第108話 神殺しの刃達
翌日。
択捉島の地下深くに秘匿されたUPL(UE-0 "PHANTOM-LIMB")基地。
その中枢に位置する第一作戦会議室は、本来、世界の命運を左右するUPLの峻厳な作戦決定が下されるはずの場である。
しかし、そこには常に、場違いなほど甘い香りが漂っていた。
いつしかそこが『飲食室』という、戦士の詰め所としてはあまりに締まりのない通称で呼ばれるようになった元凶は、常に部屋の中央に鎮座しているドクターがどこからか調達してくる季節折々の和菓子と、飢えた隊員たちが無意識に持ち寄るお菓子に他ならなかった。
作戦用のメインコンソールの横には、チョコレートの箱が積み上げられ、羊羹の入った小箱が並び、その隣には誰が持ち込んだのか、毒々しいほどカラフルなスナック菓子の袋が散乱している。
高精細なセンサー群のすぐ傍らに、食べこぼした煎餅の粉が落ちているのも、もはやここでは見慣れた光景だった。
お掃除ドローンが稼動しているとは信じ難い部屋である。
「ミリー、会議終わったら飲食室で待ち合わせね。生どら焼き名前書いといたから」
ほのかなどがそう言って、カフェ感覚で気軽に出入りするこの部屋からは、もはや「作戦会議室」としての威厳は完全に霧散していた。
軍事的実力行使の拠点というよりは、やる気のない放課後の部室のような、ある種の安らぎさえ感じさせる空間となっていたのである。
だが、この日ばかりは空気が違っていた。
珍しく刺すような硬い雰囲気を纏った部屋のメイン照明は完全に落とされ、天井のダクトから流れる空調の音だけが、耳鳴りのように低く響いている。
中央に鎮座する大型のホログラムテーブル。
そこから放たれる、網膜を焼くような冷たく青白い光だけが、招集されたエージェントたちの顔を下から鋭角に照らし出していた。
外の世界では、昨夜から続く猛吹雪が容赦なく基地の隔壁を打ち据えているはずだが、分厚い装甲と防音壁に守られたこの空間には、ただ大型サーバーを冷却するためのファンの駆動音だけが、耳鳴りのように低く鳴り続けている。
カインはテーブルの先頭に立ち、腕を深く組みながら、沈黙の中でメンバーの顔を一人一人冷徹な視線で舐めるように見渡した。
彼の背後にある壁一面の大型モニターには、ある女の顔写真と、孤島に建つ巨大な施設の複雑な立体図面が、無数のデータ文字列と共に展開されている。
「全員、よく集まってくれた。USCIB(統一国家刑事局)から、例の件に関する最新の捜査連絡だ」
カインの低く、しかしよく通る声が、ピンと張り詰めた空間の空気を震わせた。
その声の響きには、新しいリーダーとしての有無を言わせぬ重圧が宿っている。
「世界的アイドルユニット『AQZ』のリーダー、アリシア・レオンハルト。突如として数億人のファンの前から姿を消した彼女だが……ついに尻尾を掴んだ。USCIBの内偵捜査により、彼女が我々の追う『赤い蠍』の幹部、ゾディアックの一人であると完全に断定された……この情報を掴むために捜査官が何人も消えている……我々はそれに報いなければならない」
その言葉が落ちた瞬間、コンラートが微かにピクリと眉を動かし、ランは射抜くような鋭い視線でモニターの『アイドル』を睨みつけ、目を細めた。
この写真……ピンク色のサイドテールの髪、惚けた丸い目……あの時……ハワイで見た『サジタリアス』だ。
「現在、対象は地中海に浮かぶミノス島、その断崖に位置するサン・マリエール・エレクトロ・サナトリウムにて『治療中』という名目で潜伏している。表向きは世界中の大富豪や要人が利用する超高級療養施設だが、裏は完全に蠍の息がかかった要塞だ。我々UPLは、ここを強襲する。ターゲットがいるのは、最上階のワンフロアを丸ごとぶち抜いた、セキュリティレベルMAXの特別室だ」
