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28.アングレカム

最終回です……

 あれからいくつか季節が巡った。


 暖かい優しい陽が祝福するように降り注ぐ。外には駆け回る子供たちの笑い声とふわりと吹く風の音。

「まぁ、綺麗じゃない!似合ってるわ!」


母さんが部屋に入ってきた音にも気付かず、外の風景にのめり込み眺めていた。

「ありがとう…ちょっと可愛すぎじゃないかな?もっとシンプルなので良かったんだけど…レオくんがせっかくだからって選んでくれたから…」

白地のオーガンジーにカラフルな花を散らしたウェディングドレス。

可愛いけれど歳に合わないと思って遠慮したが、どうしても、とレオくんに押しに押されてこのドレスにした。

「華やかでいいじゃない!やっぱりセンスがあるわ~澄玲に似合ってるからこれにしたかったのよ〜きっと!ねぇ?」

「まあ、前よりは似合ってるんじゃない?おめでとう澄玲」

少しぶっきらぼうにでも温かく祝ってくれた言葉を受けながら、父さんを探す…

「ありがとう、兄さん…父さんは?」

兄さんも母さんもは少し呆れ顔になった。

「バージンロードまでとっておきたいんだって。すごい気合い入ってたよ…レオさんは?」

「レオくんはさっき、子供たちのお菓子の確認に行ったよ。もう少しで戻ってくると思う」


 私は2回目だからと家族と親友数人だけにしたけれど、それじゃ寂しいと私たちがお世話になった養護施設の子たちを招待した。おかげでとても賑やかになりそう。

 

 ――コンコンコン。

話をしてるとレオくんが戻ってきた。

母さんと兄さんへ挨拶をし、こっちへ来る

「体調は大丈夫?無理してない?」

「うん、なんともない。お腹周りもキツくないし、このドレスにして良かったよ」

少し膨らんできたお腹を撫でる…


 結婚式の準備が粗方終わった時に妊娠が分かった。

――やっぱり私の方に問題はなかった。検査をして異常が無いことは分かっていたけれど、こうして妊娠できると安心する。

今は不安もあるけれど、喜びの方が大きい。


 外の子供たちの笑い声が大きく聞こえて来た。

「俺たちもあんなんだったのかな?」

「そうなんじゃない?あまり覚えてないけど…この子もあんなふうに元気に友達と仲良くできる子になるといいな」

願いを込めながらお腹を撫でる。


 ――コンコンコン

「失礼します。お時間になりますので、ご移動の方をお願いいたします」

母さんと兄さんが先に部屋を出て、私もレオくんが束ねてくれたブーケを持ち、あとに続き入口の近くで待つ父さんの元へ向かう。


 壁に向かい合い、いつもよりそわそわと落ち着きの無い父さんの背中に向かって声をかけた。

「父さん、お待たせ」

私たちの姿をみて、くしゃっと笑ってる様な泣いてる様な顔になり、絞り出す様な声で呟くように

「ああ、澄玲…キレイだ…キレイだよ…あぁ…体は大丈夫か?」

「うん、平気だよ…」

少し言葉に詰まるその声に、私も涙腺が緩みそうになる。

「お義父さん、すみれさんをこんな素敵な人に育て、守っていていただきありがとうございます。これからは必ず、僕がすみれさんも子供も幸せにします。絶対に何があっても守ります!なので、心配しないでください。僕はすみれさんとこの子だけを愛します」

