第8話
アレックスは大股で近づいてきて、ラインハルトの肩を軽く叩いた。
「昨日、ユーリウスのやつらにやられたって聞いたぞ! けど……お前、平気そうだな。よかった!」
声は心配と安堵に満ちている。
周囲の生徒たちが、さらに注目している。
ラインハルトは頭を下げ、答えた。
「殿下。ご心配をおかけしました。些細な揉め事でございました」
アレックスが眉をひそめた。
「……おい、どうしたんだよ? 急に『殿下』って」
「失礼致しました。アレックス」
アレックスは少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑って肩を叩いた。
「ま、いいや! それより、ユーリウスの件は俺がなんとかしてやる。モントフォール家に言っておくからよ」
ラインハルトは首を振った。
「いえ、自分で片を付けました」
アレックスが目を丸くする。
「……自分で? 三人を?」
その一言で、教室が更にざわついた。
「マジかよ……本当に一人でやったのか?」
「ユーリウスたち三人相手に……?」
「嘘だろ……あいつ、初級魔法しか使えないはずじゃ……」
生徒たちが顔を見合わせ、小声で囁き始める。
好奇と畏怖が入り混じった視線が、ラインハルトに集中していた。
ラインハルトはただ、口元を緩めた。
教室の空気が、微妙に変わり始めていた。
ユーリウスは俯いたまま、包帯の腕をぎゅっと握っている。
ラインハルトは席に着き、窓の外を見やった。
(……いい機会はないものか)
授業が始まってから、すでに数時間が経過していた。
講師の老魔術師が黒板に複雑な術式図を描きながら、魔法の理論を解説している。
聞きなれない単語が並んでいた。
魔力回路、属性親和性、構築式の階位が次々と飛び交う。
だが、この体の記憶が不思議と助けになった。
ラインハルトは、剣や体術の技量はまるでなかったが、勉学に関しては優秀だったらしい。
講師の言葉が、自然と頭に染み込んでいく。
理解はできた。
しかし、腑に落ちないことが一つだけあった。
魔法とは、一定の形を取り、込めた魔力量によって威力と大きさが変わる。
そして、体に生まれながら刻まれた「魔法構築式」によって、その階位が決まる。
初級、中級、上級……さらにその先もあるらしい。
構築式の質と量が、使える魔法の幅と深さを規定する。
「初級魔法しか使えないと言われたのは、そういうことか」
ラインハルトは静かに言葉を紡いた。
周囲の生徒たちは熱心にノートを取っているが、彼にとってはどこか不自然な理論だった。
(形が固定されている……それが強さだと?)