カインはホログラムテーブルのコンソールを素早く叩き、サナトリウムの最上階を網膜を焼くような赤い光でハイライトさせた。
「決行は翌々日の03:00。マリアンヌのヴェノム・ワイバーンで、時速300km、高度400メートルで降下具無しで降下。今回は、徹底した完全なるスニーキング・ミッションだ。前回の教訓から、足のつく正規軍の大型輸送機や派手な兵器は一切使わない。行きも帰りも、ヴェノムの隠密行動のみで完結させる。……いけるな? マリアンヌ」
水を向けられたマリアンヌは、手元のタブレット端末からゆっくりと顔を上げ、長い赤髪をかきあげながら自信に満ちた妖艶な笑みを浮かべた。
「もちろんよ、カイン。愚問ね。基本、長距離の巡航移動とステルス制御はヴェノムのAIが完璧にこなすもの。ウラジオストックを抜けて、カスピ海上空を迂回し……ミラノを経由して地中海に抜けるルートね。了解したわ。各地区のレーダー網の隙間を縫う隠密ルートを通るから、少し時間がかかる。エージェントたちには、ヴェノムの硬いシートで我慢してもらうことになるけど」
「すまんが休憩はミラノまで無しだ。長時間の拘束は厳しいが、全員コンディションを整えておけ。分かったな」
カインは頷き、作戦の緻密なタイムテーブルを空中に展開する。
「今回は、現地での拠点は一切設けない。足跡を残せば、蠍に嗅ぎつけられる恐れがある。万が一、不測の事態で通信や補給が必要になった場合は、地元のPD(警察署)か軍の施設をUSCIBの強権で利用してくれ。だが、基本は我々だけの、ワンタイム・ストライクで終わらせる」
カインの鋭い視線が、突入班である四人のエージェントたちへと向けられた。
「アタック・フォーメーションを伝える。ラズロとミリア、お前たちバディはサイドの壁面からアプローチしろ。ランとコンラートのバディがトップ、つまり屋上からの強襲だ。出発は明日の14:00。作戦開始は翌々日の03:00。そして……05:00までに、対象を確実に殺せ」
「殺せ」
カインの口から放たれたその生々しく直接的な単語が、冷ややかな会議室の空気の中に、まるで高比重の重金属のように重く、そして暗く沈み込んだ。
捕縛ではない。法の下の裁きでも、尋問のための無力化でもない。
問答無用の「エクスキューション(暗殺)」だ。
ホログラムモニターに映し出され、彼らの前でゆっくりと回転している仮想モデルは、世界中のファンを熱狂させるトップアイドル。
ピンクのサイドテールを揺らし、愛らしく、そして天真爛漫な微笑みを浮かべる美しい女の子――アリシア・レオンハルトの姿である。
最新のホログラミングが描き出すその可憐な姿を見れば、世間の誰もが彼女の無邪気さに心惹かれ、熱狂し、愛おしいと感じるだろう。
しかしながら、ここに集められたUPLの戦士たちは皆、骨の髄まで理解していた。
その可愛らしい生体皮膚のすぐ下に潜む『サジタリアス(射手座)』という名の作られた神が、いかに悍ましく、絶対的な絶望を撒き散らすバケモノであるかを。
彼らの網膜の裏、電脳の深い記憶の底には、ハワイの焦土に刻まれた凄惨な光景が、血と焼けたオイルの匂いと共に未だ生々しく焼き付いている。
ミリアの前に現れたのは、過剰な装飾のロリータファッションに身を包みながら、重力を嘲笑うように宙に浮き、退屈そうに己の爪を眺めていたあどけない少女。
そして何より忘れられないのは、彼女がその華奢で美しい右腕の生体皮膚を音もなくせり上げ、内側から露出させた漆黒の砲口――36mm 多段階加速式・反物質砲『イシュタル・ゲート』の、すべてを無に還す絶望的な光だ。
『アハハハ! 壊れちゃった! やっぱり反物質はいいよね、壊す時が華やかで』
