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決-5(旧題:この歌 天地の開け始まりける時よりいできにけり)

 トーキチさんが背中にナリィーをおぶり側脳室脈絡叢(みゃくらくそう)のツタを登る。日頃のお勤めのせいか進む手は早い。と。ナリィーが「可能」と抵抗し、落ちそうになるのを防ぐで、天地がひっくり返るを体現するほどの大騒ぎである。

 巻き込まれないように脇から登る。セフレは「覗かれちゃたまらないわ、減るもの」といって最後尾である。んな、ラブコメじゃあるまいし。といったら露出度の高いセーターを指さし「じゃあ増やして」といったので当然断固断る! 本能に無意識が勝てるもんか! 

 そうかセフレが先に登れば……ただで短いホットパンツも、という寸でのところで扇の柄が飛んできた。巫女さまは大事な宝物を守るように消えた扇を追いかけていたのに、崖のうえから俺らを覗きこんでいた。

 ねっ、と言ったセフレに追い立てられとっかかりがいっぱいあるロッククライミングを開始した。


「あれは別枠」と下からセフレの声がした。

「もうすぐですよー」気の抜けて和む声が降り注ぐ。


正直和めないんですが、ヨッチ、てうぃいと何とか崖きしに左肘を乗せた。反動をつけて右肘。力をこめて芋虫の脱皮のように重心を安全圏にのせる。左もも。体を半回転。ふうミッションコンプリート。

 のぞき込む側に俺もまわる。トーキチからブーたれたナリィーを預かり引っ張りあげた。

 あとはセフレだけである。まだ姿が陰ってみえる。


「うむ、よき趣向じゃ」と脳内殿下がお顔を御簾からのぞかせた。


 横にトーキチさんがいる。「トーキチさん」俺が呟くと「なにもいうでない」と血走った眼がいう。(不可抗力じゃ)

 そうか……やっぱり渓谷での叫びは魂からのだったのですね、と出会いに感謝した。祈りが届いたのかセフレが射程圏内に姿を見せる。


「あんた……ら」下から地鳴りのような怒声がわきあがってくる。


がしゃーんがしゃがしゃという音で再生する搭乗型機械が地に這いつくばって迫る。しかしここで怯むとただの犬死にである。父さん。俺闘うよ。

 ガシッとトーキチさんが俺の左肩をつかむ。「いいか、よく落ち着いてくんじゃ。狙いを定めて、的をみよ」

 ぶんぶんとふる俺の頭をトーキチさんが固定。

 セフレの形よく柔らかそうな胸元をにらむ。一本! 二本! 繊維の束がはじけて消え

る。ブラジャーがみえる。血のいろだ。

 いやいや、セフレの魅力を最大に引き出す可愛い色である。

 セフレの顔はいまや噴火寸前の火山の火口内部だった。

 動力炉に誰がよけいなことをしたのか火をくべたようで上昇速度増加! 


「まだじゃ、まだじゃあ」


 トーキチさんが声を荒げる。

 残された時間は少ない。


「肩紐をねらうんじゃあ」


 はい司令!! 心のなかで上官に敬礼し、仰角を5度修正。右っ!!


「射れえええええええ」


 上官の号令で右のひもがはじけ飛ぶ。


 呻いたように怪物が一瞬ひるむ。顔を再度侵攻方向にあげる。眼があった。イヤァァッイヤァァァァァ。悲痛な未来図が泣き叫ぶ。


「第二陣形用意!!」


 なんと! まだ折れていないというのか。隣の御仁(おじん)と眼が合う。

 大丈夫だ、死んでも屍は拾ってやる。そういわれた気がした。

 震える右手を左肩口に向ける……これで、死んでもいい。


「うらぁぁああああ」


 バツン。


 左の肩紐がはじけ飛び。豊満な乳房が……乳房が……。

 乳房に引っかかった? あーー死んだ。

 結局意味なかったですな……。そうですのぉ。

 おおきすぎましたな……。そうですのぉ。

 重力操作できたらなあ……。そうですのぉ。

ーー無念。

 安らかな最期の語らいをわき目に。

 地獄の淵から飛び出た悪魔(ジャヴァウォック)の魔爪に左半身が吹き飛ばされた。

 トーキチさんという敗残兵を収容しように行くと、トーキチでよいぞと言われた。ならオレもタツミで……と友情を育んでいるというのに、セフレは熱気あふれる冷や水を浴びせに浴びせた。

