第拾弐話
「すまないが……、私が消える前に、楸と琳に言わなければならない事がある」
「はい、何ですか?」
慶紀さんはその哀れな容姿で少し覚悟を決めていきなよのような顔をしています。もう既に私は覚悟を決めていますよ。琳ちゃんもですけど。
「楸、琳。その、今まではすまなかったな……。私が役割を劣っていたせいでこうなってしまっていたようで」
「あ、いえ。それなら大丈夫です」
「……ふむ、そうか。楸が言うのなら琳も大丈夫なのであろう。だが、これからは幾度の超常現象が起きると思う。だから、私からお前達にこれを授けるから平手にしてくれないか?」
慶紀から妖術らきし詠唱で何かを唱え、私と琳ちゃんの掌にくれたのは御守りの何かなのでしょうか。こんな一面の“父親”の空気、どこか実父と似ている気がしていますね。記憶がまだ全て解かれた訳ではないからいまいち思い出せないけれど……、何か思い出せそうで思い出せないですね……。慶紀さんは微笑ましい表情で言ってくれました。
「ふふ、気になるだろう?楸と琳よ。そうだな。確かに見た目は普通の御守りだ。だが、普通の御守りと見てはいけないぞ。普通の人間ならこんな巧みな術が出来る人間はそうそういない。特殊な御守りって物だよ」
「そうなんですか」
「あぁ、そうだとも。まず琳からの御守りに関して言っておこう」
「うん!」
「その御守りは「半妖の為の御守り」だ。半妖の御守りは基本メリットとしては妖の類としては一番最弱な者だから相手或いは敵に対してはきちんと加護を受けれるようになっている。但し、人間には無効化だから気を付けるのだぞ」
「そうなんだ!」
「あぁ、次は楸の御守りについてだが、特殊なのは実を言ってしまうとこっちの方になるのだが……」
「え?私の持ってる方の御守りが特殊なんですか!?」
私は咄嗟に驚愕してまいました。てっきり琳ちゃんも特殊だと思いましたよ……。でも何故琳ちゃんは普通の妖の御守りなのでしょうか?気になりますね。
「本来であれば楸にも「妖怪の御守り」を授けるつもりだったのだが、楸にやられてから私の気が変わったのだ」
「え?そ、そうなんですか?」
「あぁ、本来授ける予定の方の「妖怪の御守り」は機能面としては琳にあげた御守りと似ている。ただ楸にあげた御守りは妖怪ではなく、狐神の御守りを授けたんだ。外観を見て分かると思うが、ひと際神々しさを感じるだろう?」
私は改めてその手にしている狐神の御守りをじっくりと見ましたよ。慶紀さんの言う通りにかなり神々しさを感じますね。と思いきや慶紀さんがまだ説明を続けましたね。
「その御守りはな、楸には未知の力が秘めている可能性があるとしてのも含めてだ。その力が目覚め始めた頃にこの御守りは発動するだろう。無論、出来事も全て一変して今までにない事も起こり得る。最後にもう一度忠告する。琳と楸、それでも覚悟があるのか?」
慶紀さんは再び真剣な表情で私と琳ちゃんに問いました。勿論、覚悟は既にあるので返事しましたよ。
「ええ、あります。これから何が起きようとしても私は決して屈しません」
「うん!お姉ちゃんの言う通りだよ。あたしも絶対に諦めたりなんかしないよ!」
そう言って慶紀さんが安心したのか表情が緩み、微笑みに戻りましたが……あれ?慶紀さんの容姿が少し薄まってきています?
