第19話 軍の事務官の逆召喚 ~誰かがやらなければは地雷~
あれから3月経ちました。15回後の逆召喚儀式魔術です。
「カイト。」
姫さんも元気に魔法陣班が板を並べるところを見ています。
「今日も順番に板を渡して並べていくだけなのね。」
「今日も場所が狭いですからね。」
今日の逆召喚の場所は、軍の建物の近くの通路です。十字路で少し開けていたので、なんとか魔方陣を敷く事ができます。
「詠唱班の皆はいつも通りね。」
「出番が来るまで待っていますね。」
狭いので踊れませんし、城内とは言え、この辺りは近づかないでしょうからね。
「お父様も、もうすぐ帰って来られるのよね。」
「ええ、グロリアス陛下の凱旋が戦闘の終了の合図と言われています。」
最後の戦地からの王様の凱旋、これ以上の象徴は無いでしょう。
「他の皆も殆ど帰って来てるものね。」
「はい、マリアちゃんも無事里帰りが出来ました。」
封印する戦場が無くなったことで、やっと帰すことが出来たんです。
「エクスくんも会いに来てくれたわ。『やっと騎士の挨拶に伺えました。これからは、不要となるまでマリア様の傍で彼女をお守りするつもりです。』って。このままマリアちゃんの護衛騎士になって一生を送るかもね。」
「マリアちゃんは、アンリ殿下と結婚されるそうですからね。一緒に戦場に行った時に仲良くなったそうです。」
お二人ともに初めての遠征でしたからね。初陣同氏で気が合ったんでしょうね。
「上手く行くと良いわね。」
「そうですね。ミーナさんはガーランド殿下と結婚するそうですよ。」
「意外な組み合わせね。」
そうですか?
「封印の旅で良い雰囲気でした様ですし、将来を保証するのに王族との結婚が一番簡単ですから。」
「将来の保証なの。じゃあ他の人達も王族と結婚するの?」
「いえ、シーラさんは本人の希望で教会に入るそうです。」
あちらの世界でも、教会に居たそうですしね。
「教会でも生活の面倒は見てくれるわね。」
「ケイトさんとザンシさんは、まだ各地の出現ポイントの捜索が済んでいませんので、将来の話はその後になります。」
王国内は広いので。
「二人、というか魔物出現ポイントの捜索部隊にとってはまだ戦いが終わっていないのね。」
「ついでに戦後の村や町の調査も兼ねる事になって、忙しくなりました。」
各地の村や町を訪ねるのならついでに、だそうです。
「当分終わりそうにないわね。」
「はい、それ以外の方々は、逆召喚者仕事相談部門で、相手の希望も聞きながら、スキルに合わせて、主に戦闘以外の職場を斡旋しています。」
「手厚いのね。」
ええ、こちらの都合ですが。
「兵士崩れなど、やることが無くなって野盗になる方も多いので。逆召喚者が野盗にならないよう、仕事の斡旋をしています。」
「雇ってくれる人に紹介するのね。」
あちらからの希望ならともかく、一般の方に無理は言えません。
「望む方には斡旋しますが、城で雇いますよ。」
「囲い込み?」
「いえ、一般人に負担をかけずに生活を保障するだけです。例えば、異世界言語理解等を持っている方ならば、書物や文書の翻訳、または通訳として雇えますから。そのような感じで、異能が使える部署で雇って生活を保障していこうと思っています。」
結構潰しの効く異能は多そうですよ、鑑定に亜空間収納に魔法に、いろいろあります。
「そういう能力の無い人はどうするの?」
「村の復興の移民や野盗や魔獣対策の特殊部隊ですね。」
移民は力持ちなら歓迎されますし、特殊部隊は今までと同じ戦闘ですから。
「二つもあるのね。」
「好きな方を選んでもらいます。」
これで野盗になる方が出なければ万々歳です。
「そういえばスコラさんなんだけど。」
「何でしょう」
「あの人魔法塔に行くとやってきて、私が必要なものやお菓子の準備を始めるのだけど、あれが忠誠なの?」
「本来なら、スコラさん自身が、部屋に入れば付き人に研究書物や飲食物の準備をしてもらえる人なんですから、姫様に何も思っていなければそんな真似しませんよ。」
忠誠はともかく、尊敬はされていて、師と仰がれていますね、多分。
「そっかあ。」
「それに騎士の忠誠なら姫様はもう得ていますよ。」
「え?」
当たり前すぎて気付いてないんでしょうね。
「ガーディアさんがキャロライン姫に忠誠を尽くすように、姫様の護衛騎士達は姫様に忠誠を尽くしています。
「でも、ガーディアさんみたいに言われたこと無いわよ。」
「ガーディアさんも本人には言わないかと。例え彼が言うとしても言わない方が普通です。」
あれを普通にしないで下さい。
「そうなの?」
「はい、あまり忠誠を誓う騎士を探されては、今忠誠を誓っている騎士達の立場がないと思いますよ。」