 これでよしっと、セーターの余った布地でさらしのように巻いたセフレがこっちを睨む。っとに進歩したと思ったら無駄に使いやがってと言ったところで我に返り、それもありかと自分で納得していた。

 なんか殴られ損? 「まだ殴られたいの?」ときたので話題を緊急脱出。さっき言われた巫女さまとの会話について聞いてみることにした。


「振りよ振り、単なる檄よ、気にするだけ無駄ってものだわ」


まったく「ミコトはぁ~」と「長いつきあいだけど掴めないわぁ~」と下がり調子で言った。なんかワタシにも隠し事してるのよね。最近」


 ミコトのことだから断言するわ! きっとろくでもないことよ。

 断定を恐れるセフレが断定するって時点でもう、神の所行(しょぎょう)以外のなんでもないな、と思案する。

 わかってきたじゃない、とセフレは嬉しそうだ。


「抱きついてきたり、キスしたり、かといってムネのぞこうとしただけで本気で怒ったり、マッタクよくわからないよ」

 っしまった。忘れさせたという記憶ごと覚えさせたことを言ってしまった。とびかかって来られるかと身構えた。唇の貞操を守るべく盾にした両腕をおろす。いつまでたっても何もこなかったからだ。


「アレは使えないわ。一回限りっだもの。それに突拍子のないタイミングじゃないと派手な印象が残らないでしょ」


 そうなのか、じゃあセフレが思いっきり抱きついてきたって宝物も残るんだな、と小脳が再起動すると。

 マグマ溜まりのように底に見え隠れする照れで「馬鹿っ」といわれた。

 かっわえ~~と、オレの何かの発射スイッチが押されるかという寸前。セフレが放った専門用語という名の暗殺者(アサシン)がすんでのところで阻止をした。


「フィードフォーワード制御」知ってるかしら? と脳内の殿下が闇討ちされ、じゃあ「フィードバック制御」と理性が本能という寺を焼き討ちした。真面目路線に急に変更になった頭は融通はきかず、知らないと答えるに至った。

 じゃあまずはアイツラのから、とセフレがいうとオレを立ち止まらせ、寝っころがれそうな細長いトンネルの側面に体を向けさした。そのままもと来た道を歩いて距離をあけ、スピードと体重の乗った右ストレートを本気で打ってきた。イひイッ。さっき殴られた軌道で差し迫った拳が、情けなくもよろめいて尻餅ついたオレの頭上を通過する。


「これがフィードバック制御」


 無表情で淡々とセフレが解説する。

 でもって。コツンと頭上のこぶしでタップされた。


「ワタシから見たらこれがフィードフォーワード制御になるわ。タツミはよけるだろうからと予測(・・)して、速度をゆるめる制御(・・)をして当てることにする、と」再びストレートで殴るふりをゆっくりする。手が伸びきる前で腕を止める。「ここでタツミがよけた」座り込んだままのタツミの方になだらかに腕がせまる。額にコツン。


「ワタシはタツミが下によけると予め予測をたててタツミの動きに合わせて下の軌道で振り抜く。これはもう頭で考えるというレベルではなくてからだが覚えているっていうことよ。非宣言記憶がおぼえているって言い回しもあるわ」

