第4話
やがて自室の扉に辿り着き、重厚な木の扉を押し開けた。
自室に入り、扉を閉める。
靴を脱ぎ、ベッドに寝転がった。
天蓋付きの豪奢なベッド。
背中に広がるのは、ふわりとした羽毛の感触と、柔らかな絹のシーツ。
「これは驚いたな……。知っているよりも、ずっと心地よい」
ラインハルトは天蓋を見上げながら、目を閉じた。
「気を抜き過ぎているな、僕は」
独白は、ラインハルトの口調に戻っていた。
隙を見せれば、すぐにボロが出る。
兵法家の本能が、警鐘を鳴らしていた。
目を閉じると、耳に波音が聞こえた気がした。
「……いや、違う」
聞こえているのは、庭園の噴水の水音だった。
武蔵は、深い眠りに落ちた。
目を覚ましたのは、侍女の入室の気配だった。
ラインハルトは横たわったまま、足音と扉の前で立ち止まる気配を捉えていた。
コンコン。
軽やかなノックが響く。
「坊ちゃま。お目覚めでしょうか。奥様がお待ちです」
若い侍女の声だった。
声にわずかな緊張が混じっている。
おそらく、報酬の「異変」をまだ引きずっているのだろう。
ラインハルトは体を起こした。
「入ってよい」
短く答えると、扉が開いた。
侍女は銀の盆に支度道具を載せ、控えめに頭を下げて入ってきた。
長い黒髪を三つ編みにまとめ、制服のエプロンが清潔に整えられている。
年齢は十七か十八か。
名はエリナ。
エリナはベッドサイドに跪き、慣れた手つきでラインハルトの寝乱れた髪を梳き、制服の襟を整えた。
鏡の前で軽く顔を洗わせ、ネクタイを締め直す。
その間、彼女は何度もちらりとこちらの顔を窺っている。
「……坊ちゃま、今日はお一人でご帰宅でしたよね」
遠慮がちな問いだった。
ラインハルトは鏡の中の自分──金色の髪と青い瞳の少年──を見据えたまま、答えた。
「気にするな」
エリナは息を呑み、それ以上は聞かなかった。
ただ最後に口元を優しく緩めて、「では、ご案内いたします」と頭を下げた。




