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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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35/50

第35話

 二人が転移を終え、ダンジョン一階層の石造りの通路に足を踏み出した直後。


 薄暗い天井から、複数の気配が降ってきた。


 緑色の肌をした小柄な魔物──ゴブリンだ。


 粗末な棍棒や石斧を握り、黄色い牙を剥いて飛びかかってくる。


 五匹、六匹……群れを成して襲撃してくる。


 セレナが杖を構えようとしたその時。


 ラインハルトは右手を翳した。


「ウィンド・カッター」


 短い詠唱。


 薄く、鋭く、ほとんど視認できないほどの細い軌跡を描いて、虚空を裂く。


 最前列のゴブリンの首が、音もなく跳ね飛んだ。


 鮮血が噴き出し、胴体が地面に崩れ落ちる。


「……首を落とせば即死か」


 二匹目が棍棒を振り上げて迫る。


 ラインハルトは一歩踏み込み、拳をゴブリンの胴に叩き込んだ。


 鈍い手応え。


 骨が軋み、内臓が潰れる感触。


「人体と大して変わらんな」


 ゴブリンがよろめく隙に、足を払って転ばせる。


 地面に組み伏せ、首を押さえつけて様子を見る。


 ただ身じろぎするだけで、抵抗らしい抵抗はない。


 目には獣のような光しかない。


「人型ではあるが、知性はないようだな」


 ラインハルトは立ち上がり、残りのゴブリンを見据えた。


「お前らはもういい。ウィンド・カッター」


 今度は連鎖するように風の刃が放たれ、残り五匹の首が同時に跳ね上がった。


 鮮血が通路を染め、静寂が訪れる。


 戦闘時間は、数十秒。


 セレナは目を丸くしてそれを見つめていた。


 やがて、息を漏らす。


「……って、あなたに言わなくても大丈夫よね」


 ラインハルトは手を下ろし、死体を見下ろした。


「この辺りはこの程度の実力なのでしょうか?」


 内心では、冷静に分析していた。


(動きが素直すぎる。人の決闘に比べれば、間合いを読むまでもない……これでは的撃ちと変わらんな)


 セレナは銀髪を耳にかける仕草で動揺を隠し、穏やかな顔立ちを取り戻した。


「一階層はね。でも……二階層からは、少し変わってくるわよ」


「そうですか……」


 二人はゴブリンの死体を避けながら、通路の奥へと進んでいった。


 石壁に刻まれた古い魔術文字が、淡く輝いている。


 セレナが、ふと口を開いた。


「さっきの戦い方……本当に見事だったわ。ゴブリンごときに、わざわざ組み付いて確かめるなんて」


 彼女は銀髪を指で弄びながら、横目でラインハルトを窺う。


「まるで、相手の『本質』を見極めてから殺す、みたいな。……あのゲオルクとの決闘の時も、そうだったわよね」


 ラインハルトは足を止めず、淡々と答えた。


「ただの確認です。知性があるか、ないかは戦いにおいて重要ですよね? 不意を突かれると百戦錬磨の戦士も死にますから。それだけです」


 セレナはくすりと笑い、一歩近づいた。


「ふふ、謙遜ね。でも、あなたの魔力の流れ……見てて心地いいわ。乱れがなくて、まるで長年戦ってきた人のそれ。普通の学院生じゃないみたい」


 彼女の瞳が、わずかに輝いた。


 ラインハルトの背筋に、微かな違和感が走る。


(……この感覚。やはり魔力を、読まれている?)


「先輩の目は特別なんですね」


 内心で警鐘が鳴る。


(この女……どこまで見抜いている)


 セレナは首を傾げた。


「褒め言葉として受け取っておくわ。でも、忠告しておく。あなたみたいな『特別な』子は、敵も多くなるのよ? 気を付けて生きていかないとね」


 その時、遠くから低い咆哮が響いた。


 セレナの表情が、少しだけ真剣になった。


「……さあ、行きましょうか。あなたがどれだけやれるのか、見てみたいわ」


「えぇ、楽しみです」


 ラインハルトは静かに頷いた。


 五階層の光玉まで、まだ道は遠い。


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