↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/50

第31話

 少し経ち、二人は運河沿いの小さなカフェテラスに腰を下ろした。


 川面に映る街灯が揺れ、穏やかな風が吹き抜ける。


 アレックスは温かい紅茶を一口飲み、ふと真剣な顔でラインハルトを見た。


「……なあ、ラインハルト。今日、楽しかったか?」


 ラインハルトはカップを置いて、答えた。


「とても」


 その一言に、アレックスの顔がぱっと明るくなった。


 彼は立ち上がり、リリアに目配せする。


 リリアがため息をつきながらも、大きな花束を抱えて近づいてきた。


 黄色の花が美しく束ねられ、リボンが優しく結ばれている。


 アレックスはそれをラインハルトに差し出した。


「これが女性の求める最高のデートプランだ。甘いもの、綺麗なもの、言葉、そして最後に花。覚えておけよ?」


 花束を受け取りながら、ラインハルトは笑った。


「教えてもらったのがお前で良かった」


 アレックスは照れくさそうに頭を掻き、それでも満面の笑みを浮かべてラインハルトを見返した。


 運河の水面に揺れる街灯が、まるで祝福するように瞬いた。


 リリアが控えめに声を掛ける。


「殿下、そろそろお帰りの時間です」


 アレックスは少し名残惜しそうに肩をすくめた。


「わかったよ。じゃあそろそろ帰るか」


 アレックスが踵を返したその時──遠く、建物の影から、奇妙な魔力の揺らぎが走った。


 風とは違う、鋭く、冷たい。


「……殺気か」


 ラインハルトは反射的に地面を蹴り、アレックスに飛びついた。


 二人がいた場所の石畳を、細い針が穿った。


 針は透明で、氷の結晶のように光を反射していた。


 着地と同時に、それは音もなく溶け始め、地面に小さな水溜まりを残すだけ。


 証拠は消え、まるで何もなかったかのように。


 騎士たちが慌てて盾を構え、二人を囲むように身を寄せた。


 リリアは素早く杖を抜き、アレックスとラインハルトに覆いかぶさる形で守る。


 アレックスは目を丸くし、声を低くした。


「いったいなんだ!?」


 ラインハルトは地面に残ったわずかな水溜まりを見下ろした。


「暗殺だ。動くな」


 アレックスの表情が真剣になり、コクッと頷いた。


 騎士たちが素早く周囲を索敵し、建物の屋根や路地を睨みつけたが、既に気配は消えていた。


 氷の針は溶け、魔力の残滓すら薄れていく。


 完璧な手口──証拠を残さない、追跡を許さない。


「安全です。馬車へ!」


 護衛の騎士に守られながら、二人は急ぎ足で馬車に乗り込んだ。


 扉が閉まり、馬車が発進するまで、誰も言葉を発しなかった。



 やがて、エーゼルヴァルト家の屋敷が見えてきた。


 ラインハルトが馬車を降りる際、アレックスが窓から身を乗り出して声をかけた。


「すまないな。俺のせいで……巻き込んでしまった」


 ラインハルトは首を振り、穏やかに唇の端を曲げた。


「とても刺激的だったよ。皇子様」


 アレックスは苦笑を浮かべた。


「元気で何よりだ。……出せ」


 御者に短く告げると、馬車は城へと走り去っていった。


 ラインハルトは屋敷の門前で足を止め、夜空を見上げた。


 満月が、冷たく澄んだ光を降り注いでいる。


「……私が女なら、こういう時に詩でも詠うのだろうな」


 心の中で思い浮かべ、歩き出す。


「あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも」


 古の言葉は、誰にも届かず、ただ夜風に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。