証-4(旧題:心アクロバット)
「小説書くって言ったな」
どんな話なんだ、ゼンアクがニコニコして尋ねる。
「ファンタジーかな? SFファンタジー」
ーー巫女さまとの話を。注意ごとを思い出す。「同じ夢みてることいったら駄目ですよぉ~、活劇生まれませんゆヱ」
「ちょっと待てよゼンアクの意識を乱せばいいって話しもなかったっけ?」
あー、それね。今はおいときなさい。人の考え方変えるなんて難しいわ。意図的でないのならだけど。同じ夢みてるっていったらどうなる? そっか不思議なこともあるんだなってタイプ? それともタツミの頭を疑ってくるのかしら? 確かに記憶はしてるはこっちにくれば思い出すでしょう。でも、転生のときもそう、要らないものと無意識が判断してしまってるなら、ほとんど現実では覚えていないわ。一度頭がおかしいって思われたら、その後が大変よ。……わかるでしょ?
「崇拝」
ああそんな光景にはイヤってほど見覚えがあった。
ーーどうした?
「あ、ごめん。ジャンル考えてた。異世界ファンタジーだった」
「先が長えな、まっ、いいよ手伝ってやるよ、タツミとの仲だもんな」
「突然現れた鏡を通って、異世界に行くと……ファンタジーの世界で」
激しく既視感に襲われる。ーーあるよな。こういう話はいっぱい。
そういえば、とゼンアクがやっていたという西洋風RPGに話をつなげた。
「ああ、あれかもうすぐクリアするんだよな」
ゼンアクのRPGの話を聞いて、大体似てるとオレはいった。
ただそれが、神がみの戦争の話に続いていく、と話す。
へえ面白そうやん、概念の戦争、擬人化、世界化みたいなもんだろ? うまく書ければどっかしら応募いけるんじゃないか?
まあ、ただ物語の構想とかはまだまだ。一応買ってはきてるんだけどね、と小説の書き方の本を見せた。
へえ、意外とひらめきとか天性とかそういった世界かと思ってたけど、そうでもないんだな、との感想にゼンアク好みのシステマチックな作り方、類型について書かれた本を選んでよかったと思う。
「類型……23ページっと」
ふーん。しばらく物珍しそうに流し読みしてたゼンアクが要所を一本釣りしてきた。
「物語はプロローグで決まるらしいな」
もっと設定とか、モチーフとかに話を持っていって印象づけたかったのに、うまくいかない。
「プロローグ……プロローグねえ? これって結局興味魅ければいいんだね?」
「まあそう書いてあるなーー道義そっちのけでな」
「善悪っえ何なに?」
だから何回フリック操作しなきゃいけないってんだ、スマホに憎々しげにウェブブラウジングを行っていた。
「いや何でもない、ああ、創作のサイトでは色々載ってるなあ」
例えば回想シーンだとか、バトルシーン。ゼンアクが列挙してあげる。
まあ、本当に小説できたそうだなとオレも少し楽しくなってくる。なんたってリアルにファンタジーの世界に出入りできるのだ。
「動きがあった方がいい?」
シコウが明後日を目指してそういった。
「異世界ファンタジーなんだろ?」
異世界で密室殺人でもするのか? ーーそれもなんかあった気がする。既存の作品はまずいよなあ、価値観がさだまるから、その世界のキャラクターはでそうでも、肝心のハツミがでてこない。
「謎も?」
言ってから失敗したと感じた。一瞬いいかと思ったら想像の余地を残したら主導権はゼンアクの夢の世界になるのだから、すべてきっちりハツミを連れて来させ、トラウマを見つけだし、それを解決してやらないといけない。
「なーるほど」
ゼンアクのいるだろ? との言葉に反応してまた失言をした。肯定してどうする。謎は余計だな。なんとかしてあの世界につながるものを印象づけないと、印象、印象。
記憶に残ってくれという願いが自分の声を大きくする。
まあ、ファンタジーっていったら中世だよな。姫様とか、王様とか勇者。
「そうだろうな、ほとんどがそんな感じで、ありふれてるともいえるし、受け入れられてるともいうな」
じゃあさ、聞いてみたいんだけど、と前置きした。もし仮に主人公としてさ。
「なあ、善悪はーー姫君をどう助けたい?」
魔王……姫様ならどっちかっていうと竜退治の王道だろうな。魔界の奥底まで連れさらわれたら、無事なわけがない。
「王道?そっか王道か!」
竜とくれば、とエピソードを付け加えた
「竜とか、ひ・と・つだけ願いが叶う、とかだよな?」
まあ、そういう話も多い気はするな。
ひたすら肯定の言葉を並べなつつ、カバンからノートをとりだす。
「……そうだよな、そうであるべきだよな」
「願いが叶うのは、ひ・と・つだけっと」
俺は太字のペンで別のページに写ることも気にせず、寄せ書きのように大きく紙面にキーワードを走らした。
慈愛のこもってそうな眼でゼンアクはそれを見ていた。
姫……勇者、竜、願いねえ。特徴がないな、オリジナリティがないとどうしても似たり寄ったりになるやん? まあ、同好会だけど、せっかく時間使うんだから、いいもの造らないとな。ゼンアクおまえって責任感の強いいいやつだったよ、と内心思う。
「やっぱさ、普通のって飽きるよな」
ゼンアクが言うことに全面的に同意した。うんうん。
やっぱなんか感情移入できないと、弱者が強者を倒す、とか。なにかを訴えるとか。
「意外とハッピーエンドじゃ意外性がない?」
そうかもな、とゼンアクが同意する。誰かが死ぬとか、典型的でわるいけど。
「儚さ?」
要るだろ!! 内心でつぶやいたつもりが、立ちあがって口に出していた。
気まずさよりも興奮してきた。頭がめまぐるしく動くのが心地いい。
「それナイス! さすがだな。善悪、真剣に考えてくれてありがとう。」手を叩く。
グラウンドを一周してきたように動悸がし、脳に血流を送り込む。
「じゃあまとめると、俺の小説は王道で姫様を救う話。敵はドラゴン、願いをたったひとつだけ叶えるバッドエンド」
少し引き気味で「じゃあそろそろ部活でるわ、達三頑張れよ」とそういって廊下のリノリウムに踏み入れかけていたゼンアクの背に、俺は飛び出そうな感情を抑えつけ、こう言った。
「善悪。姫様は幼なじみだよな」




