第16話 ??その1の逆召喚 ~苦手なものは人それぞれ~
あれから1週間経ちました。3回後の逆召喚儀式魔術です。
「カイト。」
姫さんも元気に魔法陣班が魔法陣を描く所を見ています。
「今日は板を並べないのね。」
「場所が狭いですからね。」
今日はお城の通路に描いています。通路の幅はいつもの魔法陣よりも狭く、板は並べられないので、久しぶりの手描きです。
「床に直には描かないのね。」
「床に直接描くと、終わった後が大変ですので。」
床の上に板を敷き、その板に魔方陣を描いています。終わったら板を持ち出すだけですからね。
「詠唱班の人達も、今日は踊らないわね。」
「観客も居ませんし、狭いですから。」
観客は姫さんが居れば良いでしょうが、ここは通路、踊りの振り付けを考えると、2人しか並べないでしょう。
「そういえば、浄化魔法のシーラさんは魔物の出現ポイントの近くに住んでいたザンシさんと共にガーランド殿下への増援部隊に加わりました。」
「アンゼローネの所じゃないの?」
姫さんは、アンゼローネ姫に早く帰ってきて欲しいでしょうが、他にもシーラさんの浄化能力が欲しい所は有りますからね。
「ガーランド殿下の方が以前から戦っていますし、アンデッドを広範囲に浄化できる人が居ませんでしたから。」
より必要な所に送られたんです。
「暫くは城から1日以内の所で逆召喚ね。」
「ええ、まだ1日以内でも召喚された人はいるでしょう。」
まだリストはありますし、彼女持ちの方も混ぜればまだまだいます。
「騎士を逆召喚するためにアンゼローネに戻ってもらう訳にはいかないものね。」
「それでどこかの戦場が破られては終わりです。」
何処か一か所が破られれば、国全体が大変な事になりますからね。
「仕方ないわね、それで今日は誰?」
「分かりません。」
「…また女性で身元を調べていないとか?」
身元を調べていないという意味ではそうですね。
「性別も分かりません。城内で召喚されたものが居ないかと、探してみた者がおりまして、偶然、召喚ポイントを見つけました。」
「じゃあ本当に何にも分からないのね。」
「はい、いくつかの推測はできますが。」
ここを通る人を推測しただけですが。
「どんな?」
「まず、城内で働くものです。」
「偶然忍び込んだ盗賊なんかが召喚されてたら、その方が驚くわ。」
城に忍び込んだら異世界に飛ばされた。なんて事が起きたら物語になりそうです。
「ですから、城内で働く者、多分男性文官です。」
「今度はとても絞ったわね。何故?」
「この通路の先は男性文官の宿舎なので。」
部屋に帰るもの位しか通らないと思うんですよね。
「夜這いに来た女性でもない限りそうね。」
「それも忍び込んだ盗賊並みに低いかと。」
文官に夜這いをかける暇人も少なそうですし。
「夜這いはともかく訪ねてくることは有るんじゃないの?」
「その前に、仕事が忙しすぎて、部屋に帰らず仕事場で寝ているそうです。部屋に帰るのは週に1度、仕事の能率が落ちないようベッドで寝る為だそうです。」
仕事部屋の近くに文官の1/7の数のベッドを置いたら誰も部屋に帰らなくなりそうです。
「ちょっと文官、忙しすぎ。人間辞めてない?」
「それで、人員補充も上手く行かないので、今回逆召喚することになりました。」
募集しても集まらないんですよね。内情が漏れてはいないとは思うんですが。
「異能要らないのね。封印能力も戦闘能力も。」
「事務能力が有れば他には何も。あ、忙しすぎて彼女はいないそうですよ。」
「それこそ今回はどっちでもいいわよ!」
文官は旦那候補に入っていませんか。
「じゃあ逆召喚始めますか。」
皆が所定の位置に着きます。
姫さんが魔法陣に魔力を流すと、魔方陣が淡く光ります。
それを合図に、呪文の詠唱が始まり、詠唱が進むにつれて、光がだんだん強くなります。
詠唱が止むと同時に姫さんが力ある言葉を唱え、唱え終わると、魔方陣の光が目を開けていられないほどになり、眩しい光が皆の視界を奪います。
その光が収まると、中背で細身の男性が立っていました。
「私は第2王女エルメラと言います。貴方の名前を教えて下さいませんか?」
「お、お姫様。私は文官のジンムと申します。」
「ジンム様、今国内は魔物に襲われて大変な事になっております。お力をお貸し願えませんか?」
「え?あ、あの私は戦いは苦手で…外で…魔物が居る外で休んでも…眠れない…休みたい…」
おや、ちょっと…
「あ、あの、戦っていただかなくても良いので。」
「軍隊に就いて行くのも…落ち着かなくて…いつ魔物に襲われ…うわぁぁぁ嫌だぁぁぁ」
あ、またこの手の人でしたか。では。
「魔物の出ない城内での事務仕事。文官1名募集中でーす。早い者勝ちですよー。」
「応募します!」
「文官1名採用決定です。はい、(サラサラ)この紙を持って事務官のもとへ行って下さい。場所は分かりますね、それでは。」
急ぎ足で向かうジンムさんを後ろから見送りました。
「ありがとう、助かったわ。」
「どういたしまして。」
やっぱり困っていましたか。
「所で、カイト。」
「どうかしましたか?」
他には何もないと思うのですが。
「森のテントで、魔物が来るかもと怯えながら眠るのと、仕事場の机で、終わらない仕事にうなされながら眠るのって、変わらない気がするんだけど。」
「ジンムさんには違うんじゃないですか?私はどちらも経験したことがないので分かりませんが。」
どんなものかは経験しないと分かりませんし、どちらもやりたくありません。
「私もどっちもないわね、やりたくもないし。やっぱり分からないわ。」
「本人が満足なら良いんじゃないですか。」
個人の好みですから。
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