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決-6(旧題:この歌 天地の開け始まりける時よりいできにけり)

 すぐに玄室(げんしつ)へとたどり着いた。

 身長ほどの段差を降りる。底に紫雲が立ちこめる。艦橋(かんきょう)のような望楼状(ぼうろうじょう)のような印象を受けた。ただ、ここが戦艦のと違うのは本当にブリッジのようで谷にかかる橋のように向こう岸まで道があった。

 崖にかかる手すりのない無骨な橋の中間で旅の目的は達せられた。


「第三脳室」大分時間かかっちゃったわねとセフレが笑う。

「まあ一番時間かけておるでなあ」とトーキチ。

「応」とナリィー。仲良く手をつないでいる。

「さて色々と頃合いです」と巫女さま。


 皆の眼が俺に向く。


「やつらとは、みんなの敵ってのはいったい誰……いや何なんだ」

「そこは誰であっているわよ、タツミ。いえ、何、の話からしましょう」セフレの眼が遠くをみる。

「私たちははるか古代の時間から戦ってきた。昔はたくさん仲間がいたわ。自然と一体になる。先祖さま。魂の宿る樹。死者が還る川。私たちの住処。山。海。天」地にはまだ仲間がいるわ、と付け足す。

「わりと自然とか宗教とかはどうでもいいのよ」よく誤解されるけどねと軽く話す。

「科学が発展し、目に見えないものは切り捨てられる時代が過ぎ、再現性が低いものも切り捨てられる時代が過ぎた。検証、分析、臨床、測定ありとあらゆる角度からメスは入れられた」

 結果、心は完全にヤツラのものとなった。人間とはただの機械であり、思考はフィードバックとフィードフォーワード制御で全て解き明かせれると! そこには不確かなブラックボックスなど存在せず、全てはシステムで出来、そこには謎の入り込む余地はないと。


「けどね、それはヤツラ最大の失敗だったのよ。おそらく歯がゆい思いでしょうね。記憶があればだけど」


 パンッ、久々にでた柏手(かしわで)ひとつ。


「フィードフォーワード制御とは」


 巫女さまが扇子をマイクに見立てる。意外と現代っこじゃないか。

 かっ、からだでおぼえる。というとホオと握り拳をミシシと胸元に構える。


「予測」とナリィーがバタバタさせて答える。


 俺より年上のくせに見た目年齢でなんか負けた気がする。


「そう、予測するのは誰? 私という個体ならば私だけかしら? 」

「いまだ破られぬ堅き城にテレパスというものが御座います」


 巫女さまが口を挟む。


「幽霊や悪霊はそちらの世界にはもうほとんどいけません」

 えっ? でもナリィーは?? いかにも悪霊ですといわんばかりに黒い人間で部屋に居着いているはずだった。

「ドッペルゲンガー」意外にもナリィー本人が応じる。

「死ぬとき。その瞬間、その直前に強い思念を残すことができます」


 トーキチがナリィーを抱え込んだ。


「それを頭頂にて意思ある幻覚として受け取るのです」

「これ未来では携帯に取って代わるわ」


 さらりと重要なことがボンボンでる。普通未来人って過去の影響を思いやってってのがデフォルトと思っていた。

「まあジョンとかはそっちの方面で攻めてるわね、(かんば)しくないけど」

「とにかくヤツラは失敗したのよ、予測ということは想像の余白がある! 想像することとは」ここで言葉を切る。演説法か?

「私たちからの指令でもいいの」


 決して一個体で完結するものではない。全ての個体は繋がっていて、集団自意識というものを構成している。そういう定義はかろうじて未来でも残っているが、一般的では決してなく、そういった意味でたしかに劣勢である、と素直にセフレは認めた。


「未来においてはノイズ扱いなのよね私たち。ドッペルゲンガーの仕組みを観察されちゃって確定しちゃったから。それでもう危ないの」ったく微小管を量子レベルで観測って変態かっ、と愚痴たれた。


 たしか……全ては決まった法則があるといった思考の人たちを呼ぶ言葉があった気がし

た。ん~現実主義? 


「違う。ヤツラの手駒だけど違うわ」


 現物主義? えっあるの、と聞き返された。原理主義?


「ある意味、味方で敵だわ。遠くなったのね」


 懐疑主義 ?味方っぽいわね。マルクス主義?

