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ベヒーモス  作者: うなぎかご
邪神の章
100/114

第100話 愚堕の神々

 ハワイの空は、すでに直上にある白熱した太陽により、戦場にある全てを熱く照らしていた。

 そして、地上の戦場にいたレッド・スコルピオンに属していたMFCS(ミリタリー・フル・サイボーグ・ソルジャー)達を支配していたのは、勝利の凱歌ではなく、絶望という名の粘稠な沈黙だった。

 「ゾディアック(十二宮)」を載せた大型輸送機が、重力制御による強引な急上昇を見せ、ソニックブームを置き土産に雲の彼方へと消えていく。 

 その直後、戦場に取り残されたレッド・スコルピオンの残党――正規軍を裏切り、私欲と野心のために魂を売った彼らの網膜には、氷のように冷酷な一文が投影された。


『十二宮の戦略的撤退を確認。残存兵力は、追撃を阻止するため全力でその場を死守せよ。貴公らの献身的な忠誠を期待する』


「……死守、だと? バカな! 俺は……俺は大佐というキャリアを捨ててまで蠍に賭けたんだぞ!」

 かつて指揮官として数多の部下を率いていたはずの男が、土にまみれ、千切れた自身の腕を握りしめながら叫ぶ。

「ありえないわ……原隊のハンガーには、リキッド・クレイモアをありったけ仕掛けてきたのよ! 証拠隠滅なんて不要だと思って、これ見よがしに! 今さら戻れる場所なんて、どこにも……!」

「俺は……子どもを……家族を捨てたんだ。金と不老不死さえあれば、蠍の力さえあれば……最高の人生が手に入ると……。嘘だと言ってくれ! 置いていかないでくれ!」


 彼らの悲鳴は、しかし、すぐに無意味なものとなった。

 上空で旋回を続けていた統一国家空軍の『ウィンド・レイス』の編隊、そして地平を埋め尽くす陸軍の重装甲歩兵群、MBTを主軸とした装甲兵力、艦砲による対サイボーグ戦プロトコル。

 彼らにとって、目の前の蠍どもは「捕虜」にする対象ではない。

「……ターゲット、全個体にスキャン実行。全機、政府非公認の違法サイバーパーツによる各種換装を確認。……ネーベルハイト条約の保護対象外。全個体、処刑エグゼキューション許可を確認」


 正規軍の無機質な宣告と共に、空と地上、そして海を覆いつくす対サイボーグ弾頭が雨となって降り注ぐ。

 だが、それはただの無秩序な鉄の豪雨ではない。

 降り注ぐ無数の弾丸のすべてが、個別のターゲットを執拗に追い詰める精密なガイダンス(精密誘導)を伴い、蠍の残党たちの『急所』を寸分違わず撃ち抜いていく死の雨であった。

「いやぁぁぁ……降伏!降伏します!」

「助けてくれぇ!オレには……娘が!」

「ひぃぃぃ……降伏……降伏ビーコンに気が付かないのか!」

  

 誇りも、家族も、地位も、人間としての尊厳すらも捨て、ただ「不老不死と言う甘い毒」を求めた裏切り者たちは、かつての仲間であった「純粋な国家の暴力」によって、その醜い機械の肉体を一片の塵も残さず、徹底的に粉砕されていった。


 UPL地下司令室。

 メイシーとジュリアン中尉という、組織の両輪を失ったメンバーたちは、しかし、ただ泣き崩れるだけの無力な存在ではなかった。


「……あいつらを、地獄の底まで叩き落としてやりますよ」

 ノエルが充血した瞳を剥き出しにし、血と煤に汚れた指先でコンソールを叩く。

「……ええ。絶対に、絶対に許さないんだから」

 ほのかがその言葉に応じるように、UPLの特権IDを用いて統合参謀本部・作戦命令統一システムへのアクセスを開始した。


 ドクターFの指示を受け、カールが即座に大統領直通のホットラインを接続し、一度限りの緊急認証コードを受理する。

 UPL権限によるシステム介入――それは第39代大統領セロン・E・ハルフォードの権威を後ろ盾とした、絶対的な命令権の発動であった。


 現場の全指揮系統を瞬時にバイパスし、ハワイ近海に展開する全戦力へと、至上命令「オリオン中将(レッド・スコルピオン撃滅作戦に基づいたUPL最優先作戦コード)」が雷の如く浸透していった。