鈴を転がすような愛らしい声で笑いながら、サジタリアスはラズロの右腕を薄氷のように粉砕し、命を懸けてバリアを起動させたメイシーの胸を、心臓ごとこの世から消し飛ばした。
ラズロとメイシーの胸が同時に炸裂した音は、その場で聞いていた者は忘れる事が出来ない。
ミリア率いる精鋭、第71中隊の部下たちをゴミを掃くように蹂躙し、幸せだったハワイでのUPLメンバーの生活を全て破壊した元凶。
命を、そして人間の尊厳を、無邪気な遊戯の感覚で踏みにじる絶対的な悪意。
ピンクのサイドテールの少女の正体は、人を虫けらのように殺戮して笑う、無慈悲で純粋な「狂気」そのものなのだ。
だからこそ、カインの「殺せ」という残虐な命令に対し、この部屋で躊躇する者はただの一人もいなかった。
ミリアは、ホログラムで笑うその顔を、氷点下の殺意を湛えた瞳で静かに睨み据えている。
彼女の右手が無意識に、愛銃『シャイニング・ファルコン』のグリップを求めるように微かに動いた。
ラズロは、かつて彼女の反物質砲に破壊された右腕の反対の手に潜む――鈍い黒金の輝きを放つ『魔王の腕』の拳を、ギリッ、と金属が軋むほどの力で握りしめた。
コンラートの目には昏い炎が宿り、ランは静かに、だが確実に己の殺気を研ぎ澄ませている。
もはや言葉は不要だった。
作戦会議室を支配しているのは、あのハワイの夜、為す術もなく蹂躙された「神」の喉元に、今度こそ泥臭い鉄の牙を突き立ててやるという、極限まで濃縮された純粋な殺意だけであった。
「夜明けまでに処理が間に合わなければ、作戦は失敗とみなし、即座に撤退だ。すでにサナトリウムの内部には、友軍エージェントが看護師や清掃員として入り込んでいる。彼らの命懸けの工作により、最上階の防弾ガラスと強固な複合チタン合金製ドアの電磁バリアを含むセキュリティは、一時的に物理破壊が可能な状態になっているはずだ。突入後、対象のバイタルスキャンは必ず行え。影武者の可能性もゼロではないからな。対象の生体データは既にUSCIBのシステムに登録済みだから、スキャン完了と同時に、即座にエクスキューション(処刑)許可が降りるはずだ」
カインは作戦の細部、侵入経路から退出ルートまでを淀みなく詰めていく。
「コンラートとランは、トップ(屋上)のメイン扉から物理的にぶち破って侵入しろ。ラズロとミリアは……」
「サイドの窓からだろう?」
カインの言葉を面白がるように遮り、ラズロがニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべて口を開いた。
彼の右腕、鈍い黒金の金属光沢を放つ義手――『ハデス・クロウ』が、リミッター解除もしていないのに「バキン!」と音を立てる。
「まずは降下で外壁に突き刺さる。次に俺の『魔王の腕』の最大出力で、一切の音を立てずに強化ガラスを粉砕すればいいんだな? そこから室内に滑り込んで、ターゲットの顔面をスキャンし、その綺麗なアイドルの顔を抉り取るまで……そうだな、0.9秒ってところか」
ラズロの言葉はひどく軽薄に聞こえるが、その瞳孔は氷のように冷たく澄み切っている。
彼は本気で、0.9秒で対象の命を刈り取る算段を立てているのだ。
「満点だ、ラズロ。その腕、存分に頼りにしている」
カインは深く一つ頷き、全員の顔をもう一度見渡した。
その瞳の奥には、彼自身が抑え込んでいる冷たい怒りの炎が揺らめいている。
「いいか、全員。これは単なる任務ではない。ゾディアックは修復が完了したら手が付けられ無くなる……それ以上にジュリアン中尉とメイシーの仇討ちでもある。……奴らには一矢報いねばならない。むごたらしく、確実に殺せ」
「「「ハッ!」」」
四人のエージェントの踵が揃い、低く力強い返事が会議室の壁に反響した。