父さんを真っ直ぐ見ているレオくんの横顔が心に刺さる…

頷きながら少し目に力を入れた父さんは、さっきより低くしっかりした声で、

「そうでなければ困る。…心配は尽きないが、あんな思いをした澄玲が君の隣で、こんなにキレイで幸せそうにしている。レオくん、澄玲を頼むよ」

「ありがとうございます!」

2人の会話で、あの時の父さんとの会話を思い出して胸が締め付けられる。

レオくんと私は深くお礼をした。

そして、先にレオくんが入場していく。


 父さんと二人、父さんの念願のバージンロードを前に少し緊張してきた。

これが最後って訳じゃないのは分かってるのに、なぜか切なさが込み上げる。

「ねぇ父さん、これまで色々あって迷惑も心配もたくさんかけて、ごめんなさい。私、幸せになる…なれるよ…今度こそレオくんとなら。本当に今までありがとう、父さん」

父さんの顔を見ることは出来なかった。

扉が開き、父さんの腕に力が入り少し早いリードを小声で諭す。


父さんの手から、レオくんの手へと渡され祭壇の前へ。

牧師の朗読、そして誓いの言葉。

「新郎レオ、あなたはここにいる澄玲を、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」

「新婦澄玲、あなたはまたここにいるレオを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

レオくんと本当に結婚するんだ…

「はい、誓います」

「それでは指輪の交換を。この指輪は2人の愛と絆の証です」

並んだ大きさの違う指輪に、思わず笑みがこぼれてしまった。

お互いに少し震えながら、指輪をはめ合う。

「では、新郎から誓いのキスを」

肩にレオくんの手が添えられる。

少し強ばる私の顎に右手を添え、上を向かせてくれる。

「ずっとすみれを愛してるよ」

「ずっとそばにいてね」

ああ、いつもこの人に上を向かせてもらってばかりだ。

この人を幸せにしたい…


キスを終え、少し照れてしまう。

「この2人は神の御前でこの誓いを立てました。この2人が夫婦であることを宣誓します」

結婚証明書へサインをし、牧師の言葉で父さんと歩いてきた道を今度はレオくんと共に静かに歩いていく。


 ドアが閉まり、一気に緊張が解け息を吐く。

レオくんと目が合い笑い合う。

スタッフさんへ案内され準備が出来るまで待機。

ふと、窓を見ると少し曇っている。

「一旦お疲れ様、体は大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ…予報では雨は降らないみたいだけど、大丈夫かしら?」