 これにより目標(パンドラ)に対してならば、使用許可が必要なクラス5以上の兵器すら自動解禁される。


「こちらコンドル13、ハワイ沖セクター7において目標を確認。Tally-ho(ターゲット視認)。座標 19.8968, -155.5828。高度1万3000、速度450ノット。ターゲットは大型輸送機。パンドラ (ゾディアックの輸送機)と一致。これより追跡を開始する。司令部、交戦許可を乞う。オーバー」


 返信は、第498パールハーバー空軍基地――通称『パシフィック・ウォッチ』から、震えるような低音で届いた。

 UPL指令端末から、ヘラクレスを名乗るほのかが最優先撃滅命令を叩きつける。


「パシフィック・ウォッチ了解。…………ヘラクレス(統合作戦本部『蠍』対策デスク)より回答。当該海域に対し、3個飛行群・計11個編隊を緊急で差し向けた。マージ(最短の交戦)までカウント400」


 通信の向こう側で、基地司令の喉が鳴る音が聞こえた。


「……いいか、コンドル13。そのパンドラ(輸送機)には、我々の世界を汚した『イカれた偽物の神々』が乗っている。……ゴミ掃除だ。躊躇うな、地獄へ叩き落とせ。全機に撃墜を許可する……堕とせば英雄だ」


「コンドル13、了解。……英雄になど興味はない。オレの僚機……結婚間近のロッキー……個人ロッカーごとミンチにされた……『お返し』が必要だ」

 アフターバーナーが咆哮を上げ、四機の『ウィンド・レイス』が海面を切り裂きながらマッハ2を越える。

「コンドル4、警告! 10時方向、距離12000に違法AIドローン戦闘機を視認! ステルスだ、レーダーには映らん! 光学照準によるビジュアル・ドッグファイト(有視界戦)に入る!RWD (ロイヤル・ウィングマン・ドローン)集結!有視界戦プロトコル開始、レーザー誘導!)

 300と数十年間、人類のエースパイロットの挙動を学習したRWDの空戦AIは甘いものではない。


 大気の中に、陽炎のような歪みが躍った。

 蠍が放った使い捨てのステルスAIドローン群。 

 運動性能を極限まで排し、ただ「特攻兵器」として安価に大量生産された鉄の亡霊たち。

「第八艦隊よりパシフィックウォッチへ! パンドラの進路上に、ドローン潜水艦およびドローン艦艇の群れを発見。こちらもステルス仕様。海が……空が……NSD(ナノマシン・スマート・ダスト)だ!」

 原始的な金属箔では無く、自律的に空中を漂うナノマシンやマイクロチップが空と海を支配する。

 高額ゆえに使用を躊躇われるそれは、従来のレーダー波だけでなく、赤外線、紫外線、さらには量子レーダーに対しても、特定の周波数を吸収・屈折させることで完璧な「空白地帯」を作り出している。


 散布された粒子群が互いに通信し、空中において自機の熱源反応やレーダー反射を模したデコイを立体的に形成するそれは、一見すればデコイだとすぐに分かる。

 しかしながら、レーダーを騙すだけならば、十二分に効果を発揮していた。

 正規軍のパイロットたちは、レーダーを頼りに出来ない今、AIの補助を限界まで受けながら、肉眼で見える「歪み」を撃ち抜く、凄絶な肉薄戦へと突入していく。


 地上では、UPL護衛独立憲兵隊の二個中隊が司令部でUPLに合流し、凄惨な救助活動が続けられていた。


 中尉は、動かなかった。その誇り高い身体は、もはや修復不能なまでに損壊していた。

 カインとラズロは意識を失い、生体機能の維持も危ぶまれる状態で、ボロボロになった地下施設の再生槽へと運び込まれる。ドクターFとカールは、血に塗れた白衣を翻し、震える手で二人の応急処置を開始した。


