覚悟
クラッカーから出た紙吹雪を集め、火薬の匂いと白煙を風を使い外へと散し、天幕そのものにヒト除けと音漏れ防止、認識阻害の結界をカレンが張った。
「こんなもんやろ、片付けご苦労さん。まあおんどれらのせいで掃除するはめになったんやけどな」
「「えへへ」」
「褒めとらんわボケども!」
黒い、どこまでも黒く光を反射せず吸い込むかのような人間の形をした存在で、まさに影としか表現しようのないソレは所々に違和感を感じる関西交じりの皮肉を紅とカレンに投げかけるが、二人は揃って照れた様に笑うので即座に突っ込むはめになっていた。
ふざける二人にため息を一つつき、影は天幕の中央に置かれたテーブルとイスに近づきそのままイスに座ると、二人にも目の前のイスを進めた。
「まあええわ、んで?タダで来た訳やちゃうやろ?」
「おうよ!」
「お土産たっぷりよ!」
影の進めるままに席に着いた二人は、かかった言葉にそれはそれは楽しそうな顔でそれぞれの戦利品を出していく。
「おー、酒に料理、つまみに良さそうなのから腹に溜まりそうなのまで色々やな」
「まあね。料理は私チョイスよ。飲料は紅ね」
「なら食べ後は入ってなさそうやな」
「影よ、貴様俺をなめとるのか?カレンが手を付けるかもしれないんだぞ?んなもん取ってくるわけなかろうが」
「いや、おどれの場合はカレンはんが手を付けへんもんで食べ後持って来るやろ」
「チッ」
図星なのだろう、舌打ちを一つすると紅は即座に話を切り替えることにした。因みに食べ後とは死者が食べた後の食べ物を指す言葉だ。
「ところで、なんで影がロードなんてやってんだ?お前生者だろ?」
「お?いきなりその話かいな」
「だって気になるんですもの、影さんは確かに他の人と違って実態を消して影に潜んだり、影の中を移動したり、栞並みに薄くなったりは出来るけど死者の気配はしないわ。たいへん便利だと思います」
「おう。ありがとうな、そんな体質に関して気にしとる訳やあらへんからフォローはいらんで」
「あ、はい」
色々と特殊であり応用のきく力を持つ影は色々波紋を呼ぶこともある。普通はあまり突く事はしないのだが、
「しっかし改めて聞くと、覗きに向いてる能力だよな」
「その辺で昔、揉めとるんを分かって言っとるんやろなおどれは?」
「Yes!」
「よろしいならば戦争や」
パーティメンバーに限って言えばその辺は躊躇なくからかいのネタにされる。影も分かっているのでその辺は時と場合により乗ったり乗らなかったりだ。
今回は乗ることにしたらしく、二人は相手の手を掴み、肘をしっかりとテーブルに着け、もう片手はテーブルの上に置く、要するに腕相撲の体勢だ。
二人がその体勢をし始めたあたりでカレンは机の上の物を浮遊させ、部屋とテーブルに構造強化と時間再生を掛けつつ二人の握り合った手に触れる。
「はーい、見合って見合って、れでぃー・・・・GO!」
「「!!」」
カレンの掛け声と同時に二人は身体能力向上やら重力操作やら色々な術を使って自身の有利と相手の術の阻害を行う。
これはパーティ内での喧嘩方法で相手自身に阻害を行わず相手の術の阻害と自身の強化、自身の術を阻害する術の阻害、要するにいかに相手を上回りつつ自身の強化をおこない相手に勝つかといった技術戦争である。
技術が拙いと細腕の女性に筋肉隆々の大男が負けることが普通に起きるので見ていて退屈しない遊びだ。
男二人が遊んでいる間にカレンは離れた場所にイスを置き、目の前に防護壁を張り、宙に浮かせたままの料理等を飲食しつつ観戦に回った。
(この二人って真面目な話をする前になんでかバカをやりたくなるわよね。男の子だからかしら?)
