第7話 本国からの返信と、麻痺していく戦場
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「精神論で突撃してくる敵を、圧倒的なテクノロジーと合理的戦術で完封する」というカタルシスを求める皆様に非常に刺さる構成にすることを目指しております。
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「少佐閣下。本国からの定期補給船が到着しました。……郵便袋も届いております」
朝の点呼を終えたカール曹長が、前線指揮所へやってきた。その手には、革製の重厚な鞄が握られている。
「そうか。すぐ検閲を済ませて各員に分配しろ」
レオン少佐は固定具の激痛を押し殺しながら、平然を装って指示を出した。
だが、カールが鞄からひとつの小包と厚みのある封筒を取り出し、レオンのデスクに置くと、その瞳が一瞬揺れた。
本国にいる「彼女」からの返信だった。
「曹長、少し席を外してくれ」
「了解です。俺も田舎のカミさんからの手紙を、ニヤニヤしながら読み込んできます」
カールは目ざとく察し、気遣うようにそっと天幕の幕を引いて外へ出て行った。
一人になったレオンは、震える手で封を切った。
そこには、馴染みのある柔らかな筆跡と、ほんのりと甘い花の香水の匂いが残されていた。
『――レオン。あなたが無事でいることに、神へ感謝を捧げます。
こちら帝都では、新聞が連日「黒竜島での大勝利」を報じています。「我が国の科学の力と合理性が、時代遅れの野蛮な精神主義を打ち破った」と、街行く人々は酒を酌み交わし、万歳を叫んでいます。
けれど、私は恐ろしいのです。
あなたが送ってくれた手紙の端々に漂う、冷たい硝煙の匂いを感じるたびに、あなたが遠くへ行ってしまうような気がして……』
手紙を読み進めるにつれ、レオンの胸に苦い冷気が広がっていく。
戦場の「狂気」は、島の中だけに留まってはいなかった。
血を流さずに勝利した本国の市民たちもまた、画面越し・紙面越しに命の損耗を娯楽として消費し、「無敵の帝国」という虚妄の狂気に酔いしれていたのだ。イグナシオのように命を投げ捨てる側も、それを圧倒的火力で踏みつぶして歓喜する側も、命の尊さを失っている点では同じだった。
「……少佐」
天幕の幕が開き、カール曹長が戻ってきた。その表情は、先ほどとは一転して暗く沈んでいる。
「田舎の手紙にか?」
「……ええ。村長からの連名で手紙が届いてました」
カールは寂しげに苦笑いを浮かべ、自分のポケットに手を突っ込んだ。
「俺の田舎の村でも、今回の『大勝利』のお祝いで、国から特別に小麦の買い上げ価格が引き上げられたそうです。村の奴らは大喜びで、『もっと戦争が長引けばいい、もっと若者を兵隊に出せば村が潤う』って言ってるらしくて……」
カールはぎゅっと拳を握りしめた。
「かつて『命を無駄にするな』と俺たちに教えてくれたあの村長まで、金と勝利の味を覚えて狂っちまった。誰も彼も、他人の子供が遠い島で肉片になってるなんて想像もしないで、自分の腹が膨らめばそれでいいんだ」
「……それが、戦争というシステムの正体だ」
レオンは彼女からの手紙を丁寧に折りたたみ、胸ポケットの最も心臓に近い場所へ収めた。
「人間は、自分が傷つかない場所から他人の死を見る時、最も残酷になれる。イグナシオのような狂信者も、帝都で万歳を叫ぶ市民も、本質は変わらん」
「嫌になりますね……」
カールはポツリと呟き、前線の防衛線の方角を見つめた。
「少佐。俺たちだけは、狂わずにいましょう。どれだけ勝ち続けても、どれだけ相手が馬鹿な突撃をしてきても、『人が死んだ』ってことだけは、笑わずにいましょう」
「ああ。誓おう」
レオンは引きずる足をかばいながら、立ち上がった。
本国の歓声と、戦場の静寂。
その狭間で、二人の兵士はそれぞれの「大切なもの」を胸に抱きながら、冷たい鉄の回廊へと再び歩みを進めるのだった。
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【作者より】
第8話を、この後 7/24 14:40 投稿予定です。よろしくお願いいたします。
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