第19話
馬車を降り、学院の正門をくぐった途端、熱気が肌を打った。
まだ決闘は一週間も先だというのに、門から校舎までの石畳の道はすでに人で溢れていた。
生徒たちが群れをなし、興奮した声が飛び交っている。
「おい! 決闘だってよ!」
「マジかよ……初めて見るぜ」
「俺はゲオルクに全額賭けたぜ!」
「一年生じゃ無理だろ!」
当然、その中心にいたのはアレックスだった。
周囲にクラスメイトや上級生を数人引き連れ、大声で語っている。
下馬評はすでに出来上がっていた。
ゲオルク勝利が一倍前後。
対するラインハルト勝利は七倍と、ほぼ誰も金を出さない状況だった。
ただし、あの演習場で『種子島』を見た者たちの間では、密かにラインハルトに小銭を賭ける者もちらほら。
上級生は冷笑交じりにゲオルクを推し、一年生は『何かやってくれるかも』という淡い期待を孕んでいた。
ラインハルトを認めると、アレックスが近づいてきた。
ラインハルトが先に口を開いた。
「なんだこれは。あまりいい気分ではないぞ」
アレックスがラインハルトの肩をポンと叩く。
「落ち着けラインハルト」
「なんだ? 何か言いたげだな?」
「こうすることで約束を反故にできないようにしてやろうと思ってな。と言っても第一皇子である俺、その友との決闘だ。中止にするなんて絶対にさせはしないがな」
「……意外と考えているんだな」
「もしかして今馬鹿にされたか?」
「いや、感心したんだ。……ありがとうアレックス」
アレックスが目を丸くし、すぐに大げさに両手を広げた。
「ようやくお前に来た春だ! 俺が花を咲かせてやらねば誰がやる!」
「……かぶいてるなぁ」
「なんだって?」
「格好いいなぁと思ってな」
アレックスが満足げに胸を張った。
「それは周知の事実だろう!」
二人は顔を見合わせて、短く笑い合った。
周囲の生徒たちが、その様子を遠巻きに見守りながら、ますます熱を帯びていく。




