第29話
貴族決闘から数日が経った放課後。
ラインハルトは教科書を片付け終え、席を立とうとしたその時──隣にどっかりと腰を下ろしたのは、アレックスだった。
そして、一言。
「それで、どうだ? キスくらいはしたのか?」
ラインハルトは手を止めて、アレックスを見た。
「……?」
アレックスは目を丸くした。
「あー、お前はそんな感じじゃないもんな! デートくらいはしたんだろ? 花は送っているか? 手紙はどうだ? 詩の一つでもしたためているのか?」
ラインハルトは首を振った。
「今言われたものは……一切やってないな」
アレックスの表情が、ぴたりと固まった。
顔が凍りついたように動かない。
やがて、彼は両手をテーブルに置き、身を乗り出してきた。
「ラインハルト……いくら女性経験がないとはいえ、それでも貴族か!? 花も贈り物も無しか!?」
ラインハルトは眉を寄せた。
「……必要……なのか?」
アレックスは立ち上がり、ラインハルトの腕を掴んだ。
「よし、ラインハルト。今すぐ俺についてこい」
「いや……このあと用事が」
「今お前にこれ以上の用事はなーい! いいからこい!」
抵抗も許さず、アレックスはラインハルトの腕を引っ張って教室を出て行った。
扉が閉まる音が響き、教室に残った生徒たちが顔を見合わせ、くすくすと笑い始めた。
「皇子殿下、めっちゃ楽しそうだったな」
「ラインハルト様って、本当は殿下のことが!? キャー」
その様子を、教室の端の席から、ユーリウスが眺めていた。
包帯の取れた右腕を軽く握り、複雑な表情を浮かべていた。




