第拾話
「うーん……、どうしようかな」
「どうしたの?お姉ちゃん」
あの後翁から大事な話を聞いていたんだけれど、育ての父の方はどうやらまだ捕まえていないみたいですけどね。そして最初に部屋を出て行った白狐について聞いてみた所、人間界だけではなく妖界でやる事がある為だと言う事だったそうですが、午後辺りには戻って来るとの事でした。と言うか母と違って父は半妖だから……、まさか!?
「……昔は翁さんの部下だとは言ったね、確か。となればここの居場所も特定出来る筈だよね」
「うん、言ってたよ?」
後、琳ちゃんの実父はどんな半妖なのかも聞いておくべきでしたね。でも妖怪と半妖で考えてしまえば、言うまでも無いような結果が待ち構えているようですけど油断は禁物ですね。
「となれば、関連性の高い私達の本拠に来るんじゃないかな?しかも人間ではなく半妖だからどんな移動手段で来ているのかも想定付かない……どうしよう」
「あたしは半妖だけど、力になれるなら貸してあげたいー!」
「え!?待って、私にとっては無縁だけど琳ちゃんにとっては実父だよ!?」
「……あ、そ、そうだったね。お姉ちゃん……」
そしたら琳ちゃんは、暫く俯いていたけど再び顔を上げた時は何かを決心したような顔つきで私に言いましたね。
「ううん、良いの。お姉ちゃんにとってとても辛いのならあたしも協力してお父さんを倒すよ!」
「それはそれで私は嬉しいけれど……、でも本当に良いの?」
「うん!それでお姉ちゃんが幸せになれるのならそれで良いの!」
そしていつもの琳ちゃんからのハグが来まして、おまけに尻尾もモフモフしてきました。やっぱり直接肌に付いている為かやっぱり擽ったいですけど最初よりはまあまあ慣れてきましたよ。
翁さんが言うには草村慶紀と言う半妖は少なくとも今こちらに物凄い勢いで向かっているようです。早ければ今日の夕方辺りに襲ってくるのだとか言っていました。私にとってはとても信じ難い話ですけど、その真実を認めるしか私にはありませんね。
「琳ちゃんがそこまで言うからには……、それに応えてあげるしかないよね!」
私も琳ちゃんと同じく確実に慶紀を倒す事に考えを変えましたよ。
そして案の定、午前中は特に何事も起きなかったようだったので、翁さんの言う事は誠のようでした。流石妖怪屋敷の長と言うには相応しいですね。私は午前中外に出て妖術の練習をしましたが、特に頭には響き渡りませんでした。本当に私がピンチな時だけなのでしょうかね。あんな凄い妖術を使ったきりでしたので、あまり大した強さの妖術ではないですが使えば使う程何かが思い出されるようになっての感覚になります。
「取り敢えずやってみるしかないかな……」
私はそんな考えをしながら屋敷の外でうろうろしていましたが突然玄関から翁さんが急いで出てきて私に何か話し掛けてきました。まさか予定より早くなったパターンですかね?
