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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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42/50

第42話

 第五階層は、ただの小さな空間だった。

 中央に、光玉が一つだけ浮かんでいる。


 罠も敵も、一切ない。


 ラインハルトはセレナを抱えたまま、光玉に手を伸ばした。


(……これで終わりか)


 指先が光玉に触れる。


 セレナが小さく呟く。


「おめでとう……合格よ」


「……ありがとうございます」


 光が広がり、二人は外へと転移された。



 演習場の外、広場はすでにクリアを果たした生徒たちで賑わっていた。


 転移陣の周囲では、仲間同士で輪になって戦闘の自慢話に花が咲いている。


「俺のペア、ゴブリンを一撃で三匹まとめて吹き飛ばしたぜ!」


「うちは狼の大群に囲まれたけど、風魔法で竜巻作って一掃したんだよねー!」


「巨岩兵? 上級生と連携してコア狙ったら一発だったわ! 楽勝楽勝!」


 笑い声と拍手が飛び交い、まるで小さな祭りのような雰囲気だった。


 みんなが次のペアの登場に期待を膨らませ、転移陣を眺めている。


 ──その瞬間。


 広場のざわめきと笑い声が、ぴたりと止まった。


 そこに現れたのは、お姫様抱っこされたセレナと、それを抱えるラインハルトだった。


 周囲が凍りついた。


 そして、誰よりも待っていたであろうアレックスの後ろで──ヴィオレットの姿があった。

 顔が青ざめ、唇が引きつっていた。


 ラインハルトが慌てて口を開く。


「あの……これはだな」


 アレックスが大げさに叫んだ。


「あーあーあー!」


 ヴィオレットが、ぽろりと涙を零した。


 彼女は唇を噛み、俯いたまま踵を返した。


 その瞬間、足元で土の魔力が爆発的に膨張し、地面が彼女の足裏を強く押し上げた。

 まるで「行け」と促すように、地面が彼女を前へ、前へと押し進める。


 ドンッ!


 ヴィオレットの体が矢のように飛び出した。

 誰も追えないほどの超高速で、広場を突き抜け、視界から消えていく。


「ヴィオレット! これは!」


 ラインハルトが叫ぶが、声は届かない。


 セレナがラインハルトの胸を軽く叩いた。


「今すぐ追いなさい馬鹿!」


 ラインハルトはセレナを地面に立たせ、アレックスの顔とセレナの顔を交互に見た。


 セレナがため息混じりに柔らかな表情に戻した。


「逃げないし、ちゃんと説明してあげるから。早く行ってきなさい!」


 アレックスが拳を握りしめて叫んだ。


「とにかく謝れ! 理由は関係ない! 謝れ! それだけだ!」


 ラインハルトの瞳に、珍しく焦りが宿った。


「分かった!」


 足に魔力を込め、風をまとう。

 さらに雷魔法を全身に巡らせ、筋肉を極限まで強化。


 地面を強く踏み込んだ。


 ラインハルトの体が視界から消えた。

 これまで出した中で、最も高い速度。


 風を切り、雷を纏い、ただ一心にヴィオレットの背中を追う。


 残されたセレナが、額の血を拭いながら静かに言った。


「まだ……あんなものも隠してたのね」


 アレックスが苦笑を浮かべてセレナを見た。


「あなたは確か……セレナ・フォン・クロイツィンガー先輩でしたよね」


 セレナは優雅に会釈した。


「カップルが帰ってきたら、ちゃんと話すわ」


 演習場の喧騒が、再びざわめき始めた。


 誰もが、同じことを思っていた。


 ──あのラインハルトが、あんなに必死な顔をするなんて。


 広場の端で、ヴィオレットの小さな背中が、涙を零しながら遠ざかっていく。


 新たな誤解と、初めての本気の恋の試練が、今始まろうとしていた。


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