「説明おわり。ワタシがその……飛び上がるぐらい喜んだのは、フィードフォーワード制御をやってくれたからよ」

「補足いたしましょうか?」


 ぬっと巫女さまがあらわれた。


「セフィーはですね。タツミさまがわれらの陣営のものだとわかり興奮してしまいました。私もその様をみてるといてもたってもいられず」


 何を言っているのか。


「みーこぉーとぉ~。……いいの?」


 さっぱりさっぱり。疑問符が浮かぶオレをまあまあとトーキチが押さえドカッと隣に座る。


「わしゃあ賛成だがタツミの意思だけは優先させたいのぉ」

「同意」トーキチの膝元に指定席と言わんばかりのナリィーが座る。


 しばらくセフレが巫女さまの眼を見つづけた。巫女さまは扇をひらいてそっちに眼をそらした。


「ウェルニッケ野で、した会話を覚えている?」


 まあいろいろと。いろんな会話をしたので漠然とではあるが頷いた。


「武器の話がでたわね」


 そうですね。と肯定する。ーーそう色々とおかしいことだらけなのだ、お気楽な仕事程度のお役目かに思えながら、若く可愛らしい赤髪の少女が世界から消え、夢の中にあらわれるだけにしては、手の込みようがすごい。舞いたいと宣った神さまと、ゼンアク様と様をつけるわりには意識を乱せばいい、との矛盾。セフレの目的。ナリィーたちは少し毛色が違う気もするが、協力的なのには理由があるのだろう。

「タツミがわかっているように当然。敵もいるの」

「これを話す以上は当事者になるわ。ーーでもそっから先はあなたの意思、降りても誰も

文句はいわない」


 申し訳なさそうな眼でなおも語る。


「最初ゼンアクの無意識に飛び込んだとき、半ば連れ去るように強引に向かったのには理

由があるの」


 騙しててごめんなさい、と謝る。

 他の三人も頭を垂れた。巫女さまでさえも。


「適性があるの。ヒトの無意識の世界に入る。大抵の人はあの時点で目が醒めてしまうわ。私たちは長い年月をかけて拒絶される人、少しは耐えれる人、自意識を浸食される人の見分けがつくようになった。結果としてわかったのは自意識が強い人は私たちには危険すぎた。異物だからね。何度もたたかいーー」悔しさを断ち切るように言葉尻を変える。

 目線がはずれない。おそらく劣勢なのだろう、そしてその戦いの悔しさ辛さは口にだせない。こう思ってしまうことが既に期待を裏切っているのかもしれなかった。


「大丈夫よ」セフレが微笑む。察してくれてありがとう。

「こっから先が説明難しいのだけど。故人の説明を借りるわ」


 待って、と。顔をしかめて巫女さまを呼ぶ。


「……は話して大丈夫かしら?」

「事実ですよ、良くも悪くもならない、かと」

 わかったわと頷き、オレなら歯がみするだろう口を開く。

 石原莞爾、昔の日本の軍人さんの演説にこんな一節があるの。大量に人を殺戮できる戦争が始まったならば、次は四次元の戦争である。


「時間の概念が絡むと考えたのね。あの時代で。すごい慧眼だわ」


 じゃあ。オレはセフレがわりと未来に生きているという言葉を思いだした。楽しそうに

オレをセフレが見やる。

「四次元の戦争……なのか?」言ったところで実感がわかない。言った自分でなんだよそれといいたくなる。

「違うわ。それに四次元の戦争ならもう始まっているはずよ」


 時間をかけた戦争。プロパガンダ。情報線。誘導。Eシンドローム。目に見えるものだけが敵ではないわ。また正しいと思ったものが間違ったものであることも少なくない。デコイが吹き荒れる世界。でも、それも私たちの戦いとは違っているわ、文字どおり次元がね。呆気にとられるオレの頭脳にトドメを刺すようにセフレが宣言する。


「私たちの戦争とは、五次元よ」


 とりなすように「でも四次元の戦争よりかは説明が楽かな」とセフレが話す。空間。時間。次に何がくると思う? その答えにサア? と言うと「概念」と教えられた。


「私たちはずっと闘ってきた。心臓をやつらに盗られ、脳の住処を追われ、心の居場所も奪われた。この側脳室脈絡叢を抜けた先が私たち最後の砦……さあ行きましょう」


 一同に促され、羨道(せんどう)を先行く。

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