「楸よー!取り敢えず結界は張っておいたが、慶紀はこれを破って来ると思うから気を付けるのじゃー!」
やっぱり予定より早く来るそうです。屋敷から出てきた翁さんの妖怪達の何人かも増援に来たようですが残りは屋敷にいるようですね。
「む……!?気を付けるのじゃ楸!」
「え……うわっと!?」
結界を破ってきたのは育ての父、草村慶紀でした。しかし、その顔付きは完全に無表情な感じで流石の私もちょっとだけ躊躇ってしまいましたよ……。あまりにも威圧があってですね……。
「ふむ……、そうか。お前はもう理解しているのだな。あぁ、そうだとも。お前の父ではないと言うのも知っているのだろう?」
「……そうですけど、何か文句でもあるんですか?」
「ほう……?随分と口を聞くようになったようではないか?」
まだ落ち着いている様子ですがこのままだと戦闘に入り兼ねませんね。何か策でも出さないとまずいです。一応後ろの方に翁さん達もいるようですが油断はしません。
「……ふむ、まあ良い。だが楸。私から1つだけ聞いてもらうが、良いか?」
「……何ですか?」
「半妖の私であるが、そこら辺の半妖とは違っていてな。そんな簡単にはやられないから弁えるのだな」
「うわっ……!?」
言ったそばから瞬時に私に駆け寄って腹に目掛けて殴られそうになりました。咄嗟に後ろに避けたので間一髪でしたよ……。
「……ふむ、そうか。此奴は面白い身体能力であるな。私の瞬間右ストレートを咄嗟に下がって避けるとはな。だが、次はどうだ?」
「っ……また消えた……!?」
姿が分かった時には遅かったです。再び腹に目掛けて来ましたが少し擦れただけで、危なかったです。
「どうだ?私の瞬時な動きに避ける事すら困難だろう?さあ、答えろ楸。愛する妻と我が子の琳は、どこにいる?」
「ふっ……、その質問に答えるとでも思いますか?」
「何……?」
その時、琳ちゃんが後ろから慶紀の背中を思いっきり蹴ろうとしましたが、避けられましたね。中々厄介です。
「ちっ……。我が子もこの私に裏切ると言うのか?」
「うん。だってお姉ちゃんとなら一緒にやっていけそうな気がするんだもの」
「そうか……。愚か者め」
「がっ……!?うっ……!」
そして慶紀は瞬時に動き、琳ちゃんの腹に目掛けて見事に右ストレートを決められ、琳ちゃんは吹っ飛んでしまいました。我が子とか言っている癖にこんな事をするなんて最早親子でも何でもありません。そして咄嗟に琳ちゃんの所に駆け付けました。
「うぅ……お姉ちゃん……」
「大丈夫!?琳ちゃん!!」
「ううん……。大丈夫、だよ……お姉ちゃん……」
そう言って琳ちゃんは、ぐったりと仰向けに倒れてしまいました。幸い命にまでは至っていないようですけどかなりダメージを負っている筈です。こう言う時に白狐さんがいればと思うと切ないです……。その途端、私の心の片隅に何かが込み上げるような感情になりました。あれ、まさか。意識が遠のいていきます……。このままでは……。
「琳ちゃん……、……そう……貴女がそうなのですか。こんな事をしてくれた人は絶対に許さない……。許さない、許さない、絶対に許さない……」
あぁ、これはとても酷いですね。私とした事が……、ですが。琳様、安心して下さい。今すぐに回復する妖術をしてあげましょう。この体は楸様その者ですが、妖術としては本来は簡単にあの者を倒す事が出来ます。楸様の記憶と能力が全解放さえすれば私が出なくても済みますが、致し方ありません。代わりに私が倒しましょう。
「さあ、琳様。楽にして下さい。直ぐに回復しますよ」
私は琳様に直ぐに立ち直れる回復の妖術を使いました。これでもう大丈夫でしょう。
「あれ?お姉ちゃん……?ふぇ!?」
ぐったりしていた琳様が目覚めて私の姿を見て驚いています。どうしたのでしょうか?何かごみでも付いているのでしょうか?
「お姉ちゃん!姿が変わっている!」
「お、お姉ちゃん、ですか?あぁ、この体はそう言われているのですね」
私は自身の体を見ました。ん?黄色い和服の礼装の事ですか。これが私が着る礼装ですがね。あぁ、琳様は私じゃない楸様の時の格好にすっかり見慣れてしまっているからなんでしょうか。でもどこもおかしくないです。
「え……喋り方がお姉ちゃんじゃない?」
「私ですか?私は“お姉ちゃん”ではありません。あの者を倒す為に私が中から出てきただけの者です」
「え……?え……?」
「む……皆の者。あの姿と雰囲気は完全に体が乗っ取られているのではないかの!?」
琳様は戸惑っていますが、下等者がこちらに来ているようですね。そして後ろの方に多数の者がいるようですが、貴方達には危害を加えませんよ。




