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21.ストケシアー天使の収穫ー

最後のレオ視点です。

 あれから亮から新しい知らせもなく、何も進まない…

すみれも先週は、あの男とどこか出かけていたようだ。

仕事も上の空で、開店準備をしていく…

「桜井さんどうしたんですか?最近、集中力無いですよ」

「ん〜まぁ良いことないかなって…」

「良いことしかないじゃないですか!花屋なのに、こんなに人が来ることもないですよ」

「そうじゃないんだよなぁ」

「ほら、開けますよ」

重い溜息をついて、なんとか気持ちを入れ替える。

いつも通りの空元気で接客をしていく。

「こちらのバラに合わせるのでしたら、このお花なども入れると…」

目を疑った…


すみれが来ている…

少し目が腫れて、どこかまたやつれている?

軽く会釈してくれた。

いけない。お客様に集中しなくては…

「あ、すみません。えっと、これも刺してあげると落ち着いた感じになります。いかがでしょうか?」

「えっと、それでお願いします」

「ラッピングやリボンはどの色になさいますか?」

「おまかせで」

良かった。早く済ませてしまいたい。

手早く包み、会計を済ませた。


 すみれの方へ向かう。

歩みとともに胸が踊る。

「すみれ……大丈夫?…」

「!…レオくん?」

思わず肩に触れてしまい、すぐに引っ込めた。

驚かせてしまった…

「あぁ、ごめん!…どうしたの?」

「カペ…昔から飼ってたワンちゃんが亡くなって、お花を買いに来たの」

「それは辛かったね、大丈夫?」

「ん…まぁ、老衰だったし、最後会えたし…」

それでこんなに弱っているのか…

でも、そこまで落ち込んでいなくて良かった。

同僚に花を選んでから、代わるよう伝える。

カードとペンセットを手に取る。

「メッセージカード付けるよ。犬種と名前教えて?」

「トイプードルで、カペラっていうの」

「カペラ?カタカナ?珍しい名前だね」

「うん、私がつけたの。好きだったプリスタのシャインカペラからとってさ」

「あぁ、すみれが昔なりたかった…」

「…忘れてよ」

久しぶりに赤面するすみれを見れた。

「出来た! こんな感じでどうかな?」

「え、すごい! 可愛い…上手いね」

すみれに褒められて思わずニヤけてしまう…

作って貰っていたブーケに、カードを添えて渡した。

「まぁこれくらいはね? …はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

会計を受け取り、見送った。

喜んでくれた…少なくとも今、花屋になって報われた…

なぜか手が震える…

「機嫌直りましたね! 知り合いです? 」

「昔からのね。ほら、お客さん見えたよ」

この仕事の楽しさが、今分かった気がする。


 家でくつろいでいると、スマホが鳴った。

亮からか…

「もしもし? いま大丈夫か? 」

「大丈夫… なんかあったか?」


「聞いて驚け… 愛央ちゃん、妊娠してたよ」

まさか…

思わず立ち上がった。

スマホ握る手が熱くなる。

「本当か?」

「検査薬とエコーの写真もらったよ! 流石に間違いない」

そんな…こんなに上手くいくなんて…

夢みたいだ…

「喜び過ぎて声出てねぇぞ! とりま、もう愛央ちゃんのチャットは消していいよな?怖いんだけど」

「あぁ、もういい… あ、どっちの子だ?」

「本命の子だとさ。別にいいだろ?康太の子って言い張れば」

「…上手くいくかねぇ」

いざ、こうなると不安になる。

自分が動くわけじゃないから自信が無い。

それに、

「あの写真と映像はなんだったんだよ。あれもう別れてるだろ?」

「康太が、何がなんでももう関わらないって振り切ったんだとよ。でも、同じ会社なんだから会えるっしょ」

「…そりゃあ女からしたら、あの男は生活費だから必死になるけど…あの男が女とヨリを戻すメリットが無い」