この二人の対戦は良く行われるので特にこれいった感慨もなく、カレンはもぐもぐグビグビしながらの待ち時間となったのであった。
※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
数分間の激闘の末、影の辛勝により二人の対戦は幕を閉じた。
「気は済んだ?」
「はぁ、はぁい」
「お、おう」
男たちが仲良くテーブルに突っ伏したのを見るとカレンは目の前に張った対物理、対魔の障壁を解除し二人に近づく、その間に事前にかけた時間再生の術が発動し、倒壊一歩手前まで破壊しつくされていた部屋が天幕ごと元に戻っていく。
・・・つまり天幕そのものが倒壊一歩手前まで破壊されたという事なのだが、外の再逝際会場のヒト達は誰ひとりとしてその事に気づかず祭りを楽しんでいる。
認識阻害の結界を張った為結界内の変化に気づく事が無かったからだろう、おおよそこうなる事が分かっていて張ったので狙い通りのようだ。
歩きながら空気中の水だけを凝縮、物質の運動エネルギーを停止させ熱を奪い、氷になる前に緩やかな運動を再開させる。そうして出来た水は袖下から取り出したコップに注ぐとすぐに結露が付くほどに冷たい。
テーブルに突っ伏し荒い呼吸を繰り返す二人にその水を渡して上体を起こさせ、浮遊させておいた料理を机に並べ直す。
「真面目な話をしようって時におバカして、進まないでしょ?」
「「す、すみま、せん」」
「あなた達の息が整ったら話しを再開しましょうか、食べながらで良いでしょ?」
「「は、はい」」
途切れ途切れの疲労困憊な声でも言質を取ったのでカレンはにこりと笑って、二人のコップに自身の横に浮きっぱなしの水玉から水を注ぎ足してやった。
しばらくして男達の息が整い。十分に話ができるまで回復した体力と部屋の修繕が終わったのを皮切りに各々で好きに料理を食べつつの話し合いになった。
食べ物は保温の結界に包んであったため暖かく、飲み物はカレンが作り出した水玉と同じ原理で冷やすので大変美味しく頂けた。
「スープうま、誰作や?」
「えーと、多分これはセレスさんね。彼女の家庭料理美味しいのよね」
「おふくろの味って奴なんやろな、確か再逝祭の祭司やろ?多芸やな」
「人妻だし家庭料理は得意なんじゃないか?」
「んん?あんこ人妻なん?」
「ええ、クレイ・ジーニ牧師の奥さんよ。さっき外で二度目のプロポーズされてたわよ」
「公開プロポーズを堂々とやり遂げるあたりクレイさんは侮れないよな」
「まじか、死者にプロポーズとか初めて聞いたわ、生前からの夫婦なんやろけど思いきったことすんなぁ」
「いつかカレンも受けてな?」
「うふふ」
「流さないで!」
「相変わらずやな」
「カレン、氷作れる?」
「氷?作れるわよ。水をギリギリに冷やすのより簡単だもの」
「じゃ頼む、シェイカーとかあるからノンアルのカクテルでも作ろう、何飲みたい?」
「かしすおれんじって出来る?」
「任せろ!」
「なんでシェイカー類が出てくんねん。異次元収納とは言え意味不明なものいれんなや」
「はん!アホめ!!カレンが嬉しそうだからだよ!」
「ん~美味しv」
「カレンめっちゃ可愛い!!」
「はぁ~あほらし」
「キノコ美味しいわね」
「それは思った」
「せやろ?一部に土地借りて死者達で栽培してんねん。完全白骨しとると変な菌を持ち込まんから管理楽やねん」
「あー、なるほど」
「擬態できる奴らは持ち込み販売して、肉が付いとる奴らは工場販売やな、肉付きゆうたかて確り防腐されとって生きとるヒトより安全やしな」
「「知ってる」」
「せやのに死者が作った。売った。ってだけで偏見で見よって!おまんらよりもよっぽど清潔やわ!!」
「存じ上げております」
「影よ静まり給え~」
「酒持ってこ~い!!」
などなど、中々に賑やかな食事風景となっていた。
「で?」
「んあ?」
「なんで影さんがロードをしているの?」
ある程度食を進めて騒いでから改めて最初の話に戻ってきた。もしバカをしなければもっと早くに辿り着いたのだが、その辺はご愛敬だ。ちゃんとアルコールは入っていないので話は真面目に出来る。そう、騒いでてもアルコールは入ってない。全てノンアルでお送りしている。
「あー・・・成り行きや」
「は?影ふざけてんの?」
「いや、まじやで」
紅からの突っ込みに真面目に返すあたり冗談のようだが本当らしい。
「一体どんな成り行きでロードをしているの?」
「うーん・・・ちぃとなごうなるんやけど、ええか?」
迷いつつのその言葉に紅とカレンは一瞬視線を合わせるとすぐに答えた。
「ああ」
「ええ」
その長い話は、今まで話さなかった影自身の大切な何かなのだろう。
それなりに一緒に馬鹿をやってきたのだ。同じパーティなだけあって信用も信頼もしている。そんな影が自分で話すと決めたのならそれを止める権利も権限も二人には無く、また止める気もなかった。
「ん、おおきに」
そんな二人の意思を汲み取る。汲み取れる程度には互いを知っているのだから今更、何を迷う必要があるだろう?
一緒に馬鹿をやって、互いの背中を預けて、互いの一番大切なモノを預かり合える仲間なのだ。ならば良いだろう。
覚悟を決めよう。
一呼吸置き、最後の覚悟を決めると影は口を開いた。




