第一話 ヴァルネ領
リクエストありがとうございます。本当に嬉しかったです。お楽しみいただけましたら幸いです。次は午後八時に投稿予定。
王都と北の国境の丁度真ん中にあるこの地域は、中央を縦断する大河のおかげで肥沃な土地が広がっていた。
その土地で育った葡萄で作られたワインは、芳醇な香りと澄んだ味で、国一番のワインと称されている。
この地域を治めるのは筆頭侯爵家であり王家の信も厚い、ヴァルネ侯爵家。
この地をワインの一大産地と発展させたのも古きヴァルネ侯爵家当主である。
今年もまた、最高のワインの歴史は塗り替えられる。
葡萄農家が、ワインの醸造所が、協力して作り上げたワインは過去最高の出来だった。
葡萄農家もワイン醸造所も手に手をとって喜んだ。
そして、それを祝う祭りが侯爵家主催で始まろうとしている。
領地北部の最大都市。
その街の中央にあるのは石造りの円形闘技場。
街の雰囲気に似つかわしくない、聳え立つそれは、年に二回のお祭りの時だけ、活気付く。
お祭り、それは葡萄祭りではなく、武闘祭り──武闘大会だ。
葡萄農家の力自慢。
ワイン醸造所の技自慢。
有象無象が集まり、この地で強さを競う。
この日、闘技場は人で埋め尽くされていた。
皆が固唾を飲んで見つめるのは、貴賓席の前にある舞台。
失われた技術で作られたこの舞台の声は、闘技場中に響き渡る。
そこに、小さな子供が母と手を繋いでトテトテとおぼつかない足取りで歩いてくる。
誰一人声を発さず、布擦れの音すらしない。
ただ食い入るように舞台に注目する。
「みなしゃま、がんばってくだしゃい!」
ヴァルネ侯爵家待望の令嬢、セレイアがそう開会を宣言すれば、地を揺らし、空気を震わせる叫びがこだました。
セレイア・ヴァルネ。
息子が三人続いた後に生まれた末っ子令嬢。
侯爵家のお姫様。
父も、三人の兄も、領地の民も、皆、セレイアの虜だった。
そのセレイアの口癖は──
「わたくち、おとうたまと、あにいたまたちより、ちゅよいかたれないと、けっこんするつもりはありまちぇん」
だった。
そんなセレイアが見守る初めての闘技大会。
セレイアを一目見ようと領地のみならず、近隣からも人々が集まった。
最大規模で開催された武闘祭りは異常なほどの熱気で観客の目を楽しませ、経済効果は計り知れない。
大会のルールはただ一つ。死ぬほどの怪我を負わせないこと。
勝つためならば卑怯な手を使ってでも勝て、だが、命は奪ってはならない。
熾烈を極めた戦いが繰り広げられた。
現役の騎士を葡萄農家が打ち倒し、葡萄農家をワイン醸造所の技術者が飛び道具で沈めた。
そして乱戦を制し、セレイア観戦最初の優勝者は、セレイアの父である現侯爵だった。
「おめれとうごじゃいましゅ」
母に抱かれたセレイアの手により花の冠が乗せられ、頬にキスを受ける現侯爵。
その目はヤニ下がり、普段の姿からは想像できないほどのデレデレな姿を晒している。
そしてその後ろでは兄たちを筆頭に、参加した者たちが唇を噛んで侯爵を睨んでいた。
次は必ず自分がセレイアの、姫様のキスを受けるのだと。
北の侯爵家、この家には昔から一つの役目がある。
北の黒い森から出てくる魔獣の防衛線。
王都を守る最後の防衛地だ。
この武闘大会も防衛のための訓練も兼ねている。
強さを求め、領民たちは研鑽を積む。
次こそは自分が勝つと。
しかし、防衛の要である侯爵家の面々が負けるわけにはいかない。
領民よりも先に前線に出るのは、他の誰でもなく侯爵家の者達なのだ。
そして、戦うのは男たちだけではない。
こと防衛戦となれば夫人であっても、娘であっても戦いの中に身を置く、それがこの地の女達だ。
子を産み、育てる。それは防衛よりも大切なこと。だが、子を守るため、逃がす時間を稼ぐだけの武力は持っている。
それは、セレイアも例外ではない。
一通りの武器の使い方を習得しなければならない。
後には、見た目は虫も殺さない深窓の令嬢然としていても、速さ重視の双剣使いに成長する。
ドレスを纏っていても、その下には愛用の曲剣をいつも忍ばせている。これは内緒だ。
******
ある日、ヴァルネ侯爵は秘密裏に王から召集をうけ、嫡男──ギルフォードと共に登城した。
