第6話
ラインハルトは自室に戻り、ベッドに腰を下ろし、上体を倒した。
天蓋を見上げながら、長く息を吐いた。
「……さて」
右手を胸の前に掲げる。
掌を上に向け、意識を集中させる。
体内を流れる魔力が、応えた。
最初は、ただの温かさ。
それが次第に熱を帯び、指先へと集まっていく。
まず、火。
小さな炎が灯った。
豆粒ほどの赤い火球。
揺らめきながら、熱を放つ。
この体の記憶が、自然に術式を導く。
次に、水。
炎の横に、透明な水滴が生まれる。
手のひらサイズの球体。
内部で渦を巻き、光を反射して輝く。
続いて、風。
水滴の周囲を、微かな気流が包み始めた。
髪の毛が揺れるほどの、優しい風。
最後に、土。
地面からではなく、魔力そのものが凝縮して、小さな岩の欠片が浮かび上がった。
親指ほどの大きさ。
四つの初級魔法が並ぶ。
火、水、風、土……そして雷。
どれも学院で一年生が最初に習う、ごく基本的なもの。
「華やかさはない。威力もない……だが良く練られている」
だが、ラインハルトは、それを見つめながら口元に静かな満足の色を滲ませた。
「山水三千世界を万里一空に入れ、満天地ともまとめる」
心の中で繰り返す。
四つの魔法は、互いに干渉することなく、ただそこに在る。
火は水を蒸発させず、水は火を消さず。
風は乱れず、土は崩れず。
相反する属性が調和している。
それは、決して高度な術ではない。
ただの初級魔法の並列。
だが、ラインハルトにとっては十分だった。
この体は、魔力を「感じる」ことを教えてくれる。
剣を握るように、魔力を握る。
気の流れを読み、相手の隙を突くように、魔力の流れを読む。
初級の枠組みの中でさえ、無限の可能性が見える。
「……明日が楽しみだ」
炎を見つめながら、武蔵は瞼を伏せた。
「それにしても……夜にこうも弱いか」
やがて、魔力を緩めると、すべてが音もなく消えていく。
部屋に、再び一切の物音が途切れた。
ラインハルトは手を下ろし、天井を見上げた。
「まだ、遠い……な」
だが、確かに──一歩、踏み出した。




