第49話
朝の陽光が、帝都の石畳を金色に染めていた。
エーゼルヴァルト家の馬車は、静かな蹄の音を響かせながら、帝都の中心──ヴァルドリア王城へと向かっていた。
車内では、ラインハルトと母が並んで座っていた。
ラインハルトは黒基調の礼装に細剣を差した姿で、昨夜受け取った帝国章を眺めていた。
「……大丈夫よ。騎士団の皆さんはお優しい方ばかりです」
「実は……面白そうだなと思っています」
母は、窓の外に向き直った。
「あなたはお父様にそっくりね。あの人も戦いの匂いを嗅ぎつけると、目が輝いていたわねぇ」
馬車はほどなくして、王城の正門前に到着した。
門は重厚な鉄製で、両脇に甲冑を纏った衛兵が四人、槍を構えて立っている。
馬車が近づくと、衛兵の一人が手を上げて停止を命じた。
御者が扉を開け、ラインハルトが顔を出す。
衛兵が鋭い表情を向けてきた。
「ご用件を」
ラインハルトは帝国章を掲げた。
金色の獅子が朝陽を浴びて輝く。
衛兵たちの表情が変わった。
「──っ!」
四人同時に槍を垂直に立て、深く敬礼する。
「失礼いたしました! どうぞお通りください!」
その背後で、もう一人の衛兵が大きな声で自己紹介を始めた。
「王城正門衛兵隊第三小隊長、ヨハン・ヴァイス! 入城を歓迎いたします! 帝国に栄光あれ!」
声は門の向こうまで響き渡り、見送る衛兵たちの姿勢がさらに引き締まった。
馬車が門をくぐり抜ける間、ラインハルトは窓からその様子を眺めていた。
「……すごいですね」
思わず口に出してしまった。
母が穏やかな顔を向けた。
「それがこの国を護るということよ」
やがて馬車は王城内の広場に案内され、止まった。
ラインハルトが先に降り、母に手を差し伸べる。
母は少し驚いたように瞬き、それからその手を取った。
「あら、ずいぶん紳士になったものね」
ラインハルトは照れくさそうに横を向く。
「あまり、いじめないでください」
母はくすくすと笑い、息子の頰を軽く撫でた。
「あなたの成長が嬉しいのよ。本当に」
そんな二人の元に、一人の騎士と王宮メイドが近づいてきた。
騎士は三十代半ばと思しき壮年の男。
肩幅が広く、甲冑の下から覗く筋肉が逞しい。
金髪を短く刈り上げている。
腰の長剣は使い込まれた様子で、重厚な威圧感を放っていた。
騎士はラインハルトの前で立ち止まり、敬礼した。
「初めまして。私は王立騎士団第三中隊長、ガラハント・フォン・ブリュンヒルデ。ラインハルト・フォン・エーゼルヴァルト殿だな? 君は俺が案内しよう。奥方様はこちらのメイドがご案内いたします」
メイドは頭を下げ、母に優しい表情を向けた。
母はラインハルトの手をそっと握った。
「ラインハルト、頑張ってね。お父様も、きっと見守ってくれているわ」
ラインハルトは頷いた。
「……行ってまいります」
母はメイドに連れられて、王城の正殿の方へと歩いていく。
背中を見送りながら、ラインハルトは深く息を吐いた。
ガラハントがラインハルトの肩をポンと叩く。
「では我々も向かおうか。緊張しているか?」
ラインハルトは余裕を込めて唇の端を上げた。
「少しだけ。ですが……楽しみです」
ガラハントは満足げに頷き、背を向けて歩き始めた。
「いい目だ。ついてこい」




