第12話
種子島の一撃から、数日が経っていた。
学院の廊下を歩くラインハルトの周囲は、まるで別世界のようだった。
以前は視線が刺さり、陰口が聞こえ、肩がぶつかるような嫌がらせもあった。
今は違う。
生徒たちはこちらを見ても、すぐに目を逸らす。
挨拶する者も増えた。
「……お、おはよう、ラインハルトくん」
中立派の生徒が、頭を下げた。
「ちゃんと声出せよ」
隣にいた友人が肘で小突き、小声で叱っているのが聞こえた。
ユーリウスをはじめとするモントフォール派の生徒たちも近づいてこない。
廊下の角で、かつての取り巻きの一人とすれ違った。
相手は一瞬目が合ったかと思うと、壁側にぴたりと張り付き、視線を完全に避けた。
「……っ」
小さな、息を呑む音だけが聞こえた。
食堂でアレックスと並んで歩いていると、周囲の生徒たちが自然と道を開けた。
「殿下、ラインハルト様、どうぞ」
「こちら、お席空いてますよ」
誰かが慌てて席を立ち、別の生徒がトレイを持って場所を譲った。
演習場の入り口では、上級生ですら一歩退いた。
「……お先にどうぞ」
視線は地面に落としたまま、決して正面から見ようとはしない。
(結局これが一番手っ取り早い)
ラインハルトは内心で苦笑した。
力を見せつける。
それだけで、世の中の多くは動く。
だが器に貯まった水が溢れるように、人の悪意もまた、こぼれ落ちやすい。
上にぶつからなくなった悪意は、下へ、下へ。
弱い者へと流れる。




