第20話 王族の逆召喚 ~これが最後の逆召喚です~
あれから1週間経ちました。次の逆召喚儀式魔術です。
そして、これが最後の逆召喚儀式魔術です。
今後、他の人達がやるかもしれませんが、この部隊で行ってきた一連の逆召喚儀式魔術は最後でしょう。
思えば早いものです。姫さんと出会ったのは2年ほど前になりますか、城の一室で姫さんに引き合わされました。
『初めましてエルメラ姫様、カイト=エンゲルと申します。これから一生、エルメラ姫様のパートナーとして、隣に立つことになります。』
あの時の姫さんはとても綺麗でした。黒い絹糸の様な艶やかな髪、サファイアの様な輝く瞳、陶磁器の様な真っ白な肌、桜色に色付く頬、ふっくらとした桃色の唇、天才職人が作り上げた人形の様でした。口を開くまでは。
(……ト。)
『カイトって言うの?これからよろしくね。それでカイトは何が出来るの?』
口を開くと同時に、瞳はキラキラと輝き、表情も生き生きと変わる人間になりました。と同時にその勢いに押されて答えてしまいました。
『何がですか?取り敢えず事務の統括でしょうか。私とエルメラ姫様の2人がいれば、奥の禁書庫への扉が開く筈ですが…』
『それはいいわね!さあ行くわよ!』
と言うと、私の手をつかみました。
『行くってどこへ。』
『禁書庫に決まってるじゃない。』
(…イト。)
そして姫さんに手を取られて、奥の禁書庫へと連れて行かれたのは懐かしい思い出です。
「カイト!」
目の前に姫さんがいます。
「あれ?姫様どうかしましたか?」
「どうしましたか?じゃないわ。何度呼んでも返事してくれないから。」
少しむくれています。かわいいですね。
「それはすみません。それで何か。」
「いつものよ。魔法陣を並べる人たち、今日はスキップしてるんだけど。」
「板を片手で持って振っていますね。」
スキップしながら板を上に上げて、タンバリンの様に振っています。軽やかですね。
「それより、ここは城の庭園でしょう。いつもならす所からあの人たちがやっていて、草花を踏み固めたりしていたのに、今日は草花が初めから無いわ。」
「王宮庭師の皆様に、前日に魔方陣を敷く範囲の草花を移動して、いただきました。」
明日にはまた植え直す予定らしいです。
「それから、音楽が鳴っているの。」
「今日は最後の逆召喚になりますので、王室楽団の方々が音楽を奏でて下さることになりました。」
宮廷楽団が1団体、なかなか贅沢です。
「お城の中だから王室楽団が居てもおかしくないけど。今まで音楽は入れて無かったのに何故?」
「音を出す大道芸人を断っていたので、こちらも音を出せなかったのです。今日は城の中でなので、音楽を奏でることが出来ました。」
見物客が居ないから自由に出来ます。
「それで詠唱班の皆も音楽にあわせて踊っているの?」
「ええ、別々の音楽を流すには近すぎますので、同じ音楽で踊っていただくことになりました。」
音に合わせて踊る姿は、踏み込みにぶれもなく、しっかり大地を踏みしめています。今なら足を上げる振りを加えても、転ぶ人も居ないかもしれませんね。
「そう最後だからなのね。」
「ええ、グロリアス陛下も凱旋されました。全ての戦地で出現ポイントの封印も終わっています。」
グロリアス陛下の凱旋は、それはもう賑やかなものでした。周りの人達も戦いの終わりを噛み締めていた様です。
「そういえば、もう戦闘も収まっているし、皆戻ってきているのに、何故逆召喚をするの?ここだと文官でもないでしょう?」
ここは城の奥、王族の許可無くして立ち入り禁止の庭園ですからね。文官はこの辺りまでは来ません。
「逆召喚するのは姫様の従妹のフレデリック殿下です」
「フレデリック兄様召喚されてたの?ふらっと何処かに行ってると思ってたわ。」
皆、そう思っていたんですよね。
「いつもの様に何処かに旅に出て、そのまま何処かの戦場に参戦している物と思われていたのですが、皆帰ってきてどこの戦場にもいないと分かったので。」
「それで念のために調べてみたら召喚されていたと。」
その通りです。城の中を調べた者も、立ち入り禁止区域は調べませんでしたからね。
「フレデリック殿下は王族でも有りますし、文武両道、事務仕事にも長けていますからこれからの戦力にもなります。逆召喚しない手は無いかと。」
「うん、フレデリック兄様には帰ってきて欲しいものね。」
皆の本音もそっちでしょうね。
「それに、フレデリック殿下なら彼女も恋人も婚約者も妻も子供も居ませんし、筋を通される所も有りますから、お礼に結婚してくれるかもしれませんよ。」
「えええええ、それは嫌あ。」
あれ?そうなんです?
「何故です?姫様とフレデリック殿下は従妹同士で問題もありませんし、王族の中でも仲が良かったとお聞きしていますが。」
「ええ、兄様といるのは面白いし、楽しいわよ。でも美人過ぎるの。」
顔が良いからお断りですか。
「整ってますし、中性的ですが、男の外見は余り関係ないかと。」
「関係あるわ、兄様のせいで別れたカップルも沢山居るわ。」
「フレデリック殿下は見初められただけで、アプローチどころか声も掛けていなかったかと。」
それで責めるのはフレデリック様に悪いですよ。
「兄様が何もしていないのは知っているわ。でも婚約が解消された人も何人もいるのよ。」
「それは、解消された彼らには気の毒ですが…」
「彼らじゃないわ、彼女達よ。」
はい?
「男性に見初められたのですか。」
「もちろん女性もいるけど、そちらの方が少ないのよ。」
「フレデリック殿下にその気はないと思いますよ。」
単に見初められて、気の毒な方かと。
「それは分かってるわ。でも旦那を巡って、男の人と恋の鞘当てはしたくないのよ。」
「それは…まあ。結婚は無くとも、逆召喚はしないと困りますので。」
「そうね、逆召喚しましょう。」
皆が所定の位置に着きます。
姫さんが魔法陣に魔力を流すと、魔方陣が淡く光ります。
それを合図に、呪文の詠唱が始まり、詠唱が進むにつれて、光がだんだん強くなります。
詠唱が止むと同時に姫さんが力ある言葉を唱え、唱え終わると、魔方陣の光が目を開けていられないほどになり、眩しい光が皆の視界を奪います。
光が収まると、女性の様に美しい、中性的なフレデリック殿下が佇んでいました。
「フレディック兄様お帰りなさい。」
「ただいま。エルメラが喚び戻してくれたのかい、ありがとう。」
フレデリック殿下は姫さんの方を向き、笑顔でお礼を言われました。
「エンゲル君、久しぶりだね、エルメラと結婚したのかい?」
「は?」
「エルメラ様には話した途端に断られました。」
姫さんは、私の方を向いて尋ねてきます。
「いつ私が断ったの?」
あれ?自覚が無かったんですか?
「初めて会った時ですよ。『生涯のパートナーになります』と言ったら、仕事のパートナーとかわされました。」
「本当に一生仕事のパートナーとして組むんだと思ったのよ。大体、結婚とか夫婦とか一言も無かったじゃない。」
「無いって、生涯のパートナーって他に意味は無いでしょう。」
生涯のパートナーって結婚相手ですよね?
「仕事のパートナーだってそうよ。大体カイル、そんな遠回しな言葉使って、私が解らなくて結婚しないように狙ったんじゃないの。」
「そんなこと有りませんよ。」
姫さんが予想以上にかわいくてぼーっとしていただけで。
「じゃあ結婚する気あったの?」
「ええ、有りましたよ。」
王家に結婚を命じられて断れると思うほど、命知らずじゃありません。
「じゃあ結婚しましょう。」
「はい?」
何故?
「結婚式挙げましょう。準備は出来てるんでしょう?」
「ええ、万が一フレデリック様と結婚となったときに気が変わらないうちに挙げてしまおうと…てなんで相手が私なんですか?」
「いいじゃない、もともと私と結婚しようと思ってたんでしょう?」
あれ?襟首に力が掛かって後ろに引きずられてます。どこに行くんですかそっちは結婚式会場ですよ?
「結婚ならまずグロリアス陛下に許可を頂かないと。」
王族の結婚式です。王様の許可が必要です。
「全権委任状貰ってるから大丈夫。」
それ、こんな時に使う物じゃありません。
「帰ってるんだから許可貰って下さい。それからアンゼローネ姫を呼んで、式を執り行うようお願いしないと。」
王家の結婚式です。ちゃんと神聖術が使える方に儀式を執り行ってもらう必要が有ります。
「式なら、今回の転移で私も執り行えるようになりましたよ。」
フレデリック殿下、余計な事をおっしゃらないで下さい。
「呼ばないと皆から怒られますよ、せめて知らせないと。」
「後で知らせるから大丈夫。」
それ、後で説教大会が始まるやつですよ。
「そんなに急がなくても、ちゃんと相手を選んだ方が良いですよ。」
「えり好みしてると相手がいなくなるって、この前いってた。」
ええ言いましたね、言いましたけど。
「なんで私なんですか。」
「一生一緒にいてくれるんでしょ。」
「え?そ、そりゃいます…けれど…」
一緒にいて良いんですか。
「じゃ、決定!」
「え~~」
そこ!何の音楽を奏でているんですか!私は売られていないし、牛でもありません!
ちょっと!結婚式会場で何で結婚〇進曲が流れているんですか!
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