第28話
屋敷に着いたラインハルトは、すぐさま食堂へ連れていかれた。
食堂の扉が開くと、そこにはすでに家族が揃っていた。
長男アルフレートは肘をテーブルに突いて身を乗り出し、明らかにワクワクした表情を隠しきれていない。
母は指先でスカートの裾をぎゅっと握りしめていて、ハラハラが伝わってくる。
長女ソフィアは隣で手を組み、二女マリアンヌと三男ルドルフは椅子に座ったままそわそわしている。
ラインハルトは口を開いた。
「勝ちました」
誰もが息を止めた。
アルフレートが拳をテーブルに叩きつけて叫んだ。
「よっしゃー!!」
母は両手を口に当て、肩を震わせてから、ほっと胸を撫で下ろす。
ソフィアも同じように胸に手を当て、優しい表情を浮かべて。
「やったー!」
マリアンヌは跳ねた。
「兄ちゃん、すごい!」
ルドルフは目を丸くして声を上げた。
(……戦ったことで家族に喜ばれる日がくるとはな)
ラインハルトは内心で苦笑しながら、席に着いた。
母が涙声にならないよう息を整えて、ぱんと手を叩いた。
「では」
その合図に、執事と侍女たちが一斉に動き、豪勢な料理を次々と運び込んできた。
ローストビーフにトリュフの香るスープ、色とりどりの野菜、焼きたてのパン、そしてデザートまで──普段の夕食とは明らかに違う、祝いの膳。
アルフレートがグラスを掲げた。
「お前が勝っても負けても、盛大に祝おうって決めてたんだよ」
母が温かな表情を湛えながら付け加える。
「あなたが無事で、こうして帰ってきてくれただけで……」
ソフィアが少し頬を赤らめて言った。
「本当に……心配したんだから」
マリアンヌが目を輝かせて。
「お兄ちゃんが戦ってるの見てみたかったなー!」
ルドルフが恥ずかしそうに。
「兄ちゃん……かっこいい……」
その言葉が、胸の奥に染み込んだ。
視界が、揺れる。
熱いものが、頰を伝って落ちていく。
(……これは?)
ラインハルトは瞬きを繰り返した。
涙だった。
自分でも驚くほど自然に、止めどなく零れ落ちる。
家族が息を呑む気配がした。
アルフレートがグラスを置く音。
母が立ち上がる気配。
(なぜ、泣いている……?)
熱い。
胸の奥が、締め付けられるように熱い。
(この体の記憶か……。この少年は、ずっと誰にも認められず、『初級魔法しか使えないクズ』と蔑まれ、家族の前でも肩身の狭い思いをしてきた)
「そうか……お前は、褒められたかったんだな」
ラインハルトは目を閉じた。
(それも……そうか)
涙は止まらない。
だが、それは弱さではなかった。
ラインハルトは顔を上げ、家族の表情を真正面から受け止めた。
「……ありがとう、ございます」
その一言に、食堂が再び温かな空気に包まれた。
武蔵は、借り物の体で、初めて「家族」というものを、確かに感じていた。