「……ごめんなさい……メイシー……中尉……」

 カールが、破砕されたカインの脇腹に人工神経と液体皮膚を流し込みながら、声を殺して呻く。

 その傍らで、五体満足で、軽傷で済んだことが自分たちを何よりも残酷に苦しめている二人のMFCSがいた。

 ランとコンラートだ。

 彼らは壮絶な死闘の合間に、不意を突かれて反物質砲の至近弾を受け、一時的なシャットダウンをしたのだ。

 決して戦わなかった訳ではなく、次々と繰り出される魚座の重力制御グレネード・ローズを叩き落とし、牡牛座の重力鞭を掻い潜り痛打を与えていた。

 しかしながら、戦闘中に気絶していた事実は二人の心を灼熱の刃で抉り続けていた。

「自分たちが気絶していたから……中尉が死んだのだ」


 二人は、かつてメイシー・トレントであった「モノ」を集めていた。

 焦げた肉の断片、彼女の義手の指先だった小さなパーツ、そして最期まで彼女が握りしめていた制御盤の破片。

「なあ、ラン……俺が……俺があの時寝ていなければ。反物質砲程度で気絶なんてしていなければ、メイシーは死なずに済んだんだ……。俺が代われば良かった。自分を、殺したいよ」

 コンラートの横顔は、自分への激しい嫌悪と自責の色に塗り潰されていた。

「……コンラート、バカなこと言わないで。……私もよ。私も寝ていた。大事な時に、何もできずに……。中尉も、メイシーも、あんなに頑張って……私たちを守ってくれたのに……うっ……うああああああん!」


 ランは、コンラートの胸に顔を埋め、子供のようにわんわんと泣きじゃくった。

 父親のように慕っていた中尉の死、そして、命を灯火にして自分たちを守り抜いたメイシーの不在。

 二人の手のひらの中にある「メイシーの残骸」は、あまりにも小さく、あまりにも冷たかった。


 一方、追跡される輸送機の内部は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 かつて人間を虫ケラと嘲笑い、神を自称していたゾディアックたちは、今は生命維持装置のチューブに繋がり、死の恐怖に無様に喚き散らしている。

「早く! もっと速度を上げて! 追いつかれるわ、死にたくない!」

「援軍は!? 援軍はまだ来ないの!? 私は神なのよ、こんなところで終わるはずがない!」

「嫌だ……嫌だ、助けてくれ! 俺の永遠の命が……こんな!助けてくれぇぇぇ!」


 その姿に、治療に当たっていたゾディアック付きの医官たちは、心底からの絶望を味わっていた。

 自分たちが全霊を捧げて仕えてきたのは、ただの臆病で浅ましい「鉄屑」だった。


『ウィンド・レイス』から放たれた空対空ミサイル(YAMATA-OROCHI - SIDEWINDER ANCESTRY SW-399-F / SIN-2492)が発射後カウント3で8本の軌跡に分かれ青空を切り裂いた。

 高価なミサイルではあるが、「オリオン中将」が発動された今、文句など出るはずがない。

 

 八本の噴射炎は、獲物を逃さぬ八頭の大蛇のあぎとのように、輸送機の直上・直下へとそれぞれ四本ずつ、絶望的な放物線を描く。

 輸送機から吐き出された回避用自律ドローンなど、RWD(ロイヤル・ウィングマン・ドローン)の空戦特化AIが相手にするわけもない。

 輸送機の手前、距離にして5000m。

 先行RWDの精密誘導に同期し、ミサイル群は物理法則を無視した鋭角で一斉に反転。

 逃げ惑う輸送機の巨体に、幾何学的な放物線を描きながら全弾同時に突き刺さった。


 燃料タンク、コクピット、そして揚力を司る両翼――。

 全ての急所に奔った衝撃は、流出した冷却液へ瞬時に引火。

 夜の静寂を切り裂き、空中で巨大な、そして醜いガラクタを呑み込む火球が、かつての「神々」の末路を祝福するように膨れ上がった。


 ――刹那、空間そのものが爆発した。


「ターゲット・ダウン。命中を確認。輸送機、ブレイクアップ(空中分解)」

 コンドル13の冷徹な報告が無線に流れる。

 神々を載せた残骸は、重力に逆らう術を失い、太平洋の荒波へと吸い込まれていった。


 しかし、その直後。

「……こちら第10艦隊。海域に潜伏していたドローン潜水艇群が、海面に落下したサイボーグパーツのかなりの数を、AI・サルベージ・ネットで回収しているのを確認。……これ以上の追撃は不可能です。潜行を開始しました」


