第26話
ゲオルクを圧倒した貴族決闘後の教室は、祭りのように大盛り上がりだった。
ラインハルトとアレックス、そしてヴィオレットを囲んで人だかりができ、興奮した声が飛び交っている。
「あの魔法、どうやったんだ!?」
「杖取り上げるとか反則だろ!」
「ガチで略奪愛とか、小説みたい!」
そんな話題で持ちきりだった。
アレックスはいつもの調子で両手を広げ、教室中に響く声で宣言した。
「聞け、皆の者! 二人の間に立ちはだかる障害は、ただの一つとして残っていない! これぞ真実の愛の勝利! ラインハルトとヴィオレットの物語は、ここに新たな章を迎えたのだ!」
女生徒たちが「きゃーっ!」と黄色い声を上げた。
ヴィオレットは顔を真っ赤にして俯き、長い黒髪で表情を隠すようにしていた。
その様子を見ていたアレックスが、ラインハルトにそっと耳打ちした。
「おいラインハルト。お前も男なら、こういう時にすべきことがあるんじゃないのか?」
ラインハルトは言葉に詰まる。
「……だが、僕は……」
ヴィオレットに向き直る。
元は、ただいじめを見過ごせなかっただけ。
自分に降りかかっていた火の粉が、他人に落ちるのが気に入らなかっただけ。
それだけのはずだった。
だが、自分のやってきたことを振り返ってみれば。
(確かに、気障なことをしてしまったものだ)
「借り物の身に、借り物の恋……されどこれもまた道か」
ラインハルトはアレックスを軽く押しのけて前に出た。
そして、ヴィオレットの前で片膝をつく。
生徒たちの興奮が爆発した。
「きゃあああああっ!!」
「マジかよ!?」
「やべえ、最高!」
女生徒たちは目を輝かせて手を叩き、男子生徒たちは拳を振り上げている。
ラインハルトはヴィオレットの右手を取った。
彼女の手は熱を帯びていた。
そしてほんの少しだけ、ぎゅっと握り返してきた。
その小さな仕草に、ラインハルトの胸の奥がかすかに疼いた。
「この勝利を、貴女に捧げます」
静かな、しかし確かな声だった。
「あのっ……そのっ……」
ヴィオレットは声を漏らしながらも、顔を上げてラインハルトを見つめた。
教室は今までの倍の熱狂に包まれた。
その大騒ぎを聞きつけたのか、教師が扉を勢いよく開けて入ってきた。
「皆さん! もう馬車は来ていますよ! 用のない者はさっさと帰りなさい!」
まくし立てる声に、教室が少しずつ静かになっていく。
アレックスはラインハルトの肩をポンと叩き、笑った。
「うまくやれよ」
そう言い残して、クラスメイトを引き連れて去っていった。
ラインハルトは立ち上がり、ヴィオレットに向き直る。
「門まで、お送りいたします」
ヴィオレットは、頰を赤らめたまま、ただ一度、頷いた。




