16.アイリスー蜘蛛の糸ー
引き続きレオ視点。
亮の調べで得られたすみれの旅行の情報。
電車でチェックしてるのを覗き見たという…
通勤中にきちんと予定の確認をしているすみれの真面目さが、こんな所で役に立つとは。
泊まるホテルと日程を調べ上げ、前日にそこそこの規模の祝賀会があることを掴んだ。
あの地方の提携生花店での知り合いは少ない…一か八かで声をかけるしかないな。
重い溜息を吐く。
それよりもあの計画の進みが気になってしょうがなかった。
ここまでして、これが台無しになることは避けたい。
声をかけるのが早かったおかげか、なんとか前に少し話したことのあるフローリストから、お手伝いとして紹介して貰えることになった。
あとは3週間後の木曜にでも、花き卸売市場に行ってアレを調達しなくては…
すみれとの偶然の再会の余韻に浸りつつも、早めに店を閉じられるように作業を始める。
これをしくじる訳にはいかない。
あの計画が上手くいきそうなんだから。
店を閉め、そのまま車を飛ばす。
ビジネスホテルへ泊まり、そのまま手伝いへ向かった。
勉強の為と、少し強引な言い訳をして、黙々とフラワースタンドを作り上げる。
花バサミが踊るように進んでいく。
時間になり、荷台にスタンドを詰め込む…
いよいよだ。
ホテルに着き、次々に設置していく。
派手なカーペットと壁紙…これなら見つかるのに多少時間がかかりそうだ。
しかも1階のエレベーター付近。
花を整える振りをして、アクリルケースに入れていた「セアカゴケグモ」たちを忍ばせた。
卸売市場で手に入れることが出来た。オマケに卵嚢も。
なんて毒々しい蜘蛛だろうか…
すみれが見たら泣いてしまうな。
一通りの設置が済み、そのまま退散した。
4時間の帰り道は、スリリングだった。
ハンドルを強く握りながら、ただ祈った。
ドアの前で鍵を探していると気配を感じた。
「レオくん?」
「!?…すみれ?どうしてここに?」
思わず驚いてしまう。
予期せずまた会えるなんて…
だが隣にいるのは……
表情の管理に気を付けなければ。
…私の旦那?
そんな称号、そいつに相応しくないよ。
「先日は妻がお世話になりました」
つい拳に力が入る。
お前がそれを言う資格はない。
「レオくんもここのアパートなの?……すごい偶然」
嬉しそうにそう言ってくれるすみれに、自然と顔がほぐれる。
「あぁビックリしたよ…まぁご近所って事で、よろしくお願いします」
あの顔を見たくなくて、早めに切り上げる。
すみれにだけ手を振った。
小さく振り返してくれる。
愛しくてたまらない。
家に入り深呼吸をした。
すみれが別の男と結婚をしてしまった。
この事実は思ったより耐え難いな…
視界が歪み、涙が流れる。
片手で顔を覆った。
すみれ…どうしてそんな男を…
迎えに行くのが遅くなってしまった罰なんだろうか。
その男に触れないで…笑いかけないで…
それを言う資格さえ、奪われてしまった。
その偽りに惑わされないでくれ。
無垢で愚かな可愛いすみれ…
そんな男に向かわせた俺を許してくれ…
息が詰まりそうだ。
……大丈夫だ…
明後日には状況が変わる…
それまで、耐えるだけ。
アイリスの花言葉
『信じる心』『知恵』『良い便り』
次回、6月16日20:30予定。
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