「タツミ意味知ってるの? いい加減主義から離れなさい」


 降参~とナリィー様さまを見る。


唯物論者(ゆいぶつろんしゃ)」さすがっ、オレより頭よくないかこの子。


 で、仮に唯物論者で一杯になったらどうなるんだ? と疑問が鎌首を傾げる。


 心底いやそうにセフレは「パス」といい巫女さまを前に出した。

「全生物の滅亡が始まります。それが確定します。確定したとたんに収斂しまいまし

て……全てが水泡になり、すぐにはじけます」

「つまりのぉ、転生ができんじゃろ? 知識がうまく伝わらん。そんで退化する。転生せ

んから他の生物のことも思いやらん。動物や植物も減って、すべてがしぼむわけじゃ」

「生命が存続するには……わたくしたちは正史となります」

 

 蓋をあけたらどうやら世界の破滅どころではなかったらしい。


「さっき誰が敵なんだ? っての間違ってないっていったよな? 誰だ? 誰なんだ? ゼンアクだったらてっとり早いな」


 と少しやる気が出て心持ち大きな声で尋ねた。ーー答えが返ってこない。

 見渡すと一同顔を揃え、首を傾げ


『さあ?』とだけいった。


 ッッヲイ!! 


 ーーなるほどね。理由を聞いて俺は納得した。


 唯物論者は完全に集団自意識というものを拒絶しているらしい。そればかりか転生の記憶も拒絶しているので、死後の世界のようなところには行かないし、創れないし、でも現実にはいるはずで、でも決まって唯物論に染まっているらしい。もっとも、転生の記憶を持って生まれても脳の限界を大多数による観測で定義された、今となっては大概がゴミとしてすぐ色あせ消去されるらしい。死んで戻ってくれば思いだすらしいが。どっちがメインの世界なのか解らなくなってきたおれにセフレは「共存関係」と助け船を出したくれた。


「だから探すって言ってたのか男を」男なのか? という生じた思考をセフレがくみ取り腹立たしげにいう。

「男よ、そのとき、その時代、動きやすい、影響力をもてる立場で転生するわ。っとに転

生してるのに自覚ないって最低ね」

戦争という(かげ)りある言葉がのしかかる。

「見つけたら、どうするんだ?」


 ーーたぶんこの返答しだいで、俺の気持ちは換わるのだろう。結局架空の生命体が自分の存在を肯定するために闘うってことだろ? 夢物語すぎる。これで唯物論者を殺してまわるって言うなら現実で生きている俺は笑うしかないーー


 ちょっと待ってよ。ぼやかすのかと疑問がよぎる。


「私たちは穏健派(おんけんは)よ。潜在的二元論穏健派。記憶を操作できるのよ、私は。そしてね、隣におらっしゃるのがバカがみ様。積極派にあったらとっくに現実でなにかの宗教にどっぷりなんじゃない? あれも正しいっちゃ正しいと思うけど……」


 何事かセフレが考え始めた。


 答えはないわね。殺して済めば簡単だけど。どう思う? と逆に尋ねられた。たしかに。


 一人殺したって何も世の中は変わらないだろう「転生するしね」とセフレ。そっか、そういう戦争か。


「ようやく掴めてきたよ、たしかに殺してどうにかなるものじゃあないね。どっちかっていうと説得の方が効果的な気がする」

「信じたことは一度もないからね。どっちみち向こうは存在を殺しにかかってくるからそんな暇はないと思うわ。ゼンアクはどうも唯物論者くさいしね」さてとこれ以上は行ってみないとわからない、っと締めた。気持ちよさそうにセフレは背伸びをした。

「すっっっきりしたァ」


 セフレが手を差し出す。


「私たちを助けてくれる?」

その科白(せりふ)は予測済みさ、と俺のフィードフォーワードが綺麗な戦士の手を握る。


「飛び込む前にひとつだけ」


両肩をがっちり掴まれた。「皆も」一同が近寄る。「ミコトは別」片手で神さまを追い払う。いそいそと巫女さま後退。


「絶対にゼンアク様には刃向かわないこと」復唱ぉ。


草食動物の気弱さでトーキチが素直に復唱する。


「ゼンアク」ナリィーが手抜き。


両頬をイーと引っ張り「ゼンアクさーまー」と教え込む。

「ぜんあくさま」ヒリヒリ頬を押さえて言う。

 ヨシッと。セフレは意気込む。


「気をつけて」


 そして絶対に刃向かわないで。いい? と念を押されるた俺が思う、意識を乱して?


「機会は一回だけではないわ、まずは選ばれた人の強さを体感すること。そして、無事に戻ってくることね」


 神妙な顔で聞いたことのない祈りをつぶやく。


「いい? 皆? 行くわよッッ」


 そのかけ声で俺らは飛んだ。


 俺はセフレと手を繋ぎ、トーキチはナリィーをしっかりと握っていた。ミコさまはどっかにいっていたーー。


 シエンがシカイをおおってゆく。

 コさにひれーするように

 いしきが

 しこうが

 とおのーー。

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