第39話
ダンジョン四階層──広大な空洞に、重厚な石の門がそびえ立っていた。
門の表面には古い魔術文字が刻まれ、淡い青白い光が脈打つように輝いている。
周囲の生徒たちは緊張した面持ちで列をなしていたが、上級生たちは小声でペアの相手に指示を出したり、経験を共有したりしていた。
「最初は距離を取れ」
「真正面から狙うなよ」
そんな囁きがあちこちで交わされ、張り詰めた空気をさらに重くしていた。
その中で、ラインハルトは少し離れた場所から門の仕組みを観察していた。
ふと視線を巡らせると、遠くの列の端にヴィオレットの姿が見えた。
彼女は不安げにこちらを見ている。
目が合いそうになった瞬間──横から銀色の髪がすっと視界を遮った。
「ダンジョンの中で余計なことに現を抜かすのはご法度よ?」
セレナが微笑みながら、わざとらしく体を寄せて囁いた。
ラインハルトは一瞬言葉を失い、それから小さく息を吐いた。
「……忠告、感謝します」
一人の上級生が門に手を触れる。
魔力が渦を巻き、門が開く。
中へ踏み込むと同時に、門が再び閉まり──表面に赤い光がぽっと点灯した。
その光は徐々に強まり、脈動するように明滅を繰り返す。
やがて暗くなり、次の生徒が前に出る。
繰り返されるサイクル。
まるで内部の何かが「消化」されているかのように。
(あの赤い光は……魔力の残量を示しているのか? それとも、内部の状況を警告するものか。一度入ったら、すぐには出られない仕組み……か)
ラインハルトは門に注目したまま、低く尋ねた。
「あの奥には、何があるんですか?」
セレナは、首を傾げた。
「……知りたい?」
「集団で入らない以上、強大な個か何かがいるのだろうとは思っています」
「さすがね。あの奥には、ボスと呼ばれるモンスターが存在しているわ。中級魔法が使えるなら、突破できる程度よ」
「……中級ですか」
「あなたには関係ないんでしょうけどね」
「……セレナ先輩は、中級魔法と初級魔法の違いを、どう思いますか?」
セレナは、少し間を置いて、答えた。
「そうね……中級魔法は、初級より範囲が広く、形態も変えられるわ。でもね、威力という意味では……似たようなものよ」
ラインハルトの眉が動いた。
「……では、なぜ皆あれほど中級を重視するのでしょうか?」
セレナは、ラインハルトの横顔を覗き込むように近づいた。
「強さって、威力だけじゃないでしょう? あなたのオリジナル魔法みたいに」
ラインハルトは頷いた。
「種子島と呼んでいます」
「そう……タネガシマね。……あの魔法は威力よりも……音と衝撃、放たれる迫力にこそ効果があるわね」
「そうですね。実際、そのように運用されていました」
セレナは満足げに目を細めて、声を少し低く落とした。
「あら、オリジナルって訳でもないのね。まぁいいわ。つまり中級魔法はその見た目を変質させることで、畏怖を与えるのよ。王家がドラゴンを用いるようにね」
「技の威力を重視しているわけでなく、戦場における象徴であると」
「賢い子は大好きよ……」
その言葉に、ラインハルトの視線がセレナに向く。
セレナは門の方を指さした。
赤い光が再び暗くなり、次の生徒が入る番が近づいていた。
「さぁ、もうすぐ私たちの番よ」




