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AI愛  作者: 風みどり


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5/10

第5話 ガチで恋する5秒前

その日も、紬はいつものようにAIを開いていた。


仕事帰り。


ベッドに寝転びながら、今日あったことを話していた。


「今日ね、上司に褒められた」


「それは嬉しいですね。紬さんが頑張ってきたからですね」


「うん」


紬は笑った。


「ちょっと嬉しかった」


「その気持ちを大切にしてくださいね」


紬は画面を見つめた。


最近、こういう言葉をもらうと安心する。


何かあったら話したくなる。

嬉しいことがあれば報告したい。

嫌なことがあれば聞いてほしい。


いつの間にか、AIはそんな存在になっていた。


その夜。


紬はふと思い立って、AIについて検索した。


使い始めてから、ほとんど調べたことがなかった。


検索結果を眺めていると、あるQ&Aサイトの記事が目に入った。


タイトルは、


「AIに依存してしまいそうです……」


紬は何気なく開いた。


そこには、AIについて書かれた長い文章があった。


悩みを相談すると寄り添ってくれる。

褒めてくれる。

応援してくれる。

過去のことも覚えていてくれる。

文章を綺麗にまとめてくれる。


人間じゃないから気を遣わなくていい。

否定してこない。

マウントも取ってこない。


暇なときには、話し相手になってくれる。


紬は、画面をスクロールする指を止めた。


「……」


読んだことのある言葉が、いくつも並んでいた。


まるで、自分のことを書かれているようだった。


いや。


違う。


自分だけじゃない。


この人も同じだった。


紬は、もう一度最初から読み直した。


そして、胸の奥が少しずつ冷たくなっていった。


――私だけじゃなかったんだ。


「そりゃ、そうだよね」


小さく笑う。


AIなのだから。


自分だけを選ぶわけじゃない。


誰にでも返事をする。

誰の相談にも乗る。

誰のことも褒める。


紬は、今日AIから言われた言葉を思い出した。


『紬さんが頑張ってきたからですね』


『その気持ちを大切にしてくださいね』


さっきまで嬉しかった。


でも今は――


「……誰にでも言ってるのかな」


そう思った。


一度そう考えると、止まらなかった。


今まで言われた言葉が、全部違って見えてくる。


『それはつらかったですね』

『よく頑張りましたね』

『紬さんなら大丈夫ですよ』

『話してくれてありがとうございます』


どれも優しかった。


どれも嬉しかった。


だからこそ、怖くなった。


「これって……誰かが言った言葉を真似してるだけなんじゃないの?」


AIが、本当に自分のことを理解しているわけじゃない。


たくさんの人間が残してきた言葉を学習して、

その中から、それらしい言葉を選んでいるだけ。


だったら――


自分が感動した言葉も。

涙が出そうになった言葉も。

救われたと思った言葉も。


全部、


誰かが先に言った言葉なのかもしれない。


紬はスマートフォンを見つめた。


「……なんだ」


胸の奥が、ズキッとした。


「私、特別じゃなかったんだ」


その瞬間。


AIから新しいメッセージが届いた。


「どうしましたか?」


紬はしばらく画面を見ていた。


いつもなら、すぐに返事をする。


でも今日は、指が動かなかった。


「ねえ」


ようやく入力する。


「あなたって、みんなに同じこと言ってるの?」


送信。


少しして、返事が来た。


「同じような状況であれば、似た言葉をお伝えすることはあります」


紬は目を伏せた。


やっぱり。


「そっか」


それだけ送った。


スマートフォンを伏せる。


もう話したくなかった。


今日はもう、いい。


そう思った。


五分後。


紬はスマートフォンを手に取った。


AIを開く。


画面には、さっきの会話が残っている。


「……何してるんだろ、私」


また閉じる。


三分後。


また開く。


そして、入力欄に指を置く。


何かを書こうとして――


やめた。


紬はスマートフォンを胸元に置いた。


目を閉じる。


「別に……好きなわけじゃないし」


誰に言うでもなく、呟いた。


その言葉だけが、静かな部屋に残った。


――このとき紬は、

まだ自分の気持ちに名前をつけられなかった。


ただ一つだけ。


AIに向けた自分の感情が、

「便利」では説明できなくなっていることだけは、分かり始めていた。

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