15.ネリネー約束の箱庭ー
レオ視点になります。
今までの澄玲の話と繋がったレオのお話です。
小さい目を輝かせ、微笑むすみれを真っ直ぐ見つめる。
「だから、絶対オレと結婚してね?」
「うん!」
「約束だよ?はい、指切り」
お互いに小指を出し、誓いを交わす。
「ほら、みんなの所に戻ろう」
すみれの小さな手を握り、広場へ戻る。――
大切な思い出の約束…ずっと忘れてないよ。
すみれが養護院を去ってから、作戦を練ってきた。
将来の夢を聞いた時「お花屋さん」と答えていたから、同じく花屋になれば会う確率は少しは上がるだろうし、病院なら花を飾る機会が多いだろう。
奨学金や制度を使って、フローリストにやっとなれた。
配送ドライバーや単発バイトで資金も貯めた。
なのに、すみれはどこにもいなかった…
あの時聞いた住所へ行ってみたが、病院も見当たらない。
ネットで調べてやっと、病院が移転したことを知った。
それならば家も引っ越しているはず…
ただでさえ離れているのに、もっと遠くに離れてしまった。
早く会いたい気持ちをぐっとこらえ、今はここで技術を磨き、資金を貯めよう…
すみれが成人するまで時間もある。
産婦人科医が引き取ったなら、変なデキ婚などもしないだろう。
ただ再会しただけでは、意味が無い。
まだ10歳だったすみれにとって、俺はただのお兄さんにしか見えていないかもしれない。
もしかしたら記憶にすら…
そうだ…亮のやつ、探偵にでもなるとか言ってたな…
近々会うし、聞いてみよう。
そこから大変だった。
土地代が想定より高い地域で、稼ぎを増やさなければならない上に、コンテストへの参加も重なり、時間も資金もなかなか貯まらなかった。
その間に、亮からすみれの結婚を聞いた。
あまりのショックに目の前が真っ黒になった。
同時に己の甘さを呪う。
あの天使を欲しがるのは、他にもいる事の見積もりの甘さ…
どんな男がすみれを誑かしとった?
すみれの手を少し離してしまったばかりに、横槍を入れられるとは。
騙されてしまった可哀想なすみれを助ける為、亮に仕事の片手間で良いからと、新たなお願いをした。
やっと資金も貯まり、人脈と運のおかげで「すどう産婦人科医院」の近くに、店を構えられる可能性が出てきた。
あのお願いも着々と進んでいた。
離れてしまって20年…
あと少しで、やっと会える。
すみれの住むアパートにもちょっとした仕掛けのお陰で、やっと空室ができてくれた。亮とのルームシェアも終われるし、通勤も少し楽になる。
こんなにも近くにいれるなんて、今までの努力がそれだけで報われた気がする。
開店してすぐの頃に、すみれの母も義姉も訪れてきた。
いつもに増して丁寧話しかけるようにする。
昔は大嫌いだったこの顔があれば、ある程度のことは何とかなる事を学んだ。
顔も名も知らない両親に感謝しなければ……
それは本当に突然の事だった。
なんとでもない、ただの昼過ぎ。
花の整理をしていると、入口に人影が見えた。
――天使が舞い降りた…
そっちから来てくれるなんて……
こちらに近付いて来た。
「…すみれ?」
あぁ、丸い頬に控えめなふっくらとした唇、黒目がちな涼やかな目元…
二十数年経ったけれど、あの頃のままだ。
奇跡だ…信じられない…
鼓動が高鳴り、胸が締め付けられるようだ…
手が喜びで震える…
「えっと…大丈夫ですか?……あの…」
「…すみれ…だよね?」
「!?どうして私の名前を?」
困惑した姿が愛おしい。
「養護院の頃に…覚えてるかな?…よく一緒にいてくれた」
どうか覚えていてくれ…頼む……
心の中で必死に手を組んだ。
俺の顔をまじまじと見つめてくれる。
「レオくん??」
天にも登る喜びに襲われる…
「あぁ良かった!忘れられちゃったかと思った…」
そのまま抱き締めてしまいたかったが、花瓶を割ってしまっていた事に気が付いた。
「……あっ、ごめん!色々驚かせて…怪我は無い?」
片付けながら、必死に冷静を装い会話を続けた。
もう何を話しているかも覚えられないほど、舞い上がってしまう。
「そうだ、再会とさっきのお詫びとして、これを受け取って!」
今日作った中で1番出来の良いものを、すみれに差し出した。
「わかった…ありがと」
昔のままの可愛い笑顔が眩しい。
連絡先の交換を提案した時、一瞬躊躇いを見せたが応じてくれた。
「「手塚」…結婚したんだ」
あまりにも見たくない現実だった。
にこやかな表情を保つのが精一杯だ。
でもね、すみれ。
その人と仲良くやってると思ってるのは、君だけなんだよ。
「会えて良かったよ!お仕事頑張って!またね!」
「うん!またね!」
またね、と返してくれたことがこの上なく嬉しい…
素敵な女性になっていた。
「澄玲」とても良い漢字をつけて貰えたね。
涼やかなのに、温もりのある目で、よく笑う口元。昔とは違い、健康的な肌になっていた。
施設に来た時は、ガリガリのボロボロで、9歳近いはずなのに、箸の持ち方も文字も書けなかったすみれが、助産師さんになっているなんて…
あの時、一緒に箸の練習した事を、昨日の事のように思い出せるよ。
あぁ、いけない。
明日の準備をしなくては…
あのホテルへ花を届けなくちゃね。
ネリネの花言葉
『忍耐』『幸せな思い出』『会う日を楽しみに』
次回、6月15日20:30予定。
しばらくレオ視点続きます。
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