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証-6(旧題:心アクロバット)

「ああ、それは駄目よ」


 着ようとした黄色がかった甲冑をガッシャと隅に放り捨てる。


「忌み色」


 巫女さまが地球軌道に彗星が入ったようなイヤな顔をする。


「まあ……」おっとと言った。

「これもよした方がいいわ」


 緑色の甲冑も隅に放る。


「さっきの話、今までの話でもないけど。悪い意味を持つ言葉を無理に身につけることもないわ」


 へえ……そんな意味が色にあるんだと素直に感嘆した。


「まあ近いってなだけね、ないでしょ本物の忌み色を見るなんてことは」

 

 ねっ、とミコトに聞き「はい」という返事を予測していたのか、まあおまじない程度よ、大体どんな色かは私も知らないわ。言いながらもその手は甲冑をポイポイ放っている。


 残った地味な色の甲冑に俺ら一行は着替えて城を目指す。


「次は姫様の名前呼んだら駄目だからね」


 初実の氷像の中心に暖かな炎がみえた。まるで生きているかの灯火が鼓動するオブジェに実感が沸く。竜を倒し呪いを解き、宿屋の鏡からラポール島に逃げ込めばいいんだ。確かな筋道がみえた気がした。

 儀礼ばった任命式が過ぎ去り、竜討伐隊が組まれ、竜の根城に向けすすむ。湿地を横目に高原を進む。ところどころクレーター状に高原が焼き切れているところがあり、そのたびに兵士たちは竜に対する敵愾心てきがいしんを出した。勇気を出して竜についての言い伝えとかあるか? と尋ねたら「そんなものねえ」とぶっきらぼうに返された。俺の影響なんてそんなもんだよな、と悲しくなった。俺は……本当に救えるんだろうか? 不安を払うように巫女さまのことを考えた。俺には神さまが味方についてるんだ。大丈夫だろう、そう考えると気が楽になった。


 ジューっと何かが焼ける音がした。草原の向こうで白い煙が上がる。


 弾けるような騒ぎで陣営が立て直され竜との戦闘が始まった。


 シレーっと遠距離のポジションで援護にまわる。

 竜の大木ほどの足が振り下ろされる。じゅわーっと、ひずめのアイロンが草原をスチームする音が響く。最前線で戦う善悪をみて思う、印象に残ったことならこの世界にも影響を与えれるのか……。今日の善悪の武器は設定度外視ではないらしいことに安心する。竜相手に苦戦をしていた。それでもところどころは削られていく、遠距離から俺も投げている手裏剣のようなものは節々のギミックに挟まれ確実に動きは鈍っていく、鈍ったところから善悪が得物で削ぎとっていく。竜の行動パターンが三周ぐらいしたぐらいにようやく地に竜は崩れ落ちた。……すっごく人の攻略するボス戦を見るのは長かった。やっと終わったと思う。あとは呪いの解けた初実が本人かどうかだ。期待できるのか? と疑問に思う願いを叶えるというイベントも起こる気配がない。戦闘に参加してないからこんなものかと納得した。とりあえず隙みて宿屋に駆け込んで終わりだ。勝ちどきを、ウェストファルと呼ばれた小隊長があげる。善悪が駆け寄り何かを話す。トンっとその背中を叩く。善悪が近づいてくる、兜と口を覆う鉄板で顔は見えないはずだが、鼓動が早くなる。


 自分の横を通り過ぎたのにホッとする。


「オイ」


 振り返ると善悪が俺に話しかけてきた。


「はっ!」 


 それだけを発する!


