第36話
ダンジョンに入ってから時間が経ち、一階層の通路はすでに半分以上踏破されていた。
ゴブリンの死体があちこちに転がり、壁に刻まれた古い魔術文字が淡く輝く中、ラインハルトは黙々と進んでいた。
枝分かれする分岐を片っ端から確認し、隠し部屋らしき場所があれば土魔法で壁を薄く削って中を覗き、宝箱があればトラップをすべて看破・解除してから中身を回収する。
当然のように、すべてを完璧にこなしていた。
ある分岐の奥、壁の薄い部分を削ると、小さな隠し部屋が現れた。
中には古びた木箱が一つ。
ラインハルトは即座にトラップを解除し、蓋を開ける。
中身は、小瓶に入った赤い液体──回復ポーションだった。
魔力が濃く満ちている上質なものだ。
ラインハルトはそれを手に取り、無言で後ろを振り返った。
セレナに、当然のように差し出す。
「……先輩。これ、使ってください」
セレナは少し遅れて近づいてきて、目を丸くした。
「え……私に?」
「味方の回復は優先事項です。魔力消費が激しいでしょう?」
セレナは一瞬言葉を失い、それからくすりと笑って受け取った。
「……ありがとう。でも、あなたこそ必要じゃないの?」
ラインハルトは首を振る。
「僕はまだ余裕があります。それに、探索は続きますから」
セレナはポーションを懐にしまいながら、横顔を窺うように見つめた。
最初は興味深そうだった表情が、だんだん複雑な色を帯びてきた。
その後も探索は続き、別の宝箱から魔力回復の青いポーションを見つけた時も、ラインハルトは迷わずセレナに差し出した。
「……また?」
「当然です」
セレナは受け取りながら、小さくため息をついた。
「……ねえ、そろそろ二階層に降りない?」
セレナが、ため息混じりに声をかけた。
ラインハルトは足を止め、振り返る。
「敵の棲家を知らずして、どうして奥へ進めるのでしょうか?」
セレナは呆れたように笑った。
「他の皆はもう下に行っているわよ? 時間制限もあるんだから」
「……それもそうか。わかりました、降りましょう」
ラインハルトはそう言うと、すでに場所を把握していた二階層への階段を迷いなく下りていく。




