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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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第23話

 演習場に緊張だけが残った。


 ゲオルクは動かない。

 ただ杖を軽く構えたまま、薄い笑みを浮かべてラインハルトを見つめている。

 余裕たっぷりに先手を譲っていた。


 ラインハルトは無言で右手を翳した。

 シンプルに、初級の土属性。


「ロック・ショット」


 小さな岩の弾丸が、鋭い音を立てて一直線に飛ぶ。

 ゲオルクの胸元を狙った本気の射撃。


 ゲオルクは動じず、同じく右手を軽く振った。


「ロック・ショット」


 まったく同じタイミング、同じ軌道、同じ威力の岩弾が放たれる。

 二つの弾丸は空中で正面衝突し、粉々に砕け散って土煙を上げた。


 ラインハルトは続けて二弾、三弾と連射。

 ゲオルクも二弾、三弾と正確に合わせて相殺。


 どちらも一歩も動かず、魔力の浪費すら最小限に抑えている。


 ゲオルクの唇が、ニヤニヤと歪んだ笑みを深くする。


 観客席がざわつき始めた。


「……なんだ、あれ」

「完全に読み切ってる……?」

「ゲオルク先輩、余裕すぎるだろ」


 上級生たちの間から、嘲笑混じりの声が漏れる。


「やっぱりゲオルク先輩だな。一年じゃ歯が立たねえよ」


 ラインハルトは内心で舌打ちした。


「消耗戦か……」


 ならば、とラインハルトは距離を保ったまま、『種子島』の準備に入る。

 拳に水の膜を張り、内部に風の刃を仕込み、岩の弾丸を加速させる。

 いつもの手順。


 魔力が集まり、拳全体が微かに脈打つようになった。


 まさにその時だった。


 ゲオルクが初めて動いた。

 左手を軽く翳し、淡い青白い魔力を放つ。


「アイス・ミスト」


 薄い霧のような冷気が、演習場を横切ってラインハルトの右手だけを正確に包み込んだ。

 水の膜に、瞬時に霜が走る。


 白い結晶が表面を覆い、内部にまで冷気が染み込んでいく。


 ラインハルトの眉が動いた。


「……これは」


 水が凍り始め、膨張をコントロールしにくくなる。

 風の刃の回転が鈍り、魔力の流れが凍りついて内部の圧力が上がらなくなる。


 このまま発射すれば、暴発するリスクが一気に跳ね上がる。

 拳の中で、蓄えた力が不安定に揺らぐのを感じた。


「……やるな」


 ラインハルトは肺の熱を外に放ち、種子島の構築を解除した。

 魔力が散り、霜が音もなく蒸発していく。


 ゲオルクが満足げに笑った。


「それは知っている、一年坊主。その魔法は研究済みだ。まさか監視されているとは思わなかっただろう? 戦いとは始まる前から勝負が決まっているんだ!」


 その一言に、ラインハルトの唇の端が上がった。


「あの時の鼠か? 随分と熱心だな、先輩は」


 ゲオルクの目が鋭く細められた。

 だがすぐに笑みを深くする。


「この勝負の価値を考えたら、この程度は大した努力ではない。天才はな、努力を惜しまないから天才なんだよ!」


 ラインハルトが杖を構え直す。


「……初めてお前に共感できたよ」


 アレックスが特別席で立ち上がり、拳を握りしめて身を乗り出している。


「くそっ……ラインハルト! どうしたんだよ!」


 ヴィオレットは両手を胸の前で固く組み、唇を噛んで祈るように演習場を見つめていた。


「勝って……ラインハルト様」


 頰が青ざめている。


 ユーリウスは席の端で俯き、複雑な表情を浮かべて唇を噛んだ。


(……なんで、頑張れるんだよ)


 上級生たちの嘲笑が、はっきりと響き始めた。


「ははっ、見ろよ。あいつの魔法完全に封じられたぞ」

「ゲオルク先輩マジで容赦ねえ」

「終わりだな」


 ゲオルクは杖を軽く回しながら、余裕たっぷりに声を張った。


「さぁ、手詰まりか? どんどん打ってきていいぞ? 初級魔法だけで、どこまで俺を楽しませてくれるかな?」


 演習場に、再び重い息苦しさが広がった。


 ラインハルトはゲオルクを見据えた。


「あぁ……いい。猛る、猛るなぁ」


 顔の輪郭に微かな嘲りの影が差した。


 まだ、始まったばかりだ。


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