第21話
ラインハルトとゲオルクの貴族決闘当日。
午前中の授業から、生徒たちは皆そわそわしていた。
普段は厳格な老魔術師の講師が黒板に術式図を描きながら理論を解説しているはずなのに、今日は声に張りがなく、説明の途中で何度も窓の外──中央演習場の方向──をちらりと見てしまう。
「……したがって、この構築式の階位は……」
講師の言葉が途切れると、教室の後ろの席から小さな囁きが漏れた。
「おい、もうすぐだな……」
「俺楽しみ過ぎて眠れなかったぜ」
「しっ! 聞こえるでしょ!」
女生徒が隣の友人を肘で小突くが、彼女自身も教科書を広げたままページをめくる手を止め、窓の外を盗み見ている。
別の席では、男子生徒が机の下で拳を握りしめながら呟いた。
「貴族決闘が……生で見られるなんてな……」
貴族決闘は、大人であってもそうそうあるものではない。
実際に過去に行われた例は極めて少なく、最後に記録されたのも三十五年前。
帝国北西部の辺境伯家同士の確執が原因だったという。
それほどまでに珍しく、かつ異例なことに、上級生と下級生、二人の貴族子弟が一人の少女を巡って刃を交えようとしている。
しかも敵対する派閥同士。
何かが起ころうとしている。
そんな期待が、学院内外で渦巻いていた。
ある者は言った。
「これは小さな戦争なのだ」と。
その『ある者』がアレックスである確率は、極めて高かった。




