暗殺
暗殺というものをご存知だろうか?
それは政治的、宗教的または実利的な権力争いや見せしめや弾圧、粛清の一種としても存在し、確認されている最古の暗殺は古代エジプトにまで遡る。
暗殺と一口に言ってもその技術は多岐にわたる。
一般的に暗殺と言われ思い浮かぶ誰にも気付かれず、証拠も残さずにひっそりと対象者を屠るもの、明らかに他殺が窺い知れる手口でありながら、犯人の証拠を一切残さない大胆不敵な手段までありとあらゆる方法があるであろう。
そんな暗殺には共通する事がただ一つ存在する。それは『結果』だ。
どんな精密な暗殺計画も露見すれば水の泡、しかし結果が伴えばどんな大雑把で行き当たりばったりで珍妙な暗殺でも評価される。故に暗殺には時にユーモアが求められる事がある。
例えば綿密な銃撃戦と誘導の最後に猫耳を着けた少女に狙撃されるとか、例えば性別すら超越する様な変装を相手の目の前で脱ぎ捨てるとか、例えば鈍器並みに焼き固めたフランスパンで殴打するとか、例えば投石器で石並みの硬さのチーズを脳天に直撃させるとか、ありたいに言えば『まさか』っと言いたくなる様な意表を突くことにより相手に一瞬の空白を作ることが重要なのだ。
その空白を利用し目的を達成させる者が暗殺者と言われる者だろう。
ここでもまた目的を達成せんと忍ものが居た。
彼らは一流だ。完璧な気配遮断は目の前に居てすら存在を見失い。足音一つ、呼吸音一つせず、自身の生み出す小さな風すらも制御して見せる。動作音の一つもさせない身のこなしは存在を悟られぬだけの力量があった。
目的は天幕だ。死者の王、ロードの居るその場所へ誰に止められることなく、誰に気づかれる事もなく彼らは進む。天幕には共も護衛も居らず、周辺にも誰一人としてヒトは居ない。それは自信の表れだろう。実際会場に現れたその瞬間に実力は知れている。しかしこと暗殺において実力は絶対ではない。
絶対ではないが少しの違和感も見逃す気の無い意識の張り詰めようだ。実際ロード程の実力があれば天幕の中に居て周辺の状況を覚る位は訳ないのだ。
それ程の強者、それは難敵であろう。しかし絶対強者を暗殺により仕留めた事例は幾多の世界と数千の年月によって証明されている。よってこの企みは成功するだろう。
彼らは決して気を緩めることなく作戦の成功を悟り口元に笑みを刷く。実際此処までは順調だ。
人気の多い場所から人気の少ない場所へ存在を薄めつつヒトから外れ、完全にヒトの意識が自分達から離れた瞬間に行動を開始したのだ。
誰ひとりいない天幕に自然の気配そのものを身に纏い。誰に見咎められることなく彼らは天幕へと辿り着く、そして誰に気づかれる事なく彼らは内部へと侵入を果たしたのだ。
死者の最強すらも欺き彼らは忍び寄り、手にしたソレを確かめる。
その姿を目視することが叶うほどの近さまで到達し、ソレに確りと手を掛ける。
まだだ、あちらはまだ気付いていない。自分たちの行為を隠匿すための結界を覚らせぬように用意する。
彼方は一人、此方は二人、周囲に気づかれない細工は万全、あとはロードの一瞬の気の弛みを待つばかりだ。
一瞬、一瞬が一時間にも感じられる短い待機の時間、しかしその刹那は訪れた。
「!」
「っ」
顔を見合わせることなく同時に動く、一瞬、刹那のその緩み、自然に訪れる空白に狙いを定めて彼らは動いた。
パーーーーーン!!