「そうか……、それなら私からは……。もう、何も言う事が無いな……」
「慶紀さん!?」
「お父さん!?」
「案ずるな……、見て察すれば分かるが私は今この哀れな身であるんだぞ?そんな状態が延々と続けまい。うむ、私は今灰となって消える定めなのだよ。だが悲しむな、私だって本当はこのような結末を迎えたくは無かったのだが、仕方が無かった事なんだ……」
「……」
あまりにも平然と言いますので黙り込んでしまいました……。そしたらフォローする感じに言ってくれた慶紀さんは実は本当は良い人なんだなと思いました。
「ふふ……、そこまでして悲しむか。まあ、心配するでない。灰となって消えるが、その切なささえ覚えていれば決して忘れる事は無いだろう」
そんな事を言っている内にみるみる消えていくのが分かりますね……。
「嗚呼、もう消え時か……、では楸。我が子の琳を見てやってくれたまえ。そして琳は楸を支える存在となれ。これが最後だ。その“運命の終末までに私が復活”すればまたどこかで出会うだろう。毎日精進していけば良い。さらばだ」
その途端、慶紀さんは完全に姿を消しました。暫く私はそこに立ち竦んでいましたけど最後かなり意味深な事を述べていましたね。復活、ですか。もしかして慶紀さんの半妖の正体は……。
「お姉ちゃーん?何ぼーっとしているの?」
「……え?あ、ううん。大丈夫だよ、琳ちゃん。これからは私と琳ちゃんで色んな種族の人や妖を守っていければそれで良いんだよ」
「それもそうだけどお姉ちゃん。大事な事が一つ忘れているよ?」
「え?」
何でしょうか?一つ大事な事を忘れているとは?気になりますね。
「それはお姉ちゃんにとって大切な妖、白狐さんじゃないの?」
「あ……」
楸ちゃんがさっきからやたら笑顔だなと思って振り向いたらそこには白狐さんの姿がありましたよ!?いつからそこにいたんですか!?白狐さん!!
「……え!?あのー、白狐さん」
「ん?何じゃ楸よ」
「一体いつからそこにいたんですか?」
「んー、そうじゃの。その慶紀とやらが哀れな身となってからかの」
「それって最初からじゃん!!」
私はついツッコミをしてしまいましたが、白狐さんはそれに対して面白がっているのか。かなり満面な笑みを浮かべています!意味深過ぎますよ!
「ふふ、そうじゃの。じゃがな、そのおかげで慶紀とやらの話を聞けたから良かったのじゃよ」
「そ、そうですか……」
私は半分呆れて返事をしましたがそこで白狐さんは意外な事を言ってきました。
「確か慶紀とやらは私が復活だとか言ったかの。それで我は分かったのじゃ、此奴の半妖の正体は時限蘇生で出来ている体質なのじゃろうな」
「それってどう言う事ですか?」
「つまり慶紀とやらが言ったように、簡単に言えば時間が経てばまた蘇るって事じゃよ。とは言っても蘇る時期は早い時もあれば遅い時もあるかろう」
「そうなんですか!?」
「うむ、無論。先程の様子じゃと。慶紀の存在すら思い出せない時に蘇りそうじゃの。少なくとも数百年単位に及ぶかどうかじゃな」
私は白狐さんの慶紀の半妖の正体の説明を聞きながら心の片隅でどこか納得しているようにも思いました。まあ、最も琳ちゃんが興味津々に聞いていた様子で少々笑いそうになったんですけどね。いつの間にか翁さん達の姿はありませんでした。恐らく慶紀さんが消えた事で妖怪屋敷に戻ったのでしょうね。
「あとは……、琳ちゃんの母親。華江さんをどうにかしないとだね……」
「うむ。そうじゃな。正念場はここからじゃ。華江は今人間と半妖の間の存在に位置するのじゃ。楸の返答によっては半妖化になり兼ねないじゃろうな」
私は想像して咄嗟にゾッとしましたよ……。華江さんが半妖化なんてしたらとんでもないですよ。実際その想像通りに華江さんはかなり怖い性格です。下手に怒らせたりしますと虐待を何度か受けた事ありますからね。
そして私達は妖怪屋敷に戻り、地下牢へと足を運びました。




