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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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第25話

 観客席がざわめく。


 アレックスが目を輝かせて叫んだ。


「やっぱりな! まだやってくれる!」


 ヴィオレットは涙を拭い、胸の前で手を固く組んだまま息を呑む。


 ユーリウスは顔を上げ、信じられないという表情で演習場を見つめた。


 ゲオルクが杖を強く握りしめ、魔力を集中させる。


「アイス・ローズ!」


 空中に、美しい氷の薔薇が無数に咲き乱れた。

 鋭い花弁が光を反射し、冷気が演習場を覆う。


 観客席がどっと沸いた。


「中級魔法だぞ……!」

「ゲオルク先輩、本気だ……」


 ラインハルトは風に体を支えられたまま、告げた。


「よかろう。ではそろそろ戦いを始めるか」


 ゲオルクは勝利を確信していた。


「これで終わりだ!」


 薔薇の群れが、ラインハルトへと殺到する。


 ラインハルトは風に体を委ねた。

 肉体を魔法で強引に操る。


 氷の薔薇が目前を掠め、髪の毛を数本削ぎ落とす。


 ラインハルトは風を蹴り、ゲオルクとの距離を一気に詰めた。

 手が届くほどの間合い。


 ゲオルクの目が見開かれる。


「なぜお前らは視認性を上げる」


 ラインハルトは宙に小さな石弾を一つ生成した。

 親指ほどの、細く尖った岩の欠片。


 それを風魔法で包み、音もなく射出する。

 視認できない。

 空気を裂く音すら立てない。


 ゲオルクは眉間の衝撃で初めて攻撃を受けたことに気づいた。


「ぐっ──!?」


 額から鮮血が噴き、ゲオルクの体が後ろへ吹き飛ばされる。

 演習場の端、石畳に背中から激突し、息が詰まる。


 観客席がどよめいた。


「今のは……何だ!?」

「見えなかったぞ……!」


 ラインハルトは風を解き、自身の足で地面に立った。


 体を支えながら、水魔法を展開する。

 透明な水の膜が全身を包み、奇妙に振動し、瞬く間に消えた。


「形態を変えるのであれば、このように魔力操作を行い、全身の按摩に使えば身体の回復も可能になるというのに」


 ゲオルクは額を押さえ、よろよろと体を起こした。

 血が滴り、視界が揺れる。


 ラインハルトは続けた。


「実にもったいないと言えるな。それにだ……ロック・ショット」


 杖を軽く翳す。


 ゲオルクも反射的に唱えた。


「ロック・ショット!」


 二人の杖から、同時に魔力が放たれる。

 だが、ゲオルクの放った岩弾を貫いて飛来したのは、赤い炎の塊だった。


「──!?」


 ラインハルトの炎魔法が貫通し、そのままゲオルグを包み込む。


 観客席がざわめいた。


「今、詠唱とは違う魔法が出なかったか!?」

「聞き間違えだろ……?」


 ラインハルトは説明した。


「杖とは媒体に過ぎん。杖に刻まれた構築式に魔力を送り操作するだけで、このような芸当も可能だ」


 ラインハルトはゲオルクに近づく。


「ああああああ」


 ゲオルクは慌てて水魔法で炎を消し、地面に膝をついて項垂れていた。

 息が荒く、顔が蒼白。


 ラインハルトは冷ややかに見下ろした。


「ただただ魔力を込めればいい? 物量で攻めればいい? お前……私より何年先んじて勉強している? 天才は……努力を惜しまないんだったか? 使えないのではなく、使わないのか? では使ってみろ。今際の際だぞ!」


 ゲオルクが杖を突き出し、上級魔法を放とうと魔力を集中させる。


 だが──その手から杖が消えた。


「なぜ盗られないと?」


 ラインハルトの両手に、二本の杖が握られていた。


 ゲオルクが目を剥く。


「か、返せっ!」


 ラインハルトは首を振った。


「詠唱無しで……魔法も撃てぬとは……」


 両方の杖をゲオルクへと向ける。


「……この状態で撃つのは初めてだな。試してみようではないか。……ロック・ショット」


 二本の杖から、同時に放たれた岩弾は、互いに干渉し合いながら加速・融合し、巨大な一撃へと凝縮される。


 ゲオルクの胸元を直撃。


「がはっ──!」


 衝撃が体を貫き、ゲオルクは再び吹き飛ばされ、場外に叩きつけられた。

 体が硬直し、力なく地面に崩れ落ちる。


 意識が遠のき、視界が暗転する。


「……ふっ、下品な魔法だ」


 ラインハルトはゲオルクの杖を放り投げ、そのまま演習場を後にした。


 学院長が杖を高く掲げた。


「決闘終了! 勝者、ラインハルト・フォン・エーゼルヴァルト!」


 演習場が、熱狂の叫びと拍手に満ちた。


「す、すげえええ!!」

「本当に勝った……!

 あいつ、一年でゲオルク先輩を……!」

「ラインハルト! ラインハルト!!」


 一年生たちの歓声が爆発し、上級生たちは呆然と口を開けたまま拍手を送る。


 モントフォール派の生徒たちは顔を青ざめさせ、第一皇子派は狂喜乱舞していた。


 女生徒たちの黄色い悲鳴が響き、演習場全体が祭りのような熱気に包まれた。


 アレックスが立ち上がり、拳を天に突き上げて叫ぶ。


「やったなラインハルト!!」


 ヴィオレットは涙を浮かべながら、胸の前で手を固く組んでいた。


 ユーリウスは複雑な表情で、背中を見送った。


 去っていくラインハルトの背中は、どこか寂しげだった。

 圧倒的な勝利の後で、ほんの少しだけ孤独を纏っていた。



 観客席の上段、第二皇子派閥の生徒たちが固まる一角。


 四人の上級生が、欄干に肘を乗せ、去っていくラインハルトの背中を見下ろしていた。


「……ふん。あれで勝ったつもりか」


 最初に口を開いたのは、オレンジ髪をオールバックにした長身の三年生。

 声は低く、嘲りが滲んでいる。


「所詮、初級魔法の延長線上だろう。形態変化も上級術式も使わず、小細工で杖を奪っただけだ」


 隣の小柄な生徒が、鼻で笑った。


「ゲオルク先輩が油断しただけですよ。あんなのは貴族の魔法じゃない」


 三人目の、長い銀髪を一つに束ねた女性生徒が、付け加えた。


「だが、あの精度と応用力……放っておけば、第一皇子派の切り札になりかねない。今のうちに潰しておいた方が、後の手間が省けるわ」


 最後の一人──一番年上で、肩幅の広い四年生が、低く言葉を続けた。


「……だが、まだ『本物』じゃない」


 彼は上を見上げ、遠くの空を見やった。


「あの程度なら力でねじ伏せられる。ただそれだけだ」


 四人は互いに意味ありげに目をやり、薄い笑みを浮かべた。


 すでに次の戦いの火種を孕んでいた。


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