「… お前って自分が動いてない時は心配性だよな。安心しろよ、離婚にはなるだろうから」

頭を掻きながら、溜息をこぼす…

「わかったよ… ありがとな」

「じゃあ、今回はすみれちゃんが払ってくれたのを引いて20でいいよ」

「…ずいぶんと良心的になったな?この間と雲泥の差だ」

「前は、一からすみれちゃんを探したからね。今回は俺も楽しめたし、これで良いよ」

「はぁ…次会う時渡すわ」

「あと女紹介しろよ?」

「…わかったよ。バーでもどこでも付き合うよ」

「助かるぅ! じゃあ、頑張れよ!」

「あぁ」

スマホを置き、ソファに横になる。


 すみれは今、ペットを亡くして憔悴しているはずだ。その上に不倫相手の妊娠。

偶然と奇跡が合わさったとはいえ、残酷だ…

すみれは大丈夫だろうか…

いつ知るのか分からないから、すぐに慰めに行くのは厳しいだろう。

スマホを取り、GPSの動きを確認した。

あぁ、ここにいる。

まだちゃんとここにいる。

まぁ、あと少しの辛抱…

そこからもまだまだ長いな…

深く息を吐く。

もう少しだよ、すみれ。――



 買い物から帰ってきて、片付けも終わった…

ふとGPSの動きを見た。

この時間なのに職場から駅に移動している…?

半休にしてもまだ11時前…

すみれの事だ。予定を入れるにしても、休みの日にするだろうし、この時間に帰るのは珍しい。

また電車に乗ったら見てみよう。


 最寄りに着いた。

どうやら帰ってくるようだ…

日に日にやつれてるし、1週間前にはすみれの家の方から物音やちょっとした騒音があったけれど、大丈夫、としか返事が無かった。

心配だ…

迎えに行こう。


 家を出て、駅の方へ向かうと道端で倒れかかっているすみれを見つけた。

肩で息をして、手も酷く震えている。

「大丈夫?しっかりして!」

すみれの腕を首へ回し、抱える。

「すみれ?大丈夫?」

血の気のないひどい顔色だ…

「レオ…くん…」

意識はあるみたいだ。

「とりあえず俺の家に運ぶよ?」

そのまま家へ連れて行き、一旦ソファへ横にした。


 ひどく苦しそうにしていたが、少しずつ落ち着いてきた。

随分と軽かった…

きっとまともに食べていないし、眠れてもいないのだろう。

可哀想に…

俺以外を選んだ罰…

だが、衰弱していく姿には心が痛む。

…寝かせてあげなくちゃ。

無理に起き上がろうとするすみれを止める。

「まだ休んでなよ?…水飲む?」

「ううん、さすがに悪いよ。お水もらおうかな」

「ちょっと待ってて」

キッチンへ向かい水を用意する。

すみれがこっちを見ていないか確認しながら、

前に亮から貰った睡眠薬を溶かす。

渡すと、すぐに飲んでくれた。


 少し時間を稼がないと…

「…そういえばこの間の…なんだったの?」

「この間?……あぁ、うるさくってごめんね。康太の、両親が来て…」

そういうことだったのか…

「わざわざ来るなんて、律儀なんだね。良かったじゃん」

「あー、いや…離婚することにしたんだ。今、康太は実家にいるからそれで…」

…その言葉をどれほど待ち望んでいたか!

喜びを出さないよう何とか抑える。

「そうか…それがいいと思うよ」

「…今日はどうしたの?仕事お休み?」

「仕事中に倒れちゃって早退したの…まぁ道でも倒れちゃったけど、本当にありがとうね?助かったよ」

瞬きが増え、少し口も遅くなってきた。

「たまたま通りがかっただけで…でも助けられてよかったよ」

すみれはぽつりぽつり、となにか口にしながら眠っていった。

やっと寝てくれたね。

コートを脱がせて、横抱きでベッドへ運んだ。


 寝顔をそっと撫で、額に優しく口付ける。

「おやすみ…俺の天使…」

布団をかけ、後ろ髪を引かれつつ寝室のドアを閉めた。

3時間は眠ってくれるだろう。


…それにしても、こんなに上手くいくなんて!

