか安定しとるけどいつ差別の対象になるか分からん。そん時身内で争っとったらあっちゅうまに種として滅んでまう。やから一人の『ロード』が率いるんがええと思うねん。全体数が多い訳やあらへんし、増えたり減ったりも極端やからな」

「そうね。複数人で率いてその何人かが行き成り逝ってしまったら大変だものね」

「おん、やから一人のロードが欲しいんやけど、条件に会いそうなんが見つからんくてなぁ」


 条件は、死者の力の源の未練が強く、未練に引きずられない確固たる理性、他の死者と軋轢がなく他種族に対しても嫌悪感がなく話合いができる人格、そして長い間力と存在を保証できるものだ。そんな存在は、


「・・・セレス司祭?」

「ん?」

「あー」


 いたりした。

 セレス・カトリーナ、改めセレス・ジーニ司祭。

 つい先ほどまでは白骨化した状態でしかいられなかったが、夫であり想い人であるクレイ・ジーニ牧師に二度目のプロポーズされたせいで未練の強さが一気に跳ね上がった人物だ。


 そもそも世界統合前に死亡して居ながら夫への未練で世に留まり続け、世界統合後に死者として顕現、当初は一日中生前の姿を保っていられるほどの力が有れど疑心暗鬼に陥り力の減少が見られたが、それも先ほどの公開プロポーズで復活、どころか更に未練が増し強力になった。


 性格は穏やかで思慮深く、再逝際の実質的なリーダーとなれる程の統治力と人心掌握をおこなえ、他種族に手伝いを求める事を進言しそれを通すだけの地位を有し、実際に労力を獲得してくるだけの度胸を持ちうる。

 つまり他の死者と軋轢がなく死者達をまとめ上げられ、元人間である為か他種族に対しての嫌悪感もなく、柔軟な思考を有しそれを実行する自力があり、加えて夫であるクレイが生きている限りは顕現し続けると予想される。

 また、クレイがエルフであるため軽く百年単位で生きる事が確定している為長く力と存在を保つ事が出来る。


 うん、ばっちり条件満たしてるな。


「え、そんな有力候補居ったん?なんで気付かんかったんや?」

「クレイさんだろ」

「でしょうね」

「んん?」


 セレスの存在に気づかなかったのは首を傾げる影の情報収集能力がないからではない。全ては彼女がクレイの奥さんだからだ。

 クレイ・ジーニと言う人物は例えば、どこぞの権力者に奥さんを寄こせとか言われたら徹底に完全勝利するタイプだ。遺恨の目も復讐や逆恨みも出来ないぐらい完璧な事後処理すらするだろう。極めつけに渦中の真っただ中の筈のセレス本人には一切覚らせずにだ。

 大方そういった組織に所属していた経緯でも持つのだろ。超一流の暗殺者をおちょくり様な人物だ。同じかそれ以上の力量があってしかるべきである。

 何かしらがあり組織を離脱、セレスと出会い今の状態に落ち着いたと見ていいだろう。


 情報操作に長け過ぎていたため死者のロードであり、渡し屋ランクBでもある影からもその存在を隠匿しきったのだろう。なにそれ怖い。


「んー。そないに優秀なら筆頭候補にしたいんやけど、まずその旦那はんに話し通した方がよさそうやな」

「だろうな、俺が言うのも何だが嫁さんに対する執着が半端ないぞあのヒト」

「マジかいな、紅にそう言われるとか相当やな、今から覚悟しとこか」


 紅のカレンへの執着は少し関りを持てばすぐに解るほどあからさまで根深い。その紅に半端ないと言わしめるあたりにクレイの執着の度合いが伝わる。先にそちらに話を通すのが正解だろう。

 うっかり敵に回した時を想像すると背筋がぞっとする。愛が怖い。


「ま、後継者探しに希望が見えただけでもよしとしよか。明日以降に時間有る時でええから旦那はんの方紹介してや」

「おう、任せろ。クレイさんに予定聞いとく」

「頼んます」


 若干疲れたような雰囲気で頭を抱えながら頼んでくるのは今後の厄介ごとを思ったが為だろう。基本的に手伝える事は無いはないので自力で頑張ってほしい。


「今夜は飲み明かします?」

「ノンアルでよければ付き合うぞ?」

「おおきに」


 明日以降の事は明日考えるとして、取りあえず今は酒の力と仲間との語らいに頼ることにした。

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