「これくらいの雲なら大丈夫だよ、またすぐに陽が出てくるよ」

「そうだよね」

手を握りながらそう言ってくれた。

ちょっと気にし過ぎてるだけだよね…

少し雑談をしていたらスタッフさんが迎えにきてくれた。


 チャペルの外へ行くと、「おめでとう!」の言葉と、赤やピンクの花びらがみんなの手から舞いの祝福を受けた。

両親と兄家族、真弓たちとその子どもたち、そして養護施設の子たちと先生方の顔を見ながらお礼を言う。

レオくんの言う通りまだ雲はあったが、暖かい陽が照らしてくれてホッとした。

 少し短い花のシャワーを終え、集合写真も撮り、大人たちだけのブーケトスへ移る。

受け取ったのは、レオくんが花屋を学んだ恩師の方だった。

レオくんのブーケを、恩師の方が手に取ってくれたことが嬉しい。


 そして子どもたちにはお菓子のプレゼントを配る。もちろんゲストたちのお子さんにも。

2つの列になってもらい、私とレオくん二手で渡していく。

お礼を言える子や褒めてくれる子、恥ずかしいのか無言になっちゃう子、様々であっという間に終わってしまった。

見渡すと、1人女の子がお菓子を持っていない。


 ……あれ?おかしいな…

もうお菓子は無くなってしまった…人数分キッチリ用意したのに。

他の子に取られたのか、と思い周りを見渡してもそうでも無さそう…

私はその子に近づき声をかけた。

「お嬢ちゃん、お菓子もらった?」

その子は私をじっと見て、ドレスを掴んで引っ張ってきた。

「あいかもこのドレス着たい!!ちょうだい!」

突然の返答に言葉を失ってしまう…


慌てて養護施設の先生が駆けつけ、離れさせてくれた。

「あれ?お嬢ちゃん、どちらの子かな?」

周りの視線はこちらに集まっているが、親が来る気配がない。

レオくんのゲストの子でもないみたい…

「隣の公園から来ちゃったのかな?お父さんか、お母さんはどこかな?」

「みんなお菓子もらえてずるい!あいかもほしい!!あいかにもちょうだいよ!!はやく!!」

質問に答えることは無く、今にも泣きそうに大声で捲し立てている。


「愛果!すみません」

ベビーカーを押しながら男性が小走りでこっちへ向かってくる…

この子の父親が来てくれてホッとしたのも束の間、


 ――この声、最後に見た時よりやつれているけれど、あの顔……


「康太……」


レオくんと兄さんも近づいて来る人物に気が付き、私の傍に来てくれた。

息を切らして娘を迎えに来た康太は、慣れたようにすぐ謝罪をする。

「ご迷惑をおかけしてすみません!…っ」

目が合った。向こうも気付いたらしい。

身だしなみも服も前と変わった…


あぁ…ということはこの子はあの時の……


「お子さんの手を離さないように気を付けてください。危ないですよ。それにお子さんの躾ももう少し力入れた方がいいんじゃないですかね」

レオくんが冷たい声で釘を刺す。

「…どうして…あんたが、澄玲と…」

康太は私とレオくんを交互に見続けていた。

手が少し震える。

兄さんが康太の視線から、私を守るように前に立つ。

「式の最中でして、お引き取りください」

レオくんの声が少し大きくなった。

「…すみません…気を付けます…あ、、澄玲…お――」

「さっさと向こうに行ってちょうだい!これ以上、娘に関わらないで!あなたが――」

「お母さん!他の人も子供たちもいるんだから…」

啖呵を切り怒りを露わにする母さんを嗜めながら、父さんは康太を睨みつける。

「もう!いや!あいかはやくお菓子ほしい!ドレスもはやくちょうだい!」

再び私の方へ手を伸ばすが、康太が手を引き半ば引きずる様に去ろうとする。

「愛果!公園に戻るぞ…本当にすみませんでした…」

喚く子の手を引きながら去る後ろ姿を見届ける。


少し肩が震えてしまう。

「すみれ大丈夫かい?」

レオくんが私の腕を摩りながら、優しく気遣ってくれる。

「大丈夫、ビックリしただけ…こんなこともあるのね…」

「澄玲、無理だけはしないでちょうだい。もう先に休んでてもいいのよ」

「ううん、平気よ。それにあと少しで終わるから大丈夫」

養護施設の子達はここでお別れとなった。

この子達の笑顔のおかげで、さっきの衝撃が和らぐ…


 レオくんと母さんを後にし、真弓たちの元へ

「ごめんね、ちょっと騒ぎがあって…来てくれてありがとう」

「おめでとう…だけど澄玲、大丈夫?こんな日に現れるなんて…ア(・)レ(・)より幸せになりなよ!」

「ははっ、ありがとう!大丈夫よ、レオくんとなら」

「もうすでにア(・)レ(・)より幸せですよ、今日は来てくださりありがとうございます」

いつの間にか傍に来たレオくんに驚きつつ、今のを聞かれたのが、少し恥ずかしくて心臓がバクバクしてしまう。

「これからも澄玲をよろしくお願いしますね!これから忙しくなるからあまり会えなくなるけど…」

「電話でもいいじゃない?きっと恐ろしく長くなるけどね」

「それはそう」

お互いに笑い合う。

 それからレオくんの恩師の方や、友人たちへの挨拶も済ませ、温かい雰囲気のまま式は幕を閉じた。


 家に着き、片付けをしながら少し考えてしまう。

無事に終われたけれど、やはり…康太とその子たちが引っかかる。

あまりにも突然の出来事で、何も言えずに立ち尽くしてしまった。

あの時何を言いかけたのだろう?

それにあんなに身なりに気を使っていたのに、まとまりのないコーディネートにシワだらけの服、身だしなみも疎かになっていた…

それ程、二児の子育ては大変なんだな。

「すみれ?あの事考えてるんでしょ。…1人で考え込まないで?」

隣に座ったレオくんが私の肩を抱きながら心配してくれた。

「ん…人って変わるんだなぁって…なんか前にも同じ事言ったね」

「彼は中身が変わってしまったんだ。見た目も変わってしまうさ。あまりの変わりようにさすがに俺も驚いたけどね。…それに彼はもう気付いてるんじゃないかな」

「なにを?」

「……あの子たちが自(・)分(・)の(・)子(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)ことを…」

約6年間、私とは子供が出来なかったのに、あんなすごいタイミングでできるのだろうか。

この違和感はずっと消えてはいなかった。

私はその事も踏まえて、レオくんと早めに妊活を始めたら、すぐに授かった。

また難航するかもと心構えていたのに。

それにベビーカーにいた子は1歳くらいに見えたけど…


「気にし過ぎだよ…たまたま私とはできなかっただけ。それに!血なんて関係ないし、あの子供たちの親が誰かなんて、私達に関係ないじゃない?康太とはもう完全に終わったんだから」

「ごめん、そうだね。あ〜俺も父(・)親(・)ら(・)し(・)く(・)ならないとなぁ」

「すごい皮肉ね〜…まあ小綺麗なお父さんでいてね」

「もちろん、すみれの為にも子どもの為にもね」

相変わらずレオくんは自信家で、頼もしい。

少し呆れ気味に笑ってしまう。


 これから生まれてくる愛しい我が子、大切にしてくれる家族、そして信頼できるレオくん……

辛いこともあったけどみんなに支えられて、優しさで包んでくれて、こんなにも幸せになれた。

こんな温かい家庭を、今度こそ続けられるように守りたい。

肩から伝わるレオくんの体温を噛み締めながら、幸せな未来に思いを馳せた。





 ――やっと手に入れた。憧れの愛しい天使。いや、今は女神の方が似合ってる。そして、俺と女神との子供。

これからはずっと、俺が幸せにしてあげる。

もう離さないよ、すみれ。

アングレカムの花言葉

『祈り』『いつまでもあなたと一緒』


次回、6月27日20:30予定。

エピローグになります。


お読み頂きありがとうございます!

評価等頂けると嬉しいです。

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