19.ヒヤシンスー癒しの為の栽培ー
レオ視点です。
この土日に証拠が取れたと、亮から連絡があった。
基本女の家だろうから、あともう1つくらい欲しいところだが、すみれの出勤日を見る限りしばらくは無理そうだ。
あと少しなのに…
昨日の夜、カーテンの隙間から見えたすみれの顔が、酷くやつれていて心配になる。
開店準備を早く終わらせて、すみれに電話しよう。
ちゃんと休めているかな…
電話越しの声は、明らかに元気がなくてしんどそうだった。
病院へ行くと言っていたが、大丈夫だろうか…
今週の夜勤は水曜日…
倒れたりしないか心配だ。
…GPSもいつか持たせよう。
「桜井さん!店開けますよー」
もうこんな時間か。
考え込みすぎたな。
「今行くよ」
補充のリボンを持ち、表へ向かった。
夕方にすみれの母がまたやって来た。
運のいい事に、開店当初から常連になってくれて助かる。
「こんにちは。今日はどうなさいますか?」
「今日も華やかなのでお願いするわ!そうね…赤をメインにしてもらえる?あ、あとね。実は私、澄玲の母なの!澄玲から聞いたわ〜あの頃に仲良くしてたレオくんって!こんな大きくなって気付かなかったわ!私も覚えてるわよ、いつも澄玲と一緒にいてくれてたものね!」
「あぁ!そうでしたか!…覚えてもらえてて嬉しいです」
今知ったフリをしながら話をしていく。
「あら〜あなたのお陰で、家に来てもすぐお兄ちゃんに懐いてくれて助かったのよ!それに――……」
来てくれるのは嬉しいが、いつも話が長くて困る…
すみれの事を聞いてみるのもいいかもしれない。――
久しぶりにすみれに会える日だ。
もうそろそろ連絡が来る頃だろう。
出る準備をしていると、連絡がきた。
すぐに返信して、玄関へ向かう。
シューズボックスの鏡で髪を軽く整えていると、チャイムが鳴った。
落ち着いてドアを開ける。
「おはよう、早くにごめんね」
「おはよう…こっちこそお休みなのに、こんな事頼んじゃってごめん…これお願いね」
差し出されたカメラを受け取る。
「気にしないで!すみれの役に立てて良かったよ…ちゃんと届けとく。顔色少し良くなったね…良かった」
「薬でだいぶ寝れるようになったし…それに康太を信じてみようと思って。結果次第でまた変わるけど…」
なんて?…嘘だろ?…
思わず顔がこわばってしまう。
なんとか言葉を出さないと…
「…そっか…すみれが決めたことなら…いつでも話聞くから」
「ありがとう、レオくん。それじゃあ、お願いします」
「…ゆっくり休んで?」
そんな微笑みながら、手を振らないでくれ…
どうして…
ドアの閉まる音と同時に、心が沈む。
どうして、あんな男を選ぶ?
すみれは優しいから、情が捨てきれないのか?
髪をかき上げ、深呼吸をする。
とりあえず、これを亮に渡すがてら作戦会議だ。
亮の家に着き、すぐさま鍵を開ける。
数週間前まで俺もここに住んでいたのが嘘のような、ひどい散らかりようだ。
すみれのことを頼んだ代わりに、ほとんどの家事は俺がやってたからなぁ。
布団に包まってる亮の毛布を剥ぎ取る。
「なんでこんな汚いんだよ」
「…! もうお前の家じゃないんだから、やすやすと入って来んなよっ!」
「まだ鍵持ってんだからいいだろ」
「…置いてけよ」
亮はだるそうに起き上がる。
何とか座る場所を作り、腰を下ろす。
空の弁当容器の横にカメラを置いた。
「多分大したもの映ってないカメラ置いとくぞ」
「映ってねーだろうよ…今日は別の男と会ってたからな」
亮は欠伸をしながら答える。
「…張り込みはしてたんだ」
「当たり前だろ? 金貰ってるし…なんでそんな機嫌悪いんだよ…」
そんなに態度に出てたつもりはないんだが…
「すみれが離婚しそうにないんだよ…」
「いいんじゃねぇの?幸せを見守ってやるのも愛だぜ…っ」
亮の肩を強く掴む。
「幸せなんかじゃねぇだろ」
「わかったよ! 痛えから離せ! 」
突き放すように手を離した。
座り直し、髪をかき上げる。
「はぁ、何かいい案あるか?」
しばらく考えたあと、亮はバツの悪そうな顔をした。
「…妊娠とか?」
「そんな簡単にいくわけないだろ」
「そうだけど、すみれちゃんは助産師で子供いないだろ?簡単に堕ろせとか言えないだろうし、そっちにガキ出来りゃさすがに別れるだろ?」
「そんなこと言ったって無理だろ?子供いない理由は知らないけど、もし男の方が原因だったら成り立たねぇ」
「別の男いるだろ?」
「はっ、女の方が望まなきゃ無理だ。それに見るからに子育てなんか出来なさそうだろうが…さすがに命を道具にしたくねぇよ」
「…ならこのまま、いつかすみれちゃんと康太の子供が出来て、結婚したまま。お前はその幸せを見守ればいいさ」
重い溜息がでる。
だがこのままでは亮の言う通りになってしまう…
最低な考えが思い浮かぶ…
「…托卵させるのかよ」
「お、そこまで考えてなかった。いいじゃん!康太なら育てられそうじゃん」
「俺の方が悪いみたいに言うなよ…そんなに上手くいくか?」
「まぁ、ものは相談。愛央ちゃんに聞いてみても損はないさ」
「…気色悪い。いつからちゃん呼びしてんだよ」
思わず鳥肌が立つ。
「クズで頭も悪いけど、そこがまたクセになってね〜。関わらなきゃ可愛いんだよ」
呆れた。
こいつはこの歳になってもこれだもんな。
「それじゃ、上手くいくようにお願いしてみてくれよ。そのバカな女に」
立ち上がり、帰ろうとすると
「待て! 1つ、条件がある」
「は?金は払うぞ」
「…ここ片付けて? 」
調子のいいやつめ……
渋々片付けを始めた。
ほとんどゴミだったから、すぐに片付けは終わった。
片付けをしている間、亮はずっとスマホをいじっていた。
「お! 愛央ちゃん、OKだってよ…ははっ、本命の子作る気満々じゃん」
人の事なんて言えないが、揃いも揃ってどうかしている。
「…その女、慰謝料払うとか知らないのか」
「多分、分かってないと思うぜ? まぁ、シークレットチャットでやり取りしてるから、事が済んだらすぐに消すぜ。巻き込まれそうだ」
「はぁ……俺もう帰るわ。もう汚すなよ」
ついていけなくなった。
さっさと帰ろう。
「…おい! 鍵置いてけ」
ドアを閉め、亮の言葉を絶った。
大事になってきたな…
でも、それほどすみれには価値がある。
これくらいのコストは惜しくはない。
すみれに会える日が待ち遠しい…――
ヒヤシンスの花言葉
『ゲーム』『嫉妬』『変わらぬ愛』
次回、6月19日20:30予定。
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