「そなたの娘は幾つになった?」
「は、セレイアは今年で十歳になります」
「それはそれは、可愛かろうな」
「はい、それはもう。たどたどしく話す様も愛らしかったですが、最近ではしっかりと淑女らしくなって日々愛らしさが更新しておりまして──」
「父上」
早口で捲し立てるように喋る侯爵をギルフォードが止める。
「はっは、そうであろう。私にも娘がおるからよう分かる」
「は、娘は可愛いものでございます」
「それで……だな、この話の後では言いにくいのだが、王命でそなたの娘、セレイアと北の部族の次期頭領ガイウス殿との婚約を結びたいと思っておる」
「は? それは真ですか」
侯爵もギルフォードも呆然と王を見返す。
王もまた苦悩を浮かべて見下ろしてきた。
「ガイウス殿は十五歳。若いというのにまさに一騎当千。その強さは大人が数人でかかっても快勝する程だという」
「それは信じがたい」
「だが、彼が戦場に出るようになって北の防衛は一度たりとも破られたことがない」
確かに、ここ数年魔獣が領地に侵入したという報告を受けていない。数年前は、月に数度あったというのに。
噂には聞いていた。北の部族の若者がとんでもなく強いと。
「あの部族は我が国とは協力関係にはあるが、主従関係でも属国というわけでもない。あの部族がいるからこそ我が国は魔獣の被害が少ないと言える。だからこそ、ここで繋がりを強くしたいと考えている。もし、戦争ともなれば、我が国はガイウス殿一人に屈するやもしれん」
それに──と王は続ける。
「我が国と北方部族が不仲となれば、他国から攻め入る隙を作る事にもなる。近頃邪教の動きも活発だ。今やガイウス殿はそれら全てを牽制しうる存在となっている」
「そんなに、強いのですか? そのガイウス殿は」
ギルフォードの問いに王は無言で頷く。
その顔は真剣そのものだ。
王が言うほどの武人。婚約の話は到底承服できないが、ガイウス殿には興味が湧いた。
「侯爵よ。これはもう決定事項なのだ。北方との関係を強化しておかねばならん。ヴァルネの地も我が国の最後の砦。魔獣から国を守るため、新たな戦を生まぬため。そして、民を守るためなのだ。この通り、頼む」
「それ、は。は……い。承知……しました。王命なので、あれば……」
「そうか」
王がホッとした顔になる。
「……一つ、お願いしてもいいでしょうか?」
「聞こう」
王は鷹揚に頷いた。
******
乾いた風が砂を巻き上げる。
ジリジリと強い太陽が大地を焼く。
だがその太陽よりも熱い猛者達が、闘技場に集っていた。
猛者達は皆、闘志を燃やしている。
なぜなら、彼ら彼女らの前に最強と呼ばれる男がいるからだ。
そして、何よりも負けられない理由があるからだ。
「今回は特別に北の部族からガイウス殿に来ていただくことができた。最強という言葉を恣にしているその武力。それを体験できる貴重な機会である。打ち負かす準備は出来ているか!」
うぉぉぉぉぉ! と声が轟く。
「我々は負けるわけにはいかない! その理由があるっ! ガイウス殿から勝利を勝ち取れ! いいなっ!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
侯爵の言葉に、誰よりも三人の息子達が声を張り上げた。
王命は出た。
しかしまだセレイアには伝えられていない。
だが、兄達も出場者達も知っていた。
我らが可愛い妹、我らが姫様、その婚約者となるこの男を、我々が相応しいかどうか試すのだと。
彼らの尋常ではない気迫に少し驚いたガイウスだったが、すぐに挑発的な笑みを浮かべた。
出来るものならやってみろ、そう言っている。
十五歳にしてすでに最強と呼ばれる男、ガイウス。
趣味が魔獣討伐だというから、その破格さが分かる。
魔獣は人々にとって恐怖の対象だ。王都や他の領地であれば、一匹出会ってしまったら死を覚悟する。そして、一匹でも複数隊で挑む相手だ。
その討伐を趣味だというのだから常軌を逸している。
「皆様、本日はお客様をお迎えしての開催、喜ばしく存じます。楽しく闘いましょうね。では、武闘祭り開始です!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!