「!!」
それは爆音だ。劈く様な音と同時にあたりに白煙と火薬の匂いが満ちる。
そして音が鳴るよりも早く展開された結界により外に漏れる事の無いそれは結界内に留まり反響する。最初の音よりも威力を増し、結界の中心に位置するロードへと降りかかる。
「くっ!」
ふらりっと、ロードの体が一歩分体が動く、無理もない。三半規管を傷付けんばかりの音を気が弛んだその瞬間に浴び去られたのだ。いかな猛者といえどもダメージは免れない。寧ろ一歩足を動かすのみに止めたロードを賞賛すべきだろう。
しかし、そこに居る彼らは一流だ。そのふらつきは、その踏ん張りは致命的な隙となる。
行動を起こしたその延長線に彼らは動き続ける。一切の無駄のない動きで彼らはロードへと詰め寄りその顔面を鷲掴み、
「よ」
「ほい」
ドッキリ大成功と書かれた看板と先ほどまでロードが着けていた骸骨の仮面を本人に突きつけ、
「「だーいせーいこー!!」」
声を揃えてそう言い放った。
「何処がやねん!!おんどれらマジふざけんなや!!」
中の人物、最初に覚えた違和感そのままに同じ万屋に所属するメンバーが、得意げにどや顔を決める二人、即ち紅とカレンに怒鳴り散らした。
※ ※ ※
時は一時間ほど遡る。
紅とカレンの二人は突撃用の準備、つまり食べ物、飲み物を集め終え、祭りの中心人物であるクレイとセレスに挨拶を済ませた訳である。が、ただ馬鹿正直に真正面から訪ねて行くのも面白みに欠けるっと訪問方法について協議していたのである。
ところで、なぜ冒頭で暗殺について語っていたか分かっただろうか?察しが付く人は察しただろう理由は・・・
「忍び込んで」
「目の前でぱーん」
「「よし!」」
訪問方法が暗殺者ばりの動きでロードの元まで向かう事となったからである。
楽し気に顔を見合わせ親指を立てて笑い会う姿はまさに悪戯小僧のありさまだ。
何が楽しいのか自分たちの能力を最大限に活かし、誰にも見つかることなく忍んでロードの元までたどり着き、目の前で派手な音を立てようという事らしい。なにやってんだか・・・。
そんな訳で二人はそれ用の準備を始めた。
準備するものは3点
1.大きな音を発するもの
2.ドッキリの看板
3.音漏れ防止の結界(音よりも早く展開するもの)
である。
そんなものをどうやって今すぐ用意するのかと疑問に思うかもしれない。しかしそこは何も心配する事は無かったなぜなら、
「ドッキリの看板なら異次元収納にあったな」
「私もクラッカーが20個ほど出てくるわ」
っと良く分からないが上記二つを最初っから持っていた為である。結界に関してはカレンがその場でちょちょいと制作した。
よって準備らしきものはクラッカーを束ねて一斉に紐が引ける様に細工をするだけで済んだのだ。それ故二人は周囲に完全に溶け込み、存在を消しながら天幕に近づく事に全力を注ぐことが出来たのである。
・・・本当に何やってるんだか。
二人がおふざけに全力を傾けた結果は、今目の前で二人に突っ込みを入れ耳の調子を確かめている人物、パーティメンバーでもある彼の反応でお判りいただけただろう。
「あ゛ーもうほんまにふざけよってからに、鼓膜破れるかと思ったわ」
「あ、すまん。まさか反響するとは思わなくてな」
「ええ、ごめんなさい。とっさにこっちに来ないように調整したら影に集中しちゃった」
紅は眉を顰め申し訳なさそうに、カレンはチロリっと舌を出しながら少しおどけたように謝る。
「おいこら紅、もうちょい誠心誠意謝らんかいな、咄嗟に反響方向変えたんはおんどれやろ、後カレンはんは謝らんとええで、音を消すように調整してくれたやろ。あと、姿変えんのやめえや、きしょくわるうてかなわんわ」
そう言って影と呼ばれた人物は本当に嫌そうにカレンを、否、カレンの形を模倣していた紅を指さした。
二人はおふざけの延長線で互いの姿を入れ替えていたのだがソレすらも直ぐ様見破られたらしい。大変優秀な渡し屋である。
「バレたか」
「バレるわ、カレンはんはそんなぶりっこじみた動作はせんで、特にワイらの前ではな、その動作はおんどれの願望やろ」
「チッ」
「え、そんな感じの動作してほしいの?」
影の指摘に紅は舌打ちだけを返し、カレンは意外そうに小首をかしげる。その頃には二人はいつも通りの姿で互いの位置を入れ替えた場所に立っていたのだった。




