第30話
学院の正門を抜け、二人は街へと向かった。
馬車を降りると、すでに数名の騎士が待機していた。
皇族の外出とあれば、護衛は必須である。
甲冑の胸当てに刻まれたヴァルドリアの紋章が鈍く光る。
アレックスは大股で歩み寄り、片手を上げて笑った。
「いいよ今日は! 友達と遊ぶんだから!」
だが侍女が鋭い視線で進み出る。
「殿下。そんなわけにいきません。最低でも四名は──」
「うるさい! 今日は俺の言うことを聞け!」
アレックスは頬を膨らませながらも、ラインハルトの手をがしっと握り、強引に歩を進めた。
リリアはため息をつきながらも、騎士たちに目配せして距離を取って後を追うよう指示を出す。
街の中心部、商店街の喧騒の中。
アレックスは目を輝かせ、ラインハルトを次々と店へと引っ張り込んでいった。
最初に入ったのは、色とりどりのスイーツが並ぶ小さな菓子店だった。
ガラスケースの中に、宝石のように輝くマカロンやチョコレート細工が所狭しと並んでいる。
ドアのベルが鳴った瞬間、店員の女性が顔を上げて──凍りついた。
「……えっ……殿下……!?」
アレックスはいつもの笑顔で手を振る。
「いいよいいよ、普通にしてて! 今日は友達とプライベートだから!」
店員は慌てて深く頭を下げながらも、震える手でトレイに山盛りのスイーツを載せてきた。
「は、はい! 殿下のお口に合うか分かりませんが……!」
アレックスは得意げに一つを摘み上げた。
「これがオススメ。ローズ風味のマカロン。女性はね、見た目が可愛いだけでテンション上がるんだよ。で、ひと口食べたら『優しい味がするね』って言ってくれる。そこを狙って『君の笑顔みたいだ』って返す。完璧だろ?」
ラインハルトはマカロンを口に運び、頷いた。
「……確かに、見た目が美しい」
次はアクセサリーの小さなブティック。
ガラス棚に並ぶ銀細工の髪飾りや、淡い宝石のペンダント。
店主の老夫婦が顔を上げた瞬間、二人とも同時に膝をついた。
「こ、これは……第一皇子殿下……! 恐れ入ります!」
アレックスは苦笑しながら手を振る。
「ほらほら、立って立って! 今日は俺、ただの客だから! 見せてくれよ、一番いいやつ!」
老夫婦は目を白黒させながらも、震える手で棚から品物を出してきた。
「は、はい! 殿下に相応しい逸品を……!」
アレックスは一つの髪飾りを手に取り、ラインハルトの金髪にそっと当ててみせる。
「こういう小さいけど光るものがいい。高価すぎると重いし、安っぽいと気持ちが伝わらない。で、これを渡すときは『君に似合うと思って』って言う。ポイントは、相手の瞳の色に合わせること。ヴィオレットの場合は紫だから、アメジスト系が鉄板だな」
ラインハルトは鏡に映る自分と髪飾りを見つめ、軽く息を吐いた。
「……何でもいいわけじゃないんだな」
その後も、香水の店、本屋、花屋の前を通りながら、アレックスは次々と「これが女性の喜ぶポイントだ」と熱弁を振るった。




