第11話
その日中、アレックスはラインハルトに食いついて離れなかった。
授業中だろうと休み時間だろうと、廊下を歩いているときだろうと関係ない。
「あれはどうやったんだ?」
「俺にもできるのか?」
「なあ、教えてくれよ!」
まるで子犬のようについて回る。
ユーリウスをはじめとするモントフォール派の生徒たちは、アレックスが常にラインハルトの側にいるせいで、嫌がらせの隙すら見つけられずにいた。
そして昼休み。
二人は食堂の隅、窓際のテーブルに並んで座っていた。
アレックスとラインハルトの前にはパンやスープ、山盛りの肉料理。
周囲の生徒たちは遠巻きにこちらを見ながら、ひそひそと噂話を交わしている。
アレックスはスープの匙も置いたまま、身を乗り出してきた。
「なあ、あの魔法には雷属性が入ってなかったけど、何か理由があるのか?」
ラインハルトはパンをちぎりながら、答えた。
「使ってもいい。だが、少し問題があってな」
「なんだ? 何が問題なんだよ?」
「水と雷を密閉された空間で合わせると……毒が出る」
その一言に、テーブルに控えていた二人の侍女が同時に身構えた。
アレックスの侍女──金髪をポニーテールにまとめた凛とした少女、リリアがぴくりと眉を動かして皇子の前に一歩出る。
ラインハルトの侍女、エリナは目を丸くして小さな声で言った。
「ぼ、ぼっちゃん……毒、ですか……?」
リリアが鋭い表情をエリナに向け、エリナも負けじと牽制する。
二人の間に、火花のような空気が走った。
ラインハルトは続けた。
「大丈夫だ。密閉された空間でなければ問題はない」
ラインハルトは付け加えた。
「昔、このラインハルトが試して失敗したらしい」
その言葉に、アレックスがぷっと吹き出した。
「ははっ! 冗談が上手いな、お前!」
大きな声で笑い、テーブルを軽く叩く。
アレックスは急に目を輝かせて身を乗り出した。
「でも、面白そうだな。今度俺も試してみるか! 水と雷を合わせて、どんな毒が出るか見てみたい!」
リリアが慌てて皇子の袖を引いた。
「殿下! 冗談はおやめください! 万が一のことがあったら……!」
ラインハルトは首を振った。
「殿下。毒気は冗談ではない」
アレックスは少し残念そうに肩を落としたが、すぐにまた笑顔に戻った。
「ならいいや! 俺は雷単体で最強を目指す! お前みたいな技をな!」
そう言って、ラインハルトの肩をばしんと叩いた。
ラインハルトは、窓の外を見やった。
(……主君は、相変わらずだな)
食堂の喧騒の中で、二人の会話はまだまだ続きそうだった。
ユーリウスは一人、校舎裏の物置小屋のような場所に呼び出されていた。
薄暗い室内、埃と古い木の匂い。
前に立つのは、第二皇子派閥の上級生だった。
「で? 懐柔はできたんだろうな?」
低く、刺すような声。
ユーリウスは包帯の腕を押さえ、俯いた。
「……あいつ、いつの間にか滅茶苦茶強くなってまして……初級魔法の組み合わせで──」
言いかけた瞬間。
上級生の右手が淡く光り、氷の槍がユーリウスの腹に突き刺さるように叩き込まれた。
「ぐっ……!」
息が詰まり、ユーリウスは膝をつく。
「お前がのんびり構えてたからだろ」
冷たい声。
氷の槍はすぐに霧散したが、腹に残る激痛は消えない。
「我々は第二皇子殿下を何としてでも帝位に就ける。それが役目だろう?」
ユーリウスは唇を噛み、額に汗を浮かべながら答えた。
「……はい」
上級生は鼻で笑い、背を向ける。
「次は結果を出せ。失敗は許さない」
扉が閉まり、ユーリウスは一人、暗闇の中で荒い息を吐いた。
(くそ……なんで……)
悔しさと、どこか別の感情が胸に渦巻く。




