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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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第46話

 東屋の下、白いテーブルを囲むように四人が椅子に腰を下ろした。


 噴水の水音が穏やかに響き、春の陽射しが木漏れ日となってテーブルに落ちる。


 ほどなくして侍女たちが銀のトレイを抱え、紅茶のポットと焼き菓子の籠、果物の盛り合わせを並べ始めた。


 香ばしいアールグレイの匂いが庭園に広がる。


 アレックスが紅茶を一口飲んだ。


「それで一体何だったんだ?」


 ラインハルトはカップを置いて、ため息をつく。


「そんな適当な聞き方があるか」


「せっかくだから偏見なく知りたくてな。まだ何も情報を入れてないんだ」


「……何から聞きたい?」


 アレックスが目を輝かせて身を乗り出した。


「セレナとのキスはどんな感じだった?」


 ラインハルトが即座に立ち上がる。


「今すぐ馬車を用意しよう」


「冗談だ冗談! それで……ダンジョンでは何が?」


 ラインハルトは渋々腰を下ろし、説明を始めた。


 巨岩兵を倒した後、転移陣の前でセレナが突然攻撃を仕掛けてきたこと。

 炎の花弁で圧倒されそうになったが、石礫の散弾と回り込みで逆転したこと。

 セレナが膝をついた後、お姫様抱っこで運んだこと。


 説明が終わると、アレックスが腕を組んで唸った。


「そういうことだったんだな……セレナ先輩。冗談じゃ済まされないように聞こえるが」


 そう言い終える前に、セレナがくすくすと笑い出した。


「あはははー! ごめんねー! どうしても話題の魔法使いの実力が見てみたくってさぁ」


 突然の変化に、ラインハルトは思わず目を丸くした。


「……急に、どうしたんですか?」


 セレナは笑いを収め、軽く髪をかき上げて、照れくさそうに頰を掻いた。


「ん? あーこれ? 実はね、後輩に頼れる先輩っぽく見られたくて、ちょっとカッコつけちゃった。てへっ……素はこっちなのよね」


 そう言って、無邪気な笑顔でピースサインを作ってみせる。


 アレックスが一旦二人を静止した。


「先輩、続けて下さい」


「一応誤解がないように言っておくけど、私はラインハルトに対して個人的な恨みも、派閥争いに関わる用件で関わったわけじゃないからね? まぁ、ある意味かかわったと言っても過言ではないけど……んー、伝えるの難しいな? とにかく、君の決闘を見て、その戦いっぷりに興味が湧いてね。どうしても手合わせをしたくなったんだ!」


 ラインハルトが疑わしげに表情を曇らせた。


「……手合わせって。あの攻撃は殺す気に見えたんですが」


 セレナは首を傾げ、無邪気な笑みを浮かべた。


「……ん? でも死んでないじゃない?」


 ラインハルトは言葉を失い、心の中で思った。


(……前世でもこういう死生観がズレてる奴はいたが、この歳でずいぶん……)


 アレックスが苦笑しながら口を挟む。


「さすがは英知の四人と言われることはある。だが、俺の友にあまりちょっかいをかけてくれるな」


「えー、でも気に入っちゃったからなぁ……」


 ヴィオレットが突然立ち上がり、声を震わせながら前に出た。


「セレナ先輩……もうラインハルト様……ラインハルト君に近づかないでください!」


 ラインハルトが息を呑む。


「ヴィオレット……」


 セレナは穏やかな表情のまま、首を振った。


「それは無理な相談だね」


 ヴィオレットが唇を噛む。


「なんで……ラインハルト君は……私と……その……」


 アレックスが穏やかに口を開いた。


「暗殺の件だろう?」


 ラインハルトが驚いて顔を上げる。


「えっ?」


 セレナが頷いた。


「正解だ。皇子殿下」


 そう言うと、セレナは優雅に立ち上がり、アレックスの前に跪いた。


「第一皇子の護衛として、ラインハルトの素養を確かめさせていただきました。中期的には問題ないと思われます」


 アレックスが少し眉をひそめる。


「含みがある物言いだな」


「はい……しかし」


 セレナの視線がヴィオレットに向く。


 アレックスが言った。


「よい。今日は全てを知ってもらうつもりで来ている」


 セレナが姿勢を正し、続けた。


「ヴィオレット嬢を賭けた決闘によって、両派閥に軋轢が生まれております。そのためラインハルトを護衛とするには、敵が増えすぎます」


 ヴィオレットの顔が青ざめる。


「そんな……私のせいで……」


 アレックスが優しく笑った。


「そうだ。ラインハルトも気づいていると思うが、これも政治だ。だが、俺はそんなことどうでもいいと思っている」


 そう言って、ラインハルトの方に向き直る。


「お前なら全部うまくやれるだろう?」


 ラインハルトは、しかし力強く頷いた。


「もちろん。今更この掌から零すわけにはいかない」


 アレックスがにっと笑う。


「格好いいなぁ、お前は」


 セレナが立ち上がり、優しい顔つきになった。


「私もラインハルトと共に殿下の護衛としてお側に着くようにと命が下っております」


 アレックスが頷く。


「分かった。よろしく頼む」


「はっ!」


 ヴィオレットは状況が飲み込めず、みんなの顔をチラチラと見回していた。


 ラインハルトが優しく説明した。


「つまりセレナは敵じゃなくて味方になって、これからも第一皇子を俺と一緒に守るってことだ」


 アレックスが笑って付け加える。


「恋敵じゃなくて友達だと思えばいいさ」


 セレナが瞳を細めていた。


「あら、私は恋敵でもいいんだけどなー? 強い個が生めそうだし」


 そう言って、ラインハルトの顎をそっと指で撫でる。


 ヴィオレットが慌てて立ち上がり、声を上ずらせた。


「わわわわ! ダメです! ラインハルト君は渡しません! ラインハルト君も、そういう時はちゃんと避けてください!」


 アレックスが腹を抱えて笑い出す。


「はっはっは! 賑やかでいい!」


 ヴィオレットが頰を膨らませる。


「もー!」


 庭園に、四人の笑い声が響いた。


 噴水の水音が優しくそれを包み、春の陽射しがテーブルを温かく照らしていた。


 新たな仲間を得て、嵐の前の穏やかなひと時。


 だが、誰もが知っていた──これから先、本当の戦いが始まることを。


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