 宇宙軍の攻撃衛星が捉えた高倍率サーマル映像には、海面に沸き出した無数のドローンたちが、主人の鋼鉄の肉片――あるいは、回収可能な高価な「機密パーツ」を拾い集め、冷たい深海へと消えていく不気味な光景が映し出されていた。


 潜水艦『シー・サーペント』からの電文が、沈痛な静寂を破る。


「……こちらシー・サーペント。海面にて『十二宮』の頭部、及び重要モジュールの回収を確認。……現在、敵ドローン群が五体分の主要パーツを収容し、急速潜行中。……待て、散布されたNSDナノ・ステルス・ダスト濃度が25%を突破。音響・磁気ともにセンサー有効限界を超えた。……目標、ロスト。奴ら、逃げやがった」


 撃墜という勝利。

 そして逃走。

 本当の意味での「神殺し」の難しさを、生き残った者たちの胸に深く刻み込むことになった。


 中尉の死。

 メイシーの死。

 その意味を問う戦いは、今、本当の幕を開けたのだ。



 オマケ


 太平洋の深淵、光すら届かぬ水深6000メートルの極限の海溝。

 そこに鎮座する『蠍』の機密拠点は、ハワイでの騒乱をよそに、不気味なほどの静寂に包まれていた。

 だが、その一室――無機質な半有機セラミックパネルに囲まれた「換装室」だけは、生々しい生理的な恐怖が充満していた。


 部屋の中央には、五体の「モノ」が並べられている。

 かつて世界を震撼させたゾディアック(十二宮)の残骸だ。


 彼らの現状は無惨という他ない。

 首から下は失われ、剥き出しの脊髄インターフェースが、人に近い外見という以外に意味が無い「仮換装体」へと接続されている。

 その体は武装も装甲も持たず、生身の人間と見紛うばかりの柔らかな生体皮膚に覆われただけの、文字通りの裸体であった。


 さらに過酷なのは、その制御だ。

 全身の駆動系動力は完全にカットされ、首を動かすことすらままならない。

 それなのに、感覚回路だけは神経系パーツを介して、電脳へとダイレクトに繋がっているのである。

 彼らの意思に反して、その裸の体は、ただ直立不動のまま固定されていた。


 そこへ、冷酷な美しさを湛えたジェミニ(双子座)の声が、スピーカー越しに響き渡る。


「……あなた達には、本当に失望したわ。世界最強の義体を与えられながら、揃いも揃ってこれほど無様な姿で帰ってくるなんて。救いようのないクズね」


「つ、次こそは……っ、次こそはちゃんとします! ですから……!」

 アクエリアス(水瓶座)が、青ざめた顔で必死に弁明する。  

 しかし、その声は恐怖に震え、かつての傲慢さは微塵もない。

「……そもそも、ピスケスなんて何もしないまま転がってただけなんですのよ!私だけはちゃんとしましたー!」

 サジタリアスが責任を転嫁するように吠えれば、ピスケスもまた、脂汗を流しながら反論する。

「ワタクシを責めないでくださる? 両手を斬り落とされた状態では、グレネード・ローズも使えませんわ!」

「だいたい……アクエリアス、貴様がジュリアンを余計に煽るからだろうが。計算外の暴走を招いた責任は重いぞ」

 カプリコーンが低い声で嗜める。


 その中で、タウラスだけは何も言わず、歯の根も合わないほどガタガタと震えていた。

 彼女だけは知っている。

 このジェミニの沈黙。

 この空気。

 そして、ジェミニが「失望した」と言った後の、想像を絶する地獄を。

 タウラス(牡牛座)だけは、過去にこの「お仕置き」を経験していたのだ。


「あら、仲良しね。……ふふ、あはははっ! いいわ、最高。責任のなすりつけ合いなんて、まさに負け犬の遠吠えだわ。……本当に……神に見えないわね。あなた達……ゾディアックは神なの……分かるかしら?体で理解してもらうしか無いわよね?うふふ……お仕置き開始!」