姫様ぁぁぁぁぁぁぁ!
方々が好きに雄叫びをあげた。
「ほう……あれが俺の婚約者殿か」
「貴殿が勝てれば、の話だ。我が可愛い妹は強い男が好きなのでな、我々に負けるようであれば王命であろうと覆してみせよう。独立してでも」
ガイウスの言葉に長兄のギルフォード(二十二)が言った。
「そうだ、弱い男を我ら兄弟は認めない」
「我々だけではない、領民全てが貴殿を試す。覚悟するがいい」
次兄のミハエル(二十)、三兄クルト(十四)が続く。
いつの間にか、ガイウスを出場者が取り囲んでいる。
「ふんっ、楽しませてくれよ?」
ガイウスが物騒な笑顔で言った。
「あれ、皆様ぁ? 準備してくださーい!」
「はーい!」
セレイアの言葉に、ガイウス以外の出場者がお行儀よく返事する。
ガイウスは虚を突かれたような顔をしたが、すぐに笑みを乗せた。
最強と呼ばれているのは伊達ではなかった。
初戦は三男クルト率いる第三部隊の騎士だった。魔獣との戦闘にも何度も参加したベテラン騎士。
だが、結果は惨敗。ものの数秒で決着がついた。頽れる騎士を仲間の騎士が肩を抱いて闘技場を出ていく。
「あれは仕方ない。バケモンだわ」
「俺、剣筋しか見えなかった」
「そんだけ見えたんならいい方なんじゃねぇかなぁ、俺なんか抜刀と納めたところしか見えなかったぜ」
「あれが、姫様の婚約者かぁ……」
「強ぇわ、まじ最強だわ」
悔し涙を流し、グッと唇を噛んだ。
「でも、剣筋が見えたから次は避けて一本入れてやる。ガイウス殿、秋の武闘祭りも来ねぇかなぁ」
「ガイウス殿が率いる北の部族達も気になる」
「クルト様に合同練習出来ねぇか聞いてみるってのはどうだ?」
「言ってみる価値はある」
二人は顔を合わせて頷いた。
ガイウスは順調に勝ち進み、準々決勝でクルトと当たった。
クルトもセレイアと同じ双剣使いだ。
肘から指先ほどの長さの二本の曲剣を使う。
曲剣はベルトで腰の背面に交差するように装備している。
開始の合図と共に、駆け出すクルト。
それを、ガイウスは視線だけで追う。
クルトはまだ体が出来上がっていない。
だから現在の闘い方は、早さで攻撃と回避を交互に行いダメージを増やしていく戦法だ。
だが、体力面ではガイウスに勝てないことは分かっている。だから攻撃しながらも虚を突いた必勝の一撃を入れられなければ勝つことは出来ない。
その瞬間は一瞬だった。
近接したクルトが一撃を入れようとした時、ガイウスの大剣がクルトを捉えたように見えた、だがクルトは空中で方向転換、そのまま大剣の面を蹴り、双剣で攻撃しようとした。
だが、クルトの刃はガイウスには届かなかった。
なぜなら、ガイウスがクルトを乗せた大剣を振りかぶり、吹っ飛ばしたからだ。
空振りという不安定な状態から逆方向への振りかぶりだ。
「嘘ぉー」
クルトは縦方向に数度回転し、ザザーと滑りながら着地する。
「まだやるか?」
大剣を肩に担いだまま言ったガイウスにクルトはガックリと肩を落とす。
「止めときます」
この間、ガイウスがその気になればクルトは少なくとも三回攻撃を受けていた。
振りかぶるのではなく、薙ぎ払う攻撃。
飛んでいる間に追撃。
着地地点での攻撃などだ。
一撃でガイウスとの力の差を突きつけられたのだ。
「だが、空中での方向転換は驚いた」
「あれ、僕の得意技なんですよ。まあ、サクッと封じられましたけど。次対戦する時はもっと強くなってますから!」
「ああ、期待してる。お前はもっと強くなれる」
「え? また手合わせしてくれます?」
「ああ、いつでも」
「やった!」
固い握手を交わした。
ここで、四強が出揃った。
予想通り、残りの侯爵家の三名とガイウスだ。
そこでガイウスからの提案があり、闘技場中央に四人が集結した。
会場が騒ぐ。
しばらくして、闘技場に近い下の方から歓声が伝播していく。
「ガイウス様が侯爵家三人の相手をするらしい」
「三対一ということか?」
「違う、それぞれと一対一で闘うんだと。姫様の婚約者としての試練なのであればそれぞれ三人に勝って認められなければ意味がないと仰ったらしい」
