第拾参話
「……誰?」
私と琳ちゃんと白狐さんと3人で妖怪屋敷の地下牢に行きました。白狐さんの言う通りに奥に育ての母華江さんの姿がありましたが、私の知っている育ての母ではありませんでした……。
「あっ……」
幸いまだ半妖化していないみたいでしたが、顔立ちがかなり怖くて一瞬どよめきましたよ。
「えーっと……、ひ、楸です」
「何?あんたはもう人間を辞めたんでしょ?なら好きにしなさいよ」
体育座りになって俯いていた華江がそれきりしか言ってくれませんので更に私は言ったよ。
「あのー、私は人間を辞めたと言うか訳があって私はこのような容姿になっているんです」
「はー!?何よそれ!さっきからごちゃごちゃと煩いと思えば何なの!?その理屈は!!」
「えっ……!?」
気付いたら奥に華江さんの姿が無く、目の前に華江さんがいて包丁が突き掛りそうになりました。
「なっ!?楸!!避けるんじゃ!!」
「お姉ちゃん!!避けて!」
「…あ!はい!」
私は言われた通り咄嗟に避けましたよ。もし琳ちゃんや白狐さんに言われなかったら一瞬にして胸部を貫かれたかも知れないです……。言わんこっちゃないの油断大敵でした……。
「ちっ……!逃げ足だけは早いのね……。はぁ、全く気に入らないわね。それだから憎いのよ。あんたの能力の素晴らしさとか秀才さに!!」
「?……それはどういう事なんですか?」
「どういう事でもそんなもん私に聞かれても知らないわよ!私はもうあんたの親じゃないし!翁にでも聞きなさいよ!ったく!これだから嫌なのよ!」
華江さんは憎しみや悔しみの籠った口調で私に言いました。だけどさっき感じられなかった妖気が僅かに感じ始めましたね……。
「(おい、楸よ。大丈夫じゃったか?どうやらあの華江とやらから若干妖気が出始めとるの)」
「(お姉ちゃん、気を付けて)」
「(あぁ、うん。大丈夫だよ。さっきは完全に油断していただけだよ。確かに漏れ出ているね)」
華江さんの表情が更に険しくなっていき、般若に近いと言っても過言じゃないかも知れませんね。そして華江さんの額辺りに般若のお面らしきものが現れました。……あれ、もしかして……。
「ここまで私の事を侮辱しておって……!許さないわよ!我が子でも我が子じゃなくても!観念しなさい!はああああ!」
明らかに致命傷に至る光線が私と琳ちゃんに目掛けてきました。
「っと!」
「んっ!」
私と琳ちゃんは華麗に避けましたが何故か白狐さんには光線が来ませんでしたね。私は咄嗟に白狐さんの所に駆け寄り小声で会話しました。
「(白狐さん、これはどういう事ですか?)」
「(うむ、どうやら対象としては楸と琳だけのようじゃな、我が華江とやらを捕らえた時も気付かなかったようじゃしの、恐らく華江にとっては我は見えていないのかも知れぬの)」
「(そ、そうなんですか!?)」
意外な発言に驚愕してしました。
「(我と華江とは縁も無く、そして今はただの人間じゃろう?あれでもまだ半妖には及ばぬの)」
あ、あれで半妖じゃない!?と言うともし半妖になったらとんでもない強さになるんじゃ……。
「(まあ、楸よ。そこは心配せんで良い。万が一楸と琳が危機に直面したら手助けを行うとしよう。この戦いは本来楸と琳だけになるからの。頑張るのじゃぞ)」
そう言って私の頭を撫でました。うぅ…、こんな場面で撫でられるのはちょっと……、でも撫でられるのは少し気持ちが良かったので心中では許しました。
「あんた!さっきから何をしているの!殺るわよ!」
おっと、そうでしたね。ちょっと長過ぎたかも知れないです。
「まあ良いわ。まずは我が子じゃない瓠から殺ってやろうじゃないの!はあああ!!」
今度は沢山の般若のお面が私に目掛けて飛んできました。これ避けれるかな……。
「よっ!よっ!はっ!っと!」
「さっきからちょこまかちょこまかと!ええい!そこまで避けるならこうよ!!」
「よっと!……へ?うわぁ!?」
沢山の般若のお面に紛れて包丁が飛んできましたよ。そして咄嗟に避けて直撃はしなかったものの巫女服の一部が飛んできたいくつかの包丁によって所々が破れてしまいました……。恥ずかしい……。
「あ、危なかった……」
「これでも序の口よ!あんたの能力を私に寄こしなさい!」
そんな険しい表情の華江さんだったけど、あれ?妖気が少し変わっていってる?表情が少し歪み始めたみたいです。
「…!?な、何なのよ!この禍々しいオーラは!こんなの知らないよ!!ひっ!?何これ!!その黒いオーラで私を包む気なの!?止めなさい!止めなさいってば!ちょっと止めなさ―――」
華江さんから突如真っ黒なオーラが現れ、華江さんを包むようにしてしまいましたが、最後の声が一瞬にして消えましたね。
「(ふむ、華江とやらはあくまでも人間じゃったからの、妖気に縋って使い過ぎるとあんな風になるんじゃの、となれば間違いなく半妖化した華江になるようじゃな。半妖になってしまえば我の姿も見えるだろうから一緒に参戦するとしようかの)」
白狐さんはそう呟き、戦闘態勢に入りました。琳ちゃんは私と白狐さんの反対側で戦闘態勢に入っていますね。そして数十秒くらい経って、華江さんの姿が現れましたが人間だった時の華江さんと違ってかなり化け物に近い半妖の華江さんでした。
「ふはは……ふははははははははは!!!」
その声はほぼ華江さんの声ではなくまるで憑依しているかのような感じです。どうやら華江さんは依代となった状態のようです。
「そうかそうか……、我が邪魔立てようとしている者はお主か」
完全体ではないせいか、依代のせいか、声が若干華江さんの声質が残っているようです。そしてこの口調のギャップさで笑いを堪えましたよ……。だって可笑しいんですもの。
「ぬ?その隣は……む?そうかそうか、お主は白狐かの?」
「ほう、我の事を存じておるとはな、となれば数百年ぶりの再会のようじゃの」
「ふはは!そのようじゃな!我は至って漆黒たる者の具現の神であるぞ!」
その姿で言われても説得力が無いです。と言うか、早くしてくれませんかね。白狐さんも真剣な顔付きです。
「まあ漆黒神よ。挨拶はここら辺にしておいたらどうじゃ?我らもそこまで悠長にしている時間は無いのでね」
「そうかそうか、お主らは時間が無いようとでも言うのかの。ならばここが会ったが数百年!いざ、尋常に勝負じゃ!!最初から本気モードでいくぞよ!」
「!!」
私達は漆黒神の全方位の黒い円を咄嗟に飛んで避けました。神とは言え威力がやばいです……。ただ姿は半妖にも関わらず威力が半妖じゃないです……。
「隙在りじゃ!光炎の舞!」
「ぬお!?」
白狐さんが隙を狙って刀で攻撃してくれたおかげでやっとこちらに攻撃出来る手段が増えました。
「いきます!国士砲炎!」
そして私の右の掌から無数の蒼い炎が漆黒神に向かっていきましたが……。
「そ、そんな……」
「ほう、中々の良い心構えの技法じゃな。ふむ、ならばこちらも本気で取り掛かろうとするかのう」
そう言いつつ漆黒神が何やら唱え始めましたよ……。どうしよう、このままでは私と琳ちゃんと白狐さんが危ないです……。