 その宣告と同時に、彼らの脊髄に「禁断の信号」が送られた。

 サイボーグの感覚調整は、本来極めて繊細な領域だ。

 通常であれば、生体神経パーツの感度は23.4567ジシルから24.6802ジシルまでの極めて狭い範囲内で、個体の個性に合わせて0.0001単位で微調整される。

 

 それが「痛み」や「不快感」を感覚ごとに制御し、戦闘に集中するための黄金比だからだ。


 だが、今、ジェミニが設定した数値は――『100』。


「ひ、ひぃぃ……っ!? な、何これ、空気が……空気が肌を撫でるだけで……ひゃっ!?」

 アクエリアスが悲鳴を上げた。

 感度100の世界では、空調から送られるわずかな空気の揺らぎすら、全身を這い回る無数の蟲のような、狂おしい刺激に変わる。


「や、やめて……っ、やめてくだされ! ひゃっ、ひゃっひゃっひゃっ!」

 カプリコーンが、かつての威厳をかなぐり捨てて笑い出す。

「あっはっはっ! 死ぬ、死んじゃいますぅ! 」

 サジタリアスは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、絶叫に近い笑い声を上げた。

 ピスケスもタウラスも、もはや言葉にならない呻きを漏らし、涎を垂らしながら身悶えている。

 泌尿器系の作動を絶たれているが、すでに全員が失禁を超える感覚を下半身に感じていた。

 身動きの取れない直立不動の姿勢のまま、全身の神経が「快」と「不快」の極限へと叩き込まれる地獄。

「ゆるしてくだざいい……っ、ごめんなざいぃぃ!」

 アクエリアスは、溢れ出る涙を拭うことすらできず、ただ虚空を見上げて懇願する。


 だが、本当の絶望はここからだった。

 「調整室」の重厚な扉がスライドし、五体の人形ドローンが「ガシンガシン」と不自然な足音と共に入室してきた。

 タウラスの顔面が、恐怖で土気色を通り越して真っ白になる。

 拷問用に制御された電脳では気絶すら許されないのだ。


「な……何よ、その手……やめて……来ないで!」

 サジタリアスが、首だけを必死に振って拒絶する。

「双子座……慈悲を。許しては……くださらぬか……っ」

 カプリコーンが、威厳の欠片もない震え声で懇願するが、ジェミニの哄笑がそれを打ち消した。


「今回は分解してポイ(廃棄処分)はしないであげる。命だけは助けてあげるわ……まだ神の座に座らせておいてあげる……。でもね……言われたことができない悪い子には、徹底的なオシオキが必要よね?」


 ドローンたちの両手には、一本の「凶器」が握られていた。

 極細の合成繊維を編み込んだ、双子座がレッド・スコルピオンの技術の推を結集して開発した「単原子マイクロファイバー・ネコジャラシ」である。

 持ち手には可愛いホログラム・フリルが付いている。


「きゃぁぁぁぁぁぁ! そ、そこはっ! 耐えられるわけがないでしょぉぉ!」

 サジタリアスの腋の下に、羽毛のような感触が触れた瞬間、彼女の背中が弓なりに反った。

「ヒィーーっ、ヒッヒッヒ! あ、足の裏、足の裏だけはぁぁ!」

 タウラスが絶叫する。

「死ぬ! 殺して! おへそなんて……あっはっはっ、もうダメぇぇ!」

 ピスケスの目が狂人のように狂い彷徨う。

 カプリコーンにあっては「げっげっげっげっ」ともはや感情が壊れかけ、アクエリアスは白目をむいているが気絶が出来ない事に絶望する。


 感度100の皮膚にとって、ネコジャラシの一振りは、死をも超越する暴力であった。

 五人の絶叫と、狂ったような笑い声が部屋に反響する。


「うふふ、まだまだ終わらないわよ。私、ビールの一本目を空けたばかりなの。……さあ、私が満足するまで、もっといい声を聞かせてちょうだい?」


 暗い深海の底で、かつて「神」を自称した者たちの、醜くも無様な慟哭がいつまでも続いていた。

 

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