やっと…あいつから離れてくれるんだね…

なるべく早く、俺の所へ来れるようにしてあげる。

だから、もう少しだけ我慢してて…

すみれには俺がいないといけないんだ。

俺も頑張るから。


 すみれのカバンからGPSを回収する。

もう要らないだろう。

前に切り裂いたところを、再び開けてGPSを取り出す。

今度はちゃんと縫って直してあげないと。

クローゼットの奥にある携帯用ソーイングセットを引っ張り出し、縫い合わせていく。

手先が器用で良かった…

キレイに縫えたカバンをソファの端に置く。

 そうだ、すみれのために何か作ってあげよう。

スープかお粥がいいかな…少量でも作れるお粥が良いだろう。

キッチンへ向かい、作り始める。


 そろそろ目覚める頃だろうか。

ドアを開け、すみれの寝顔をみる。

その横顔に心を奪われた時をハッキリと覚えている。――


 新しく施設に来た子の紹介と言われ、集められた。

不安そうに手を引かれて来たその子は、テレビでよく取り上げられていた子だった。

テレビの写真の時よりふっくらしたが、まだガリガリで、周りに怯えている。

また、可哀想な子が来たな、くらいにしか思わなかった。

先生の紹介では8〜9歳くらいと言っていたが、とてもそうは見えない少女。


それが、すみれだった。


 食事の時も全て手掴みで、顔が汚れようが服が汚れようが気にしてない。かろうじてフォークが使えてる様に、みんな驚きの声を上げる。

だが、話しかけられるとおしゃべりはできたようだった。


 クリスマスイベントの時、すみれは笑顔で俺に話しかけてきた。

今まで接点なんてなかったのに…


 小さい頃に母親に捨てられてから大人たちに反抗して、学校でも見た目と境遇で避けられ、施設でも誰とも関わらないでいた俺に駆け寄ってきて、

「おめめ、きれいだね!」と、微笑みかけてくれた…

その時は恥ずかしくて、無視してその場を離れてしまった。

周りから「変な色」と言われた、この琥珀色の目を褒めてくれた…

それもお世辞じゃなく、あんなに純粋無垢な声で…

その時から気になってしまったのだろう。


 それからは、先生と一緒に箸や読み書きを教えるようになり、気が付けば一緒にいる事が多くなった。

絵本を読み聞かせたり、休みの日もすみれにたくさんのことを教え、まるで育て上げているようで何かが満たされる。

その頃から俺自身も周りと馴染むようになっていた。


 そして、あの日のことは忘れられない。

すみれの初めての花火大会。

最初は花火の音に驚き、ずっと俺に抱きついて怖がっていた。

次第に音に慣れ、打ち上がる花火を観れるようになり、はぐれないように手だけ繋いでいた。


不意に見た、

花火を見上げるすみれの横顔が、

息を飲むほど、花火よりも美しい…


小さな黒い瞳に映る花火の模様と、色とりどりな花火が照らす顔に、

心臓が沈むような感覚…

同時に、心拍が跳ね上がった…

胸が苦しい…


繋いだ手が汗ばむ…でも、離したくない。

「すごかったねー!」と笑いかけて言う、すみれの顔が今までと違って見える。

そこから、すみれ、ずっと俺の中に君がいるんだよ。


あの時から20年…ずっとすみれだけ…――

 

 そんな時の事を思い出しながら、眺めていると…

突然、すみれが手に力を入れ強く握り始めた。

息が荒くなり、顔を歪ませていく…

眠剤で眠りが浅くて悪夢を見ている?

…昔のあ(・)の(・)悪(・)夢(・)か?

いけない!

急いで駆け寄る。


「すみれ!すみれ!」

直ぐに起きれるように、背中に手を回し、上体を起こさせた。


パッと目を見開き、起きてくれた。

胸が激しく上下し、震えている…

「…や……もう…1人にしないで…」

どこを見ているか分からない目から、ポロポロと涙が流れ落ちていく。


「大丈夫だよ、ずっと俺がいるから」

優しく抱き締める。

しがみつく様に身体に回してくれた手は、まだ小刻みに震えている。


もう1人にしないよ。

ずっと俺がすみれの側にいるから。


ストケシアの花言葉

『過去の思い出』『追想』『たくましさ』


次回、6月21日20:30予定。

また澄玲視点に戻ります。


お読み頂きありがとうございます!

評価等いただけると嬉しいです。

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