「あとは帰還して初実姫に会うだけだな」にこやかに言う。


 ぼろがでないように同じ言葉を繰り返した。


「はっ!あとは帰還して初実姫に会うだけでありますっ!」

「今日の姫は……。……初実じゃねえんだよ!!」

「姫様の名はたーー」


 いいかけたウェストファルが死滅する。背後の山が無惨にも削られた。

 沈黙。そして善悪が再びくちを開く。


「やはりおまえ……。達三だな」


 善悪が手で指示を出す。


「はっ善悪様」


  残った兵団が直立不動の姿勢を取る。

 兵士は剣を、弓兵はナイフを首に胸に構える。

 次の瞬間……鈍いおとともに人の操り糸が切れた音がする。


「で……問題だ。おまえたちは何故死なない?」


  残った、トーキチ、ナリィー、世歩玲を睨みつける。


「当たり前じゃない、私たち生きてるのよ」


 世歩玲は毅然と立ちむかった。


 そうか。次の瞬間。突起のついた槍が世歩玲の腹を突き破る。


「ーーーー」


  耳を塞ぎたくなる声は聞こえない。


 急いで世歩玲に駆け寄ると、力強く両手で槍の柄を握っていたのが見えた。


「っはんっ。私が一体何万回死んだと思ってるの?」


  人が貫かれているというのに、どちらも表情に歪みはなかった。


「……お前らみたいなのを倒す方法は知っている」


  その言葉に世歩玲の顔に蔭りがさす。


「まさかっ」


  鼻でせせら笑う。私がどれだけ探したと思ってんのよと善悪を馬鹿にした。


「こんな近くに居るわけないわ、いたらわかるもの」

「妄想の産物がっ、達三を惑わすんじゃねえ」


 世歩玲の手がふるえだす。


「善悪っ」


 止めようとした俺が善悪の振るう左の手刀で吹っ飛ばされる。

 見えない空気圧みたいなもので、竜の死骸のところに打ちつけられた。


「達三は……、学校で会ってるからな。夢に出てきても不思議ではないな」


 善悪が世歩玲の方を向く。表情は見えない。


「善悪っ、離せっっ! 危害をその人たちに加えるなっっ!!」


 善悪がかぶりを振る。


「忘れたのか達三。神とかそういったものは俺たちの敵だ。そうだろ?」

「人間が創り出した想像の産物、そんなものは必要ないんだよ」


 空想がっっ!!!現実を惑わすんじゃねええええんだよおおおおおおお!!!

 槍の根本が変色していく。


「私たちは創りものかもしれない。創りものでもいい。でも生きてる。ねえ。あなたと何が違うの? あなたの心は存在しない。意識はあなたの力で動いていない。だったらっ一体! なにがあなただっての! 違わないわ! 私生きてる! あなたも生きてる! それでいいじゃない……それ以上は言わないでっっ」


 笑い声が世界中に響いた。


 っとよく喋る妄想だ! 善悪が大声でクハぁっはと尚も笑い出す。

 ひいひい笑いの発作を押さえるように答える。


「反射だ。反射。ただの反射。生物的反応。すべてはどっかの婆がてめえの尻をバチンと

たたいたバタフライ効果だ……っとにおもしろい夢だな。お前。久しぶりに現実みたいだ

ったよ」


 絶望に世歩玲の顔が歪む。


「じゃあ消えな。……そして俺をもっとゾクゾクさせてくれよ」


 夢なら夢らしく、な!


 世歩玲の身体の中に黄色が染み……入る。


 大丈夫……かと思った半秒後。

 絶叫がこだました。

 世歩玲の身体が! 貫かれた部分から黄土のようにぼろぼろと原型を崩していく。

 さてーー、意識が別の矛先を向いたのか、身体の自由がきくようになる。


「世歩玲ッ」


 駆け寄ったときには……もう、上半身だけになっていた世歩玲を助け起こす。

 トーキチたちも一瞬頭によぎったが、崩れていく世歩玲のことで頭が一杯になる。どうすればいい、どうすればいいいんだ。


「達三……逃げて、大丈夫だから」


 右手を襟に。ミニチュアサイズの枕が一つ。


「これなら追われない。私が間違っていた」


 握りしめた拳が光輝く。

 それを俺の胸元に押しつけられた。

 同時に手首が共鳴するように光った。その光に引き込まれる感触がする。


「奈利、奈利いいいぃぃぃぃ」


 悲痛なトーキチの声が視野の向こう側で聞こえた。

 一筋の涙が崩れそうな左の顔を伝う。

 空間が捻れる感じがして、世歩玲がどこにいるのか引き延ばされてわからない。

 達三……。

 自分を呼ぶ世歩玲の涙声が。


「お願い……忘れないで……私を」


 忘れるわけがないだろうがあああああっっっっっっっ!!!!

 誰もいない草原で、俺はひとり、ひたすらに吼えた。

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