「そう、嫌な思いをさせていたのね、ごめんなさい。」
姫さんは、後ろに付いて来ている護衛騎士達に謝りました。これが出来るのが姫さんの良い所ですね。
「それでスコラさんが逆召喚の魔法陣を姫様以外の人でも使えるようにしたいそうで、姫様に協力を頼みたいそうです。」
「あれ、魔力が大量に必要だから使えないんだけど。」
「それで、複数の人で魔力を流すようにしたいそうです。」
一人なら無理でも、何人かで流せばできるかと。
「その分魔力操作が難しくなるけど、それならできるかも。」
「では、スコラさんに協力していただけますか。」
「いいわよ。」
これで、他の人でも使えるようになりますね。姫さんは魔法に関しては紛れもない天才ですし、スコラさんの知識と合わせれば、必ず出来るでしょう。
「では本日の逆召喚にまいりますか。」
「今日は誰?また誰だか分からない?」
城の中だとそういう事が多くありますね。
「今日は軍の事務官のグルムさんです。」
「また軍の人と思ったら、事務官さんなのね。」
「はい、軍の事務も今忙しいので。」
退役する人や、編成のし直しなど、お仕事は一杯です。
「いつも通り事務の能力が有れば良いのね、さっそく始めましょう。」
皆が所定の位置に着きます。
姫さんが魔法陣に魔力を流すと、魔方陣が淡く光ります。
それを合図に、呪文の詠唱が始まり、詠唱が進むにつれて、光がだんだん強くなります。
詠唱が止むと同時に姫さんが力ある言葉を唱え、唱え終わると、魔方陣の光が目を開けていられないほどになり、眩しい光が皆の視界を奪います。
その光が収まると、少し細めの、姿勢の正しい眼鏡の男が立っていました。
「私は第2王女エルメラと言います。貴方はグルム様ですか?」
「はい、私はグルムですが、ここは、私は帰って来れたのですか。」
「はい、ここはあなたの元居た世界です。」
グルムさんは涙を流しながら、ガシッと姫様の肩を掴みました。
「ありがとう、ありがとう。もう一生あいつのお守りをしないといけないかと思った。」
グルムさんは姫さんに感謝しているようです。害は無いのですが……護衛兵、仕事をして下さい。
「喜んでいただけて嬉しく思います。それで軍の事務に戻っていただきたいのです。」
グルムさんはパッとつかんでいた肩を放すと、飛び退りました。涙も引いたようです。
「嫌です。やっとあのバカの後始末から逃れたと思ったら、今度は脳筋どもを怒鳴りつけて書類出させる仕事なんて嫌です。」
何か凄い言い様ですが、軍の事務ってそんなに大変なのですか?
「でも、元はやられていたのですよね。誰かがやらないといけない仕事で…「私がやらなくても良いでしょう!その言葉であのバカ勇者の後始末を押し付けられて、少女を助けるとか言って、勝手に暴れて壊した損害賠償に被害各所へのお詫びに飛び回って、あんな仕事はもう嫌だ。」
あれ、地雷でしたか。
「あの、グルムさん?」
「後の事を考えない暴力に散財。ひと月分の生活費を貰った途端、赤の他人の借金に全額つぎ込んだ挙句、歓迎会と称してどんちゃん騒ぎ。」
「ぐーるーむーさーん?」
完全に自分の世界に入ってますね、姫さんの言葉も耳に入っていません。
「注意したら『あの子が可哀そうじゃないの』とか『人の心が無いのか』だの取り巻きと言いたい放題。なら自分で金を稼げ!そうだ、あいつらの分まで稼いでいたんだ。私一人の食い扶持ぐらい簡単に…」
しまった、いけない方向に行っています。えーい、ままよ。
「独立するならまず除隊届をお願いします!」
「あ、そうですね。」
よし自分の世界解除。
「グレイさんの場合、逆召喚者仕事相談部門で仕事の斡旋が受けられるので、相談してみてください。貴方のスキルで可能な仕事をお教えしています。思いもかけない可能性が見つかるかもしれませんよ。」
「なるほど。」
感触良いですね。このまま。
「はい、受けたとしても就職しないでも良いですし。」
「では除隊後、相談してみますか。」
「お待ちしています。」
まずは除隊の為、グルムさんは軍の事務所へと向かって行きました。
このまま仕事の斡旋も受けていただけると助かります。
「ねえカイト。」
「なんでしょうか。」
「あの人、村の復興の移民か野盗や魔獣対策の特殊部隊?」
姫さん分かっていたんですね。あれで生活に失敗すると野盗一直線です。
「実戦経験がないので、村の復興の移民でしょうか。もしくは何か良いスキルがあるかもしれませんよ。」
「野盗にならないと良いわね。」
ええそれだけは止めて欲しいですね。
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