第44話
演習場の広場は、まだ合同演習の余熱が残る喧騒に包まれていた。
生徒たちは光玉を手に戻ってくるペアを囲み、盛り上がりの声を上げたり、悔しがったり、互いの戦果を自慢し合ったりしている。
そんな中、木陰から手をつないだ二人が現れた。
ざわめきがぴたりと止まる。
アレックスが一番先に反応した。
両手を大きく振りながら、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「おーおー! カップルが戻ってきたぞぉ!!」
周囲から野次と拍手が沸き起こる。
「おおおお!」
「やっとか!」
「遅かったなー!」
ラインハルトはため息をつき、ヴィオレットの手にそっと力を込めた。
ヴィオレットは俯き加減で、でもしっかりと握り返していた。
アレックスは躊躇なくラインハルトの肩に腕を回し、耳元で囁くような大声で言った。
「で? 仲直りできたか? ちゅーくらいはしたのか?」
その一言で、ラインハルトの顔が赤くなった。
耳から首筋まで、真っ赤に染まる。
後ろで控えていたヴィオレットも、ぱっと顔を上げたかと思うと、すぐに俯いて耳まで赤く染め、首を振る仕草を見せた。
アレックスはそれを見て、目を丸くし──
「あーれー! まじかー!! まじまじまじまじ!? みんなー!! 今日は祭りだー!!! キスパーティだー!!!」
両手を高く掲げて叫ぶと、周囲の生徒たちが一気に沸き立った。
「ま! つ! り!」
「ま! つ! り!」
「ま! つ! り!」
コールが起こり、誰かが拍手し始め、誰かが口笛を吹き、誰かが「キース! キース!」と囃し立てる。
ラインハルトは慌ててアレックスの腕を振り払おうとする。
「やめろ、やめろって! アレックス!」
だが、アレックスはにやにやしながら逃げ回る。
その騒ぎの中心で、少し離れた場所に立っていたセレナが、ふと口を開いた。
「あのっ……ラインハルト様は、とてもお優しくて……とても、心地よかったです」
声は小さかったが、広場に響く騒ぎの合間を縫うように、はっきり届いた。
時間が止まったように息が詰まった。
「「「「いええええいい!!!」」」」
悲鳴と熱狂の叫びが響き渡った。
ラインハルトは見たこともないほどあわあわとした顔になり、口を開けては閉じ、閉じては開き、最終的に両手で顔を覆って「うわあああ」と叫んだ。
赤面に赤面を重ね、もう耳が燃えているのではないかというほど真っ赤。
ヴィオレットも同じくらい赤くなり、両手で頰を押さえながら、目を白黒させてセレナを見た。
セレナは二人を見て、やれやれ、という顔で肩をすくめた。
「……ちょっとからかいすぎたかしら」
その言葉は誰にも届かなかった。
アレックスだけが、腹を抱えて大笑いしていた。
「祭りだ!!」
広場は、もう誰にも止められない大騒ぎになっていた。
ラインハルトは顔を覆ったまま、ヴィオレットの小さな手をぎゅっと握りしめた。
ヴィオレットも、恥ずかしさのあまり半泣きになりながら、でもしっかりと握り返した。
騒ぎは日没を過ぎても、なかなか収まりそうになかった。




