第20話
その頃、校舎裏の人気のない物置小屋。
ユーリウスは膝をつき、腹を押さえながら荒い息を吐いていた。
目の前に立つゲオルクは、氷の結晶を指先で弄びながら、見下ろしている。
「もう一度聞く。お前はあいつと直接やり合ったんだろう? 使える魔法を、すべて教えろ」
「……初級魔法だけ、です……本当に……」
ゲオルクの眉がわずかに動いた。
「タネガシマとはなんだ?」
ユーリウスは唇を震わせた。
顔を上げられず、必死に言葉を濁そうとする。
「その……よく分からなくて……一瞬のことで……」
次の瞬間、腹に鋭い痛みが走った。
氷の槍が、肉を抉らないギリギリのところで突き刺さるように叩き込まれた。
「ぐっ……!」
ユーリウスは地面に崩れ落ち、脂汗を浮かべる。
視界が揺れ、過去の記憶がフラッシュバックする。
──右ストレートが、顔面を真正面から捉える。
「ぐはっ!」
鼻血がぽたぽたと流れ、頰が腫れ上がる。
「お前が追いかけた背中であろう。男なら自身の手で答えを求めろ!」
「力がないなら鍛えろ!」
「技がないなら鍛えろ!」
「心が弱いなら鍛えろ!」
そして最後に──
「強くなれ」
あの時の言葉が、胸の奥で痛いほどに響いた。
(……俺は、まだ)
ゲオルクは静かに近づき、ユーリウスの髪を掴んで顔を上げさせた。
「目の前で見たんだろう? 覚えていることを、すべて言え」
ユーリウスは涙と汗で視界を歪ませながら、心の中で呟いた。
(ごめん……ラインハルト……やっぱり、俺には無理だよ……)
震える声で、うろ覚えのままタネガシマの発動手順を語り始めた。
水の膜、風の回転、岩弾の加速、そして火による蒸気爆発……。
ゲオルクは聞き終えると、指先の氷を霧散させ、薄く笑った。
「ふん……これが噂のタネガシマか。随分と小賢しい」
静かに踵を返す。
「恐るるに足らんな」
決闘まで、あと七日。
学院全体が熱を上げ始めていた。