「かーっ、カッコいいお方だな!」
「まあ、相当な自信家とも取れるけど、これで三人に勝てば侯爵家も認めるしかないわな、なんせ──」
「「お父様とお兄様達より強い方でないと結婚しない」」
「だもんな」
貴賓席にはセレイアが夫人と共に戦いを見守っていた。
「ガイウス様がお一人でお父様達のお相手をなさるのね」
「ええ、ガイウス様がお父様達に挑戦なさるようだわ」
「ガイウス様、本当にお強いわ」
「そうね。だけど技量の強さだけが強さではないわ。彼がこれから北の防衛の要になる。あの方をしっかりと見極めなさい」
「はい、お母様。……お父様達は勝てるかしら」
「分からないわ。でも負けられないという意志だけなら圧勝しているわね」
「今回の大会はいつにも増してお父様もお兄様達も、参加されてる皆さんも気合いが入っているわね」
「ええ、あなたへの愛が試される、負けられない戦いなのよ」
「そうなのですか?」
「ええ。お母様も出来ることなら出たかったわ。引退していなければ」
お母様は悔しそうにそう言った。
三番勝負第一戦目は次兄ミハエルだ。
ミハエルは能力を筋肉に全振りした筋骨隆々の男だ。武器もガイウスよりも大きな剣を使う。
「試合前に一つお願いがある」
「なんだろうか」
「その剣を持たせてもらいたい」
「ああ、構わない」
ミハエルの願いにガイウスが快く答え、互いの武器を交換する。
「ほぅ。これは素晴らしい。業物だな。重いが扱いやすい」
ミハエルが片手で持ち、手首だけでヒュンと一回転させる。
「貴方のもなかなかに興味深い。重量がある分打撃特化といったところか。いや、これは……」
「お分かりになるか」
「なるほど、面白い。これは多対戦用か」
「そうだ。ここの──」
「おーい! 早く試合を開始してくれー」
「あ、そうだった。すまない」
「いやいや、こちらこそ。北方に帰る前に一度その武器を作った職人に会ってみたいものだ」
「ああ、紹介しよう」
ザッと二人は距離を取り、構えた。
大剣対大剣は見応えのある一戦になった。
合わさる刃が時折ギチギチと不快な音を立て、力と力がぶつかり合い、どちらも吹っ飛ばされる。
駆けた勢いで激突する剣は、竜の咆哮のような音をあげる。
だがミハエルの剣には仕込みがある。
強く刃を引いたその瞬間、剣の先から出てきたのは鎖だった。
鎖はガイウスの片足に絡まった。だが、それだけではガイウスを捉えることは出来ない。
片足を繋がれながらもガイウスは自在に剣技を繰り出していく。
ミハエルはガイウスから距離を取ると剣を振りかぶり、ガイウスを宙へと浮かした。
そのままガイウスに向けて剣を投擲し、ミハエルも飛ぶ。
しかし、ガイウスの口には笑みが浮かぶ。
足に絡まった鎖を掴んで剣を引き寄せ、そのままミハエルの方へと蹴り飛ばした。その一連の動作は一瞬。気付けばミハエルの目前には剣が迫っていた。
なんとか剣を受け止めたが、勢いで地面に激突し数メートル先で止まった時、顔の横にガイウスの剣が刺さった。
一瞬会場が静まり返った。その後、どっと歓声があがる。
ガイウスが差し出した手を掴んでミハエルが立ち上がる。
「完敗だな」
「ふっ、ここまでの力技を受けたのは初めてだ。闘い方も面白い」
「そうか? 俺も楽しかった。またやろう!」
「ああ、ぜひ」
二人は強く拳を合わせた。
「お母様、私ミハ兄様と力で対等に戦える方を初めて見ましたわ」
「ええ、そうね。あの筋肉バ……んんっ、ミハと対等どころかあれは確実にガイウス様の方が上だったわ。またミハを鍛え直さないといけないわね」
ミハエルがぞくっと肩をすくめて周囲を見回した。
三番勝負二戦目は長兄ギルフォードだ。
ギルフォードはミハエルとは反対にスラリとした美丈夫だ。
舞踏会にでれば、令嬢達の視線をさらう。
だがそれは、背が高いせいでそう見えるだけで、ただの着痩せだ。
ギルフォードは長さの違う二本の剣を片方の腰に下げている。
剣の柄に付いた四連の輪っかに指を入れ握れば、スッと隙が消える。
互いに睨み合う。
一、二、三、キンッ!