ブリーフィングが終わり、張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩んだ。
各々が作戦の準備や武器の点検に取り掛かろうと踵を返しかけた、その時だった。
カインが不意に、思い出したように口を開いた。
「ミリア……その服だが……」
「ひゃ、はいっ……!? な、なんでしょう、カインさん……!」
突然名指しされたミリアは、ビクッと怯えたウサギのように肩を跳ねさせて振り返った。
彼女は今、黒を基調としたフリルたっぷりのゴスロリ服に、頭には大きなリボンとフリルのホログラムヘッドドレス。
そして何層にも膨らんで見えるホログラムスカートがフワフワと揺れていた。
この無骨で血生臭い軍事基地において、絶望的なまでに「可愛らしい」出立ちだった。
昨夜、ほのかにこってりと「どうやって戦う気なの!?」と絞られたものの、結局のところ、これ以外に彼女は「エージェントの仕事用」の服を持ち合わせていなかったのだ。
(うぅっ……! やっぱり……派手すぎよね……。せっかくの初任務なのに……どう見ても浮いてるわよね。というか、私、常識無さすぎよ……! いま絶対、UPLの厳粛な作戦会議にこんなフリフリの格好で来るなんて、頭のネジが飛んでるって思われてる! もう消えたい! 今すぐこのタクティクス・テーブルの下に潜り込んで死にたい……!)
ミリアは顔を耳の先まで真っ赤にして俯き、ホログラムで膨らんだスカートの裾を、両手で少しでも抑えようとするが、ホログラムが抑えられるわけはない。
ミリアは今にも泣き出しそうだった。
ほのかはカインのお小言が初めて見られると思い、なぜかドキドキしている。
隣では、バディを組むことになったラズロが「お前、本当に明日の作戦にそのヒラヒラの格好で壁を登る気かよ?」と言わんばかりの表情で、肩を小刻みに震わせてニヤニヤと笑い声を押し殺している。
そうだ、このラズロという男は、基本的に「面白ければそれでいい」という性格の持ち主なのだ。
助け舟を出してくれるはずもない。
カインはミリアの服を上から下まで、まるで未知のドローンでも査定するかのような真剣な目つきで眺め、何か言い淀んでいた。
(どう言えば傷つけずに、着替えを促せる……? この服で任務は厳しいのではないか?……)
カインが思考の迷宮に入りかけたその時、彼の脳内に、鼓膜を直接揺らすようなアリアの少しイラついた甲高い声が響き渡った。
『ちょっとカイン! 何かグズグズ言おうとしてるの!?』
(アリア……頼む、今は会議の……)
『まさか「フリフリで動きにくいだろう? 別の服に着替えてこい」なんて、無神経なこと言ったら、私、絶対に許さないからね! 電脳の中で三日三晩暴れてやるわ!カーニバルよ!深夜にカーニバルし続けてやるわ!』
(いや、電脳の中でカーニバルはやめてくれ……。だが実際問題、作戦行動には致命的に不向きだろう。壁を登る時にスカートが引っかかるし、装飾が多すぎて隠密性に欠ける……)
『あーもう! カインのバカ! バカバカ! あのねぇ、女の子が一生懸命選んで、勇気を出して着てきた服なの! 乙女の心を傷つけちゃダメ! 褒めなさい! 徹底的に褒めちぎるのも、上に立つリーダーの超・重・要な役割よ、カイン! さあ、今すぐ言いなさい! 「コンラートみたいに甘ったるいセリフ」で褒めるのよ!』
脳内で腕を組んで仁王立ちするアリアのすさまじい圧に負け、カインは微かに、誰にも気づかれないほどの深いため息を吐いた。
そして、極めて真面目な、顔の筋肉を一切動かさない大真面目なトーンで告げた。
「ミリア、その服はとても……可愛い。君によく似合っていると思う。それだけが言いたかった。以上だ。解散」
「えっ……」
ミリアが間の抜けた声を上げる中、カインはそれ以上何も言わず、さっさと視線をモニターのデータへと戻してしまった。