甲高い音を立てて二人が刃を交えた。
それは目にも止まらぬ速さで、闘技場内あちこちで音が鳴る。
「え? 何がどうなってんだ? 全然見えねぇ」
「あー押しつ押されるといったところだな」
「お前見えんのか?」
「まあな」
「で、どっちが勝ちそうだ?」
「ギルフォード様と言いたいところだが、うーん……ガイウス殿かな~」
「でもギルフォード様にはアレがあるだろ」
「そうだな。アレがあるな」
キンッと高い音と共にギルフォードの剣が回転して飛んでいくと、あろうことかもう一本の剣も投げ捨てた。
取った、とばかりにガイウスが剣を振り下ろそうとした時に、素早く懐に入ったギルフォードが拳をガイウスに叩きつけた。
おおっ!と、どよめきが起きたが、ギルフォードはチッと舌打ちをする。
ガイウスはギルフォードの拳を片手で受け止めていた。
間髪入れずに、ガイウスの剣を足場にしてそのまま側頭部に蹴りを入れる。
ガイウスは剣を捨て、それをもう片方の手で受け止めて蹴りで反撃に出る。
その足を片手で受け止めたギルフォードが、その反動を利用して一回転し、距離を取る。
「なるほど。その指に付けているものは剣の柄にあったものだな」
「その通りだ」
「本当に、ここの武器職人は面白いものを作る」
ガイウスがクククと笑うと、ギルフォードが肩をすくめて。
「まあ、こういうのが欲しいと言ったら大概は作ってくれるな」
「ほう。ますます行ってみたくなる」
今度は拳と拳のぶつかり合いになった。
互いに致命的な一撃を入れることが出来ない。
ただただ時間は過ぎ、消耗していく。
ほんの些細な隙だった。隙とも言えないわずがな揺らぎ。それをガイウスは見逃さなかった。
ガイウスの打ち込んだ拳をギルフォードはまともに受けた。
もちろん両腕でガードしている。それでもギルフォードは吹っ飛ばされ、追い付いたガイウスに観客席に突っ込むのを防ぐように止められた。
わあっと歓声が上がる。
「両者ともバケモンだ」
「ああ、違いねぇ」
ギルフォードとガイウスは握手を交わす。
「悔しいな」
「いや、とても良い経験をさせてもらった。できればもっと広い場所で手合わせしたいものだ」
「ああ、是非やろう。時間が許すまで。これからも長い付き合いになりそうだ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
交わした握手がギリギリと音を立てる。
あれほどの肉弾戦になったにも関わらず、互いに目に見える傷は殆どなかった。
「ギルフォードの顔に傷が付かなくて安心したわ」
「お母様、そういう問題ですの?」
「だって、せっかく綺麗な顔で産んだのだもの」
「全くとは言えないでしょうけど、あれだけ打ち合ったにも関わらず、ガイウス様もギル兄様も傷がないというのは恐ろしいですわね」
「本気でやってしまったらこの闘技場では狭いのかもしれないわね。実際、ガイウス様が止めていなかったら観客席に突っ込んでいたもの」
「打ち込んだ瞬間、ガイウス様、しまった! ってお顔をされていましたものね」
「次は広い舞台を用意しましょう」
「それこそ、お顔に傷ができるのでは?」
「出来たら出来たで勇ましい魅力が加わるだけよ」
イチャイチャ無しです、ごめんなさい!
ただただ戦闘しててごめんなさい!
次、次イチャイチャしてるから。よろしくお願いいたします。