ラズロ、ミリア、ラン、コンラート、そしてマリアンヌが、半ば呆然としながら会議室から退室していく。
重い自動扉がシュッと音を立てて閉まり、ひんやりとした金属の廊下に出た瞬間――。
「えっ! えええっ!? い、今、カインさん! 私のこと、可愛いって! 可愛いって言ってくれましたよね!? 聞きました!? 皆さん!」
ミリアが顔を太陽のように輝かせ、廊下の静寂を破る大声で吠えた。
さっきまでの不安と自己嫌悪は一瞬で宇宙の彼方へ吹き飛び、ホログラム・フリルのスカートが嬉しそうにバサバサと揺れている。
その横で、チャイナドレスのスリットから美脚を覗かせるランが、腕を組みながら我が意を得たりと深く頷いた。
「ふふん。やはり、私の見立ては間違いなかったわね。カインのような生真面目な堅物には、あれくらいのゴシックなフリル・インパクトが必要なのよ。ねぇ、コンラート」
「ああ、本当に可愛いよ、ミリア。まるで月夜の天使のようだ。あのアイドル様も君の美しさには勝てないと歯軋りするだろうさ。今度、ボクと二人でパフェでも食いに……ウグッ!」
軽口を叩きながら、ミリアの肩に馴れ馴れしく腕を回そうとしたコンラートの腹部に、ラズロの鋭い肘打ちが、一切の躊躇なく深々と突き刺さった。
「オレのバディにナンパとは……あぶねぇあぶねぇ……カインにもC-TAPまでなら撃っていいとか言われてたしな」
くの字に折れ曲がり、腹を押さえて呻きながら、コンラートが恨めしそうに下からランを睨む。
「バッチリよ、ラズロ。ウブな女の子をからかうのは百日早いわ。あんたナンパ癖は仲間内ではやめなさい。次何かあったら、私に言うのよミリア、貴方……カインも言ってたけど可愛いんだから」
「はいっ! ラズロさん、ランさん! ありがとうございます。……なんだかよくわからないけど、私、この服で作戦頑張ります! 気合入りました!」
両拳を胸の前でぎゅっと握り、謎の決意に燃えるミリアに、コンラートは冷や汗を流しながら苦笑した。
「おいおい、ミリア。僕たちは明日から命を預け合う仲間なんだぜ? その……もう少し距離を近く……」
ランのアクチュエーターの音を聞いてコンラートは、それ以上の甘ったるい言葉を紡ぐのは諦めた。
ラズロが「ミリア、バディなんだから、もう少し言葉を……なんつーかな。丁寧語やめようぜ、苦手なんだよ、そう言うのさ」
「あ……うん! 分かったぜ。ラズロ! よろしくね!」
ミリアの弾むような明るい声が、無機質で冷たい金属の廊下に温かく響いて消えていった。
マリアンヌはラズロとミリアのやり取りを微笑ましく見つめていた。
誰もいなくなった薄暗い第一作戦会議室。
カールとドクターも欠伸しながら帰宅していた。
一人残されたカインは、ホログラムテーブルに映し出されたままのアリシア・レオンハルトの虚像を、感情のない目で見つめていた。
彼はゆっくりと手を伸ばし、空中のコンソールを操作してホログラムの電源を落とす。
部屋は完全な闇に包まれた。
「ジュリアン中尉……」
暗闇の中、カインはポツリと、誰に聞かせるでもなく静かに呟いた。
「あんたの残した部下たちは、たくましくやっている……俺はリーダーなんて器じゃ無いが……これでいいんだろ? 俺は……ちゃんと出来ているのか?……いつもギリギリだよ……いつも上手くいかないな……でもな……あんたの仇は……娘の仇……俺たちが必ず取る」
『カイン……きっと中尉は聞いてるよ……「雷切」も嬉しくて泣いてるの……わかるんだ……』
アリア以外、誰にも聞こえないカインの声。
ただ、地下深くの静寂の中で、施設の冷却ファンの低い駆動音だけが、カインのリーダーと言う冷たく重い決意を包み込むように、いつまでも静かに